印象的な「盛れ!」というフレーズを、SNSや動画で耳にしたことがある人もいるかもしれない。LuckyFes'26にも出演するJuice=Juiceの楽曲『盛れ!ミ・アモーレ』である。
2025年10月にリリースされた本楽曲は記事執筆時点でSNS総再生回数が約6億回を突破し、「ミュージックステーション」ほかメディアへの出演も相次いで、まさに「盛れミ旋風」が巻き起こっている。この曲をきっかけにグループを知った人も少なくないだろう。

一方で、ビジネスの視点から注目したいのは、足元の話題性そのものだけではない。Juice=Juiceは2013年に結成されたアイドルグループであり、現在に至るまでメンバーの加入・卒業を重ねてきた。結成当初のメンバーは全員がすでに卒業しているが、歌唱や表現を軸としたパフォーマンスへの評価を積み重ね、日本武道館をはじめ、横浜アリーナ、国立代々木競技場第一体育館といった大規模会場での単独公演を重ねている。
筆者がJuice=Juiceを知ったのは約2年前、最後の結成メンバーである植村あかり氏が卒業した前後のことだった。ファン歴としては決して長くないが、この短い期間の中でも、活動再開や新加入を通じ、グループの構成や関係性は変化し続けている。つまり、人が入れ替わりながらも、グループとしての実力や魅力を保ち、さらに更新し続けているのである。
Juice=Juiceのように、日本の女性アイドルグループは卒業・加入によってメンバーを入れ替えながら活動を続けることが多い。メンバーが変わっても、チームとしての強さや文化を保ち、成果につなげられるか。ここには、企業組織にも通じる問いがある。
今回のバズも、突然生まれた一過性の現象というより、企業が変革期を経てブレイクスルーを迎えることがあるように、その蓄積の上にあるものとして見ることができるはずだ。本稿では、現在のJuice=Juiceを支えるリーダーシップを手がかりに、人が入れ替わるチームに必要なことについて考えてみたい。
アイドルと企業組織の共通点「入れ替わり続ける」という課題
前述のように、日本の女性アイドルグループがメンバーを入れ替えながら活動を続けることが多い一方、企業組織でも、チームのメンバーが固定されたまま続くとは限らない。異動、退職、中途入社、新卒配属、育児休業からの復帰などによって、人の入れ替わりは往々にして起こる。むしろ近年は中途採用も広がっており、リクルートワークス研究所の調査によれば、2025年度下半期に中途採用を実施した企業は84.4%と、2013年度下半期以降で最も高い水準[1]となっている。また、2025年度の中途採用では、経験者だけでなく未経験者の採用実績人数も増加している。
中核人材の離脱を乗り越え、新しい人材を受け入れながら組織を動かしていくことは、多くの企業にとって現実的な課題になっている。
アイドルグループも企業組織も、この「人が変わる中で、成果や文化をどう維持するか」という課題を抱えている。特に、各自のパフォーマンスが見えやすいチームでは、一人の加入や卒業、異動や退職が与える影響は大きい。新人が入れば、既存メンバーとの関係性や役割分担を組み直す必要がある。経験豊富なメンバーが抜ければ、それまで暗黙のうちに支えられていた基準や文化を、誰がどのように引き継ぐのかが問われる。
つまり、人が入れ替わるチームにおいて重要なのは、単に新しいメンバーを加えることではない。チームの状態が変わるたびに、必要な支援、目標の示し方、任せ方も変わっていく。だからこそリーダーには、いつも同じ振る舞いを続けるのではなく、チームの状況に応じて関わり方を変えることが求められる。
ここでリーダーが取るべき行動に指針を与えてくれるフレームワークの一つがパス・ゴール理論である。
パス・ゴール理論とは何か
パス・ゴール理論とは、有能なリーダーは部下の目標(ゴール)を達成するまでの道筋(パス)を示し、必要な方向性や支援を与えるという考え方で、1971年にハウスにより発表された。
この理論では競争環境などの「環境要因」と部下の性格や能力といった「適合要因」の2つの組み合わせで、その時に効果的なリーダーの行動は異なると考える。そしてこのリーダーの行動を、以下のように指示型、参加型、支援型、達成志向型の4タイプに分けて定義している。

