事業創造に必須の考え方――ビジネスモデルとエコシステム

投稿日:2026/09/07

今年9月発売の『グロービスMBAマネジメント・ブック改訂4版』から1章「経営戦略」より「ビジネスモデルとエコシステム」を紹介します。本書は18年ぶりの改訂となり、このシリーズでは近年のビジネス環境を踏まえ新たに書き加えたものを特にピックアップして紹介していきます。

 

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

ビジネスモデルやエコシステム(生態系)は、いまや起業家や経営者にとっては必須の知識と言える。

まずビジネスモデルについて言えば、自社(さらには競合)が「誰に、どのような価値を、どのように提供し、どのように儲けているのか」を理解することは、そのまま競争優位性の構築や成長スピード、あるいは組織のマネジメントなどに大きな影響を与えるからだ。通常のビジネスパーソンにとっても、ビジネスモデルの概念を知っておくことで、自社ならではの戦い方やそのリスクなどをより的確に把握することができる。

エコシステムの発想も近年重要度を増している。どれだけ大企業であっても、顧客のニーズを自社だけで満たすことは難しくなってきているからだ。顧客はもちろん、サプライヤーや補完者(お互いに売上を伸ばしあう関係のプレーヤーのこと)、プラットフォーマーなどとの関係を理解できれば、自社だけを見ていては気づかない機会や脅威も見えてくる。

日々の業務を部分最適で終わらせず、エコシステムあるいは事業全体の中で自分の仕事を位置づけ、より良い判断や提案をするためにも、こうした視点はすべてのビジネスパーソンに必須になってきていると言えるだろう。

◇    ◇    ◇

POINT

企業の競争優位は、個々の製品・サービスの優劣だけでなく、ビジネスモデル全体の設計や、複数の企業が関与するエコシステムの構造によっても左右される。価値創造と価値獲得の仕組みを俯瞰的に捉えることが現代の戦略には不可欠である。

●ビジネスモデルとは何か

ビジネスモデルとは、企業がどのように価値を創造し、顧客に提供し、収益を得るかという仕組み、いわばビジネスの設計図を意味する。対象顧客や製品・サービスそのものだけでなく、価格設定やコスト、活動内容や経営資源などを含めた包括的な概念である。戦略が「どこで、どのように競争するか」という方向性を示すものであるのに対し、ビジネスモデルはその戦略を具体的な収益の仕組みとして実装する役割を担う。優れた戦略であっても、それを支えるビジネスモデルが適切でなければ、十分な成果を上げることはできない。

近年、多くの産業で製品やサービスのコモディティ化が進み差別化が難しくなっているが、ビジネスモデルの違いによって業績に大きな差を生みだすことは可能である。優れたビジネスモデルは、競合にとって模倣しにくく、長期的な収益性を支える重要な基盤となる。ここでは、ビジネスモデルの枠組みを説明するものとして、代表的な2つのモデルを紹介する。

■4つの箱モデル

クレイトン・クリステンセンらが定義した「4つの箱」モデルは、①顧客価値の提供(カスタマー・バリュー・プロポジション)、②利益方程式、③プロセス、④経営資源の4要素で事業の仕組みを整理する枠組みである。価値創出と収益獲得の関係を構造的に把握でき、既存事業の改善や新規事業の検討に有効である(図1参照)。

■ビジネスモデル・キャンバス

アレックス・オスターワルダーらによって開発されたビジネスモデル・キャンバスは、どのように価値を創造し、顧客に届けるかを、顧客セグメントや価値提案、収益の流れ、主要活動など9つのブロックで構成し可視化した枠組みである。事業全体の整合性を俯瞰しやすく、仮説検証を伴う事業設計やチームでの議論に適している(図2参照)。

   

●エコシステム型競争の広がり

近年、デジタル技術の発展などの要因に伴い、単独企業による価値創造が難しくなり、複数の企業や組織が連携するエコシステム型の競争が広がってきている。エコシステムとは、複数の企業が並列、もしくはある中核企業やプラットフォームを中心にして、補完的な製品やサービスを提供する企業群が集まり、全体で協調して価値を創出する構造を指す。昨今のビジネスのレイヤー構造化もこの流れを促進している。レイヤー構造化とは、役割ごとの階層が生じ、各層が専門性を発揮しながら連携することで効率化や顧客にとっての利便性を実現するものだ。エコシステムでは、個別企業が生み出す製品・サービス単体の品質・性能だけでなく、参加者の数や役割分担、相互依存関係が競争力を左右する。

■エコシステムにおける役割

エコシステム戦略においては、自社が所属するエコシステムの中でどのポジションを担うのかを明確にすることが重要である。エコシステム全体の中核として全体を主導する役割を担うのか、特定の機能や領域で価値を提供する補完者となるのかによって、求められる経営資源は大きく異なる。中核企業はルール設計や標準化を通じてエコシステム全体を統合する一方で、大きな投資と責任を負う。補完者は比較的柔軟に参入できる反面、他社への依存度が高くなりやすい。それぞれの立場に応じた戦略的判断が求められる。

■エコシステム戦略のリスクと留意点

エコシステムは強力な競争優位を生む一方でリスクも伴う。特定のプラットフォームへの過度な依存は、交渉力の低下や収益配分の不利につながりうる。また、技術標準や主導権の変化によって、競争環境が急激に変わることもある。特に支配的な中核企業がルールを変更した場合、補完者は事業継続そのものが脅かされることもある。

 


グロービスMBA マネジメント・ブック[改訂4版]
著:グロービス経営大学院 発行日:2026/9/2 価格:3,960円 発行元:ダイヤモンド社

グロービス出版

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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