新型コロナウィルスと現場の最前線で闘っておられる医療従事者のみなさんに、まず心から敬意を表したい。医療従事者は医師や看護師だけではない。本連載「アンサング・シンデレラ」では、縁の下の力持ち(アンサング)であり、なかなかスポットライトの当たらない薬剤師に着目する。薬剤師は、いま日本の厳しい医療財政における減薬と残薬問題の解消に直面しながら患者の健康を守るという重責を担っている。この課題に果敢に挑戦する大賀薬局(福岡県)の取り組みをエクスターナルブランディングとインターナルブランディングの視点から紹介する。
有事のときの企業の対応を人々は忘れない
今回の新型コロナウィルス感染では、昼夜を問わず医療現場で闘っている医療従事者のみなさんに世界中からエールが送られた。
阪神淡路大震災のときも、9年前の東日本大震災のときもそうだった。有事のときにはじめて縁の下の力持ちに光があたる。平時のときにはあって当たり前だと社会・消費者から考えられがちなライフラインを守るサービスが、当たり前でなくなるとき。
逆の見方をすると、そうしたサービスに従事する人々や企業は、自らの存在意義を改めて強く確認できるときでもある。また、有事に何を行うのか、どのような意思決定をするのか、有事のときこそ会社の理念が真に試される。
2月末、こんな報道があった。新型コロナウィルス発生でマスクの品薄状態がつづくなか、「マスクと高額商品を抱き合わせ販売している」として某全国ドラッグチェーンが激しく非難を浴びた。当然だろう。独禁法にも抵触しかねない大失態だったと思う。消費者は、有事のときのこうした企業行動を決して忘れない。東日本大震災のときもそうだった。ここで失った地域社会や消費者との信頼関係は簡単には取り戻せない。会社の理念に対する信用を失墜させたからだ。
ここまで4回にわたり紹介してきた大賀薬局は、新型コロナウィルス発生前からエクスターナルブランディングとインターナルブランディングの同期化に地道に取り組んでいたわけだが、では有事のいま、どんな対応をしてきているのだろうか。
新型コロナウィルス発生当初、福岡の店で中国人観光客ばかりがマスクを爆買いしていく状況をみて大賀社長は心配した。自社は「ずっとこのまちで あなたとあなたの家族を守る薬局であり続けます」と地域のお客様に対して約束している。こうして外国人だけに爆買いされると、今後増えてくるであろう日本人のコロナ感染防止目的の需要に応じられない。さらに2~3月にかけて花粉症の季節が来れば、一番マスクが必要になるのは地域住民になるはずだ。そこであえて店頭に置くマスク数もコントロールし、少しでも地域の人たちのもとに行き渡るように配慮した。さらに3月に入ると、「妊婦さん向けマスク無料お渡し」を即実施し(2週間継続)、その後の品薄下では、マスクの妊婦さん向け予約優先販売に切り替えた。また、新型コロナウィルスによる特別措置に即対応するべく、電話による薬の説明や配送も行っている。
エクスターナルブランディングとインターナルブランディングの同期化と深化/進化
医療全体のサプライチェーンのなかで、自分たちが担う機能の部分最適(利益)だけを考えても医療改革は進まない。一方で利益を度外視した慈善事業では持続性がない。最終消費者(患者)も含めた医療のエコシステムのなかで、キャッシュポイントを確保しながら最終価値をいかに最大化させるかという発想が求められる。
その点、今回の大賀薬局の取り組みは、顧客以外のスポンサーから、オーガマンというブランドキャラクターに対する収入なども得ながら、医療の最終受益者である患者の意識改革を子供というインフルエンサーをつうじて促す(エクスターナルブランディング)。そして、同時に、薬への正しい理解をもった患者の期待を超えるべく、自社の薬剤師が意識と技術を高め新たな価値を創造していく(インターナルブランディング)。この同期化をはかり今もその努力を継続している事例として興味深い。あとは、患者がその価値を評価してくれるか、そしてこの連鎖をより強いものにしていけるか、今後の進化に注目していきたい。
with/ afterコロナで人々の生活様式もニーズのプライオリティも間違いなく変化していくだろう。そして、テクノロジーの指数関数的進化が、その価値提供のあり方も大きく変える。そうした変化を見据えたうえで、自社の存在意義や価値観をあらためて問い直してみること。それは、エクスターナルブランディングとインターナルブランディングを深化/進化させることと言い換えてもよい。
vol.1 エクスターナル&インターナルブランディングの同期化 アンサング・シンデレラの挑戦
vol.2 ご当地ヒーローでエクスターナルブランディング! アンサング・シンデレラの挑戦
vol.3 インターナルブランディングは顧客インサイトから! アンサング・シンデレラの挑戦
vol.4 ソフトを支えるハードの改革 アンサング・シンデレラの挑戦