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ご当地ヒーローでエクスターナルブランディング!  アンサング・シンデレラの挑戦vol.2

投稿日:2020/04/20更新日:2020/08/06

新型コロナウィルスと現場の最前線で闘っておられる医療従事者のみなさんに、まず心から敬意を表したい。医療従事者は医師や看護師だけではない。本連載「アンサング・シンデレラ」では、縁の下の力持ち(アンサング)であり、なかなかスポットライトの当たらない薬剤師に着目する。薬剤師は、いま日本の厳しい医療財政における減薬と残薬問題の解消に直面しながら患者の健康を守るという重責を担っている。この課題に果敢に挑戦する大賀薬局(福岡県)の取り組みをエクスターナルブランディングとインターナルブランディングの視点から紹介する。

有事下でのオンライン診療の解禁

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、厚生労働省は先月、院内感染などを防ぐため、 初診でもオンライン診療を解禁した。ビデオチャットを用いたオンラインでの診療や電話に基づき、郵送による医薬品の処方を認める。院外処方の病院でも、オンライン診療で医薬品を処方できるように緩和される。ただし、処方前に薬剤師が電話やビデオチャットなどで患者に服薬指導をする必要はある。

非常時の対応ではあるが、初めての診察から処方薬の受け取りまで、すべてネットで完結する。長年の議論を経て規制緩和に大きな一歩を踏み出した形だ。ただ、医師会の中では以前からオンライン初診の誤診リスクを指摘する声は少なくない。現状、オンライン診療への対応医療機関は1200超。全国の医療機関の1%にも満たないのも事実だ。

患者のビッグデータの二次的利用ができるようにすることを考えると、診療から服薬指導までの統一化された標準化規格を前提にしないといけないなどの障害も残るが、今後オンライン診療が平時でも認められるようになれば、この動きは加速していくことになるだろう。それを強く期待したい。

こうした変化がこの有事に一挙に進んでいく中で、患者の利便性の向上、これは薬局が最低限満たさなければならないこととなるだろう。

変化に適応しながらも、自分たちの存在意義に立ち返る

こうしたデジタル技術をベースに加速する規制緩和の中で、減薬と残薬問題の解消により医療費削減+患者の健康ケアを期待されているのが薬剤師であるといってよい。減薬とは、薬剤師から医師への疑義照会によって余分な薬を減らし、患者の健康と医療負担を減らすことだ。

また、残薬解消とは、病気を治癒するために必要な薬をしっかり飲み切ることで健康な状態に回復させ、追加の医療を不要とすることを指す。ただ、どちらも実現するためには薬剤師だけの努力だけでは難しく、薬を服用する患者側の薬に対する知識や意識を教育(薬育)/変革することが不可欠なのだ。

さらにその先には、患者の健康を守るため(治療から予防や健康ケアへ)のベストなソリューションを“個”客の状態に応じて示していく「新たな価値提供のあり方」にチャレンジする必要がある。その土台となるのが、患者からの信頼の獲得、ファン作りを含めたエクスターナルブランディングだ。

その最初の難題を、薬剤戦師というヒーローに託したユニークな地域密着型企業がある。福岡市を中心に店舗展開し約120年の歴史のある調剤の老舗、大賀薬局である。その仕掛け人は、3年前に社長に就任した37歳の大賀崇浩社長だ。大賀社長はミレニアル世代を代表する経営者として、SNSを使ったマーケティングなど、従来までの薬局業界の常識を覆す施策を次々と打ち出している。その代表例が、“薬剤戦師オーガマン”の起用だ。

“薬剤戦師オーガマン”の誕生

大賀社長は、人々への“薬育”を推進するために「残薬問題」に立ち向かう薬剤師のヒーロー オーガマンを誕生させた。子供のころ「仮面ライダー」シリーズが大好きだった社長自らの発案だ。

まず重視したのは子供に向けた薬育。それは、処方された薬を最後まできちんと飲むことの大切さを伝えるものだ。秀逸なのは、そうした薬育を受けた子供たちが、両親やおじいちゃんおばあちゃんに向け、「ずっと健康でいて欲しいからお薬を全部忘れずに飲んでね」と発信するメッセンジャーになってもらうストーリーがそこにあることだ。特に薬を飲み忘れることの多い高齢者にとって、自分の孫は強烈なインフルエンサーとなる。自社のコアターゲット(高齢者)に対するインフルエンサー(孫・子供たち)にオーガマンの熱烈なファンになってもらいながら、薬育を子供から高齢者にも波及させていくという狙いがある。