リーダーの行動 | 特徴 |
|---|---|
指示型 | 課題を達成する方法や工程を具体的に示す。経験が浅いメンバーや、役割が不明確な状況において有効とされる |
参加型 | 意思決定プロセスにメンバーを巻き込み、その意見を取り入れようとする |
支援型 | メンバーの感情的な側面等に配慮し、心理的安全性を高める |
達成志向型 | 高い目標を設定し、メンバーの能力発揮を促しながら挑戦を奨励する |
自律性・経験・能力に応じ、関わりを切り替える
パス・ゴール理論を実践する上では、どのリーダーシップスタイルが正解かではなく、「今この状況・このメンバーには、どのスタイルが最適か」を状況に合わせて判断し、実践していくことが重要である。この違いは、性質の異なる2つの場面を比べるとわかりやすい。
たとえば近年ブームにもなっている、アイドルグループのメンバーを選抜するオーディション番組では、評価者やトレーナーと候補者の権限差が大きく、外側から基準や改善点を示す構造になりやすい。候補者同士の支え合いや自主的なリーダーシップも存在するが、短期間で成果を出す必要がある場面では、候補者の内側から生まれる働きかけよりも、基準や改善点を明確に示す指示型のリーダーシップが機能しやすい。
一方で、Juice=Juiceのように、加入時期や経験値、自律性の異なるメンバーが混然となり、長期的に活動を続けるチームの場合、リーダーには単なる画一的な指示以上の行動が求められる。全員に同じ関わり方をするのではなく、メンバーごとの状態に応じて、支援する、任せる、目標を示すといった関わりを切り替える必要があるのだ。
では、現在のJuice=Juiceから、どのようなリーダーシップのあり方が見えるのだろうか。
Juice=Juiceの現在地をパス・ゴール理論で見る
現在のJuice=Juiceでは、段原瑠々氏がリーダーを務めている。グループの様子を見ていくと、個人やチームの状態に応じて、パス・ゴール理論でいう4つのリーダー行動が使い分けられている様子が見えてくる。
指示型:実務から文化継承まで具体的な指導
まず、経験の浅いメンバーに対しては、指示型に近い関わりがうかがえる。グループ内でも高いスキルを評価されている段原氏は、経験の浅いメンバーに具体的なパフォーマンス技術や、現場でまだ掴めていないであろうマナーや立ち居振る舞いの基準を自ら伝える場面が、レッスンの様子を追った動画などで見受けられる。
業務内容だけでなく、チーム内で大事にしている基準や、判断に迷ったときの考え方といった文化を伝えることもここでは含まれる。
参加型:自律性や能力の高まりに応じ、任せる・頼る
一方、経験を積み、自律性や能力が高まったメンバーに対しては、関わり方が変わる。段原氏は2024年末のブログで、『リーダーとして引っ張りたい気持ちはありつつも、今が一番肩の力が抜けている感覚がある』と述べている。[2] 自分にできることはやりつつ、必要なときには助けを求め、メンバーに任せ頼るという状態だ。
このあり方は、パス・ゴール理論でいえば、参加型のリーダー行動に近い。経験を積んだメンバーには考え、動く余地を渡しているからである。
渡された余地は、メンバーの動きやグループの文化となって表れている。中堅メンバーの一人である松永里愛氏も「後輩に接する際には、考える力を奪わないよう意識し、必要なときにだけ助けるようにしている」と語る[3]。こうした、リーダーがすべてを決めるのではなく、心理的安全性の中で当事者意識が育ちやすくなる教え合い・任せ合いの関係そのものが、メンバーが入れ替わっても受け継がれている、このチームの文化であり、メンバーの能力を発揮しやすくしている。
支援型:安心して踏み出せる関係をつくる
環境や適合要因の状態によっては、できていない部分ばかりが意識され、動きが縮こまるなどのこともある。
その点、段原氏はリーダーとして「褒めることを意識している」と語る[4]。 注意しなければならない場面でも、良かった点を付け加えて渡すようにしているという。結果として、メンバーに自信がつき、歌い方などについて自ら考え、相談してくるようになっている。
