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ソフトを支えるハードの改革 アンサング・シンデレラの挑戦 vol.4

投稿日:2020/05/26更新日:2020/08/06

新型コロナウィルスと現場の最前線で闘っておられる医療従事者のみなさんに、まず心から敬意を表したい。医療従事者は医師や看護師だけではない。本連載「アンサング・シンデレラ」では、縁の下の力持ち(アンサング)であり、なかなかスポットライトの当たらない薬剤師に着目する。薬剤師は、いま日本の厳しい医療財政における減薬と残薬問題の解消に直面しながら患者の健康を守るという重責を担っている。この課題に果敢に挑戦する大賀薬局(福岡県)の取り組みをエクスターナルブランディングとインターナルブランディングの視点から紹介する。

前回は、エクスターナルブランディングにより高まる顧客の期待を超えるために、インターナルブランディングの取り組みとして理念共有による意識改革と“顧客インサイト”のスキル改革を同期化している大賀薬局の実践事例をみてみた。

こうしたソフトの変革を推し進めていくためには、それを後押しするハードの整備も必要となる。今回は、同社がいかにハードの施策にも着手し始めているのか、特に評価の側面と、社員が自発的にアイデアを経営にぶつけられる仕組み作りなどを中心に見てみたい。

減薬促進のためのKPI設定と評価制度の変更

減薬行為は、それだけみれば患者一人当たりの売上を下げることになる。しかし、大賀薬局は、薬を減らし医療費を削減しながら患者の健康ケアを実現するという大義にもとづく行動を貫くことで、より多くの地域住民との絆を強めファンを増やそうとしている。

当然、そのためのKPIが必要となってくる。たとえば、減薬の意識を現場に徹底するための指標としては、「服用薬剤調整支援料」もその一つだ。これは、ポリファーマシー(多剤併用:多くの薬を服用すること)による副作用などの有害事象を起こすことを防ぐために、複数の医療機関から内服薬が合計6種類以上処方されている患者に対し、重複投薬などの解消のための取り組みを薬局薬剤師が行った場合に加算される。大賀薬局でもこの対象となる減薬実績は一年間で大幅に増加しており、同時にそうした改善事例も組織内で定期的に共有するようにしている。

また、内向き志向を打破し、常に顧客である患者を意識するような組織への揺らぎ策として、社内の部門を超えた異動をしやすくするための報酬制度の変更や、Ohga Wayを評価にも反映させるべく制度の見直しにも現在取り組んでいる。

チャレンジ制度

前回紹介した大賀の理念教育や顧客インサイトのスキル教育は、地域でどの薬局よりも一番患者起点で考える意識とスキルを、現場の薬剤師に根付かせるための取り組みである。

 

こうして高まってきた顧客に対する熱いエネルギーを爆発させる仕掛けを作りたいということで、大賀社長は昨年チャレンジ制度を導入した。これは顧客のために自社ができる新たな価値提供の方法を、全スタッフから募るというものだ。

こうした試みは他企業でもよくみられるが、受動的な組織文化が染みついてしまっている大企業の場合、制度を作っても誰も手をあげずに失敗するケースが多い。大賀社長もそれを心配したが、それは杞憂に終わった。7件の応募があり、デジタル技術への対応など、どれも時代の潮流を捉えたユニークな提案が多かった。応募者の中にパートの方が含まれていたことも大賀社長にとってはとてもうれしかった。

ただ、せっかく提案があがってきてもその中身の精査が不十分という理由などで、実行には移されないケースも他企業ではまた多い。しかし、この点についても大賀社長は違う。組織の受け皿をつくり、そのなかでトライ&エラーするなかで精度を磨いていけばよいと考えている。彼の素晴らしい点は、下からの提案から少しでも可能性を見出し、まずやってみようという姿勢をもっていることだ。そして提案に足りない点については、具体的にフィードバックして再度提案者に考えさせるやり方を大事にしている。

現に、7件のほぼすべての提案に対して、受け皿となる組織を決め、提案者が何らかの形で関与できるような人事異動をしている。さらにこの中から事業化されたものが誕生すれば、組織のメンバーは自らの思いを実現できることに喜びを感じ、自立的に考え行動するように変化することが期待できる。

外部人材の登用とトップの経営スタイル

医薬分業の立ち上げのなかで、当初は制度面で守られていた側面もあった薬局業界は、どうしても内向きな供給側の論理で思考しがちだ。大賀社長が、自らが調剤以外のキャリアを歩み視野を拡げてきた経験からも、薬局を常に“外の視点から”客観的に見ることの重要性を強く感じている。

それを変えるために、大賀社長は幹部クラスの外部人材の登用を積極的に行い、井の中の蛙にならないよう常に組織に新たな視点や活力を注入している。「ようやくプロパーの幹部も、外部の人間を受け入れられるようになってきた」とその変化を語る。

さらに前回紹介した、顧客インサイトのトレーニングなどプロパー人材の意識とスキルの改革を現在進行中で行っている。また、従来までの明確な上下関係から生まれてしまう指示待ち文化から、役職者にも「さんづけ」で呼びあうフラットかつ自立的な組織文化への改革に挑んでいる。

VUCAに対応するため、大賀社長の意思決定はとにかく早い。経営幹部の研修にもすべてアテンドし、そこで気づいたことはiPadに必ずメモし、やるべきだと思ったことはその場で即意思決定しアクションに入る。「やってみなければわからない。仮説検証のために早くアクションし、違っていれば変えればいい」。経営幹部からの提案に対しても、全否定するのではなく、何がよくて何が足りないのかを具体的にフィードバックするため、幹部たちもそのプロセスから経営に必要な視座と視野を学ぶことができる。「組織はリーダーの器以上にはならない」。まさにトップ自らがあるべきスタイルを示すことで組織文化の変革に注力をつづけている。

 
vol.1 エクスターナル&インターナルブランディングの同期化 アンサング・シンデレラの挑戦
vol.2 ご当地ヒーローでエクスターナルブランディング! アンサング・シンデレラの挑戦
vol.3 インターナルブランディングは顧客インサイトから! アンサング・シンデレラの挑戦
vol.5 有事のときこそ会社の理念が試される—エクスターナル×インターナルブランディングの深化/進化 アンサング・シンデレラの挑戦

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