加えて、大人に向けた薬育は、「薬剤師は、処方量や薬の飲み合わせを確認し、医師と相談して薬を減らすことができる。薬を飲まなくてもいいように生活習慣のアドバイスの他、病気予防のお手伝いをしていく。薬を「増やす」のではなく「減らす」(減薬)――それが薬剤師の使命であることを発信していく」というものだ。

「ずっとこのまちで、あなたとあなたの家族を守る薬局であり続ける」と顧客に約束している大賀薬局は、一連の薬育に関する啓蒙活動を通じて、地域の患者の利用者数を増やしている。それにより薬局には個々の患者の「薬歴情報」が蓄積されるとともに、店舗薬剤師が患者と対面でコミュニケーションするなかで、個々の患者の困りごとなどの生きた情報も加わっていく。地域密着のプラットフォーマーとして、そのビッグデータを活用し、“個”客の状況に応じた様々な健康促進のためのサービスを目指す。それが「薬歴」という患者の重要なデータをもっているプレーヤーの責任ともいえよう。

福岡発の特撮作品「ドゲンジャーズ」の放映へ

今やオーガマンは、引っ張りだこだ。子供の熱狂ぶりはすさまじい。ショーの後には、握手会や記念撮影をしたり、激レアカードや「やくいくてちょう」(一般的な「お薬手帳」の機能に加え、処方された薬が最後まで飲み切れているかを確認できる仕様になっている。前述のとおり、これも今後電子化が進む可能性はある)を配布する。

こうしたオーガマンによる発信は、九州朝日放送系列で「ドゲンジャーズ」というTV番組化され、子供たちの間で多くのファンを増やし、様々なスポンサーもつくようになった。オーガマンへの初期投資はすでに回収し、投資の40倍ほどの広告効果があったとされている。

この番組を通じて、オーガマンの薬育手帳を発展させた番組オリジナルの、ドゲンジャーズの「やくいく手帳」を、福岡だけではなく全国の薬局(オールジャパンドラッグの加盟店をはじめとした希望店舗)に合計100万部無償配布する。これにより、残薬問題の解消と、子供たちが家族の服薬状態をチェックし、家族の健康を守るヒーローになれるというメッセージを発信していく。

大賀社長は、こうした一連の施策を、「ヒーローの街」として福岡の街おこしも意識しながら、SDGsの第3項目「すべての人に健康と福祉を」実現する活動の一環と位置づけている。日本では薬が余っている一方、世界には薬が足りなくて困っている人たちもたくさんいる。グローバルも視野に入れて、薬剤師の世界発信をも将来は考えていると大賀社長は語った。

以上、ポイントは2つ。

①ICT化が進んでいく流れも見据えながら、過渡期であるいま、地域密着型企業だからこそ、医療財政を圧迫する社会課題である残薬問題や減薬、その先にある患者の健康にこだわり、人々の理解と啓蒙を、子供というインフルエンサーをつうじて大人に展開していこうという戦略的SDGsの側面。

②その課題解決を行える唯一無二の存在として、自社を好きになってもらうためのエクスターナルブランディングを、自社の経営資源だけでなくその思いに共感する外部のスポンサー企業を巻き込んで進めている点。これらは興味深い。ただその実現のためには、顧客からの認知/信頼を得るためのエクスターナルブランディングに加え、顧客からの期待を超えるための組織力強化を同時に進める必要がある。

次回はブランディングのもう一つの側面、社内へのインターナルブランディングについて考えてみたい。

 
vol.1 エクスターナル&インターナルブランディングの同期化 アンサング・シンデレラの挑戦
vol.3 インターナルブランディングは顧客インサイトから! アンサング・シンデレラの挑戦
vol.4 ソフトを支えるハードの改革 アンサング・シンデレラの挑戦
vol.5 有事のときこそ会社の理念が試される—エクスターナル×インターナルブランディングの深化/進化 アンサング・シンデレラの挑戦

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