こうした関わりは、支援型のリーダー行動にあたる。相手の心理状態に配慮し、安心して取り組める関係をつくることで、示された基準に対する、目指すゴールとして受け取られるようになるのだ。
達成志向型:あえて高い水準を言葉にし、能力を高め続ける
そして現状維持で満足するのではなく、目指す水準を示し、メンバーの力を引き出していく、達成志向型の動きも見受けられる。
『盛れ!ミ・アモーレ』のヒットを経た2026年の年始、段原氏は、より大きなステージやバンドライブへの思いに触れながら「ありえない1年にしよう」という目標をメンバーやスタッフとともに掲げたという[5] [6]。
グループの勢いが増し注目が高まる中、あえて高い水準をリーダーが言葉にして共有する。現状に満足せず、全体で品質や表現を高め続けようとする姿勢が表れているエピソードだが、同時にヒットを通じ各メンバーの能力や自信が高まったところで、効果的にメンバーの意欲を高めることができるリーダー行動と言える。
以上のように、現在のJuice=Juiceに見られるのは、強く引っ張るだけのリーダーシップではない。メンバーやチームの状況を見極め、必要に応じて道筋を示し、支え、任せ、高い目標を共有する。そうした関わり方を選び直しながら、チーム全体で高い水準を目指していくリーダーシップとして捉えられる。
実務への応用――自分のチームの状態を見極める
ここまで、Juice=Juiceの現在の体制を手がかりに、人が入れ替わるチームにおけるリーダーシップを見てきた。では、これを企業組織に置き換えると、どのように考えられるだろうか。
パス・ゴール理論を実務で活用する際にまず大切なのは、「自分はどのタイプのリーダーか」と考えることではない。いまのチームがどのような状態にあり、メンバーが目標に向かううえで何につまずいているのかを見極めることである。
人が入れ替わるチームでは、メンバーの経験値や関係性が変化し続ける。そのため、ある時期に有効だった行動が、別の時期にもそのまま機能するとは限らない。新しい人が入ったとき、ベテランが抜けたとき、メンバーが育ってきたとき、チームの基準を引き上げたいとき。それぞれの局面で、必要な関わり方は変わる。
パス・ゴール理論は、その問いを立てるための手がかりになる。
チームの状態を見極め、必要に応じて道筋を示し、支え、任せ、高い目標を掲げる。そうした関わり方を選び直し続けることで、メンバーが変わっても、一人ひとりが自分の力を発揮し、チームとして前に進む土台ができる。
「盛れ!ミ・アモーレ」における「盛れ!」は、前に出ること、最高の状態で見せること、自分の魅力を発揮することを肯定する言葉として響く。メンバー全員がその言葉を歌う姿には、どこか気高さがある。
その姿は、個々の魅力だけで成り立っているわけではない。必要なときには道筋を示し、支え、任せ、高い基準を共有するリーダーシップがあるからこそ、一人ひとりが自分の力を発揮できる。
そしてその先にこそ、あなたのチームも全員が「盛れ!」と歌えるチームになるのではないだろうか。
【参考文献・出典】
[1]中途採用実態調査(2025年度実績、正規社員)|リクルートワークス研究所
[2]よいお年を! 段原瑠々 _ Juice=Juiceオフィシャルブログ Powered by Ameba
[3]【Juice=Juice工藤由愛&松永里愛ロングインタビュー】紆余曲折を経て変化する二人の絆「おばあちゃんになっても仲良くしていたい」|関西プレス
[4]Juice=Juice 段原瑠々が語る変化の1年 「盛れ!ミ・アモーレ」のバズを経て――リーダーとして向き合う、今|リアルサウンド
[5]【ライブレポート】Juice=Juice、春ツアーファイナル<UP TO 11 MORE! MORE!>で限界突破「ありえない日々を送れてる」|BARKS
[6]MORE!MORE!ありがとう! 段原瑠々 _ Juice=Juiceオフィシャルブログ Powered by Ameba






















