新たな手法が広がる価格改定
かつては、価格設定は、競合製品の価格を意識しつつ、「利益〇〇%を確保するためには」といった発想で行われることが多かった。こうしたシンプルな価格設定は今でも多く用いられているが、近年ではフリーミアムやサブスクリプションなど、従来の発想とは異なる手法が特にデジタル財を中心に広がっている。
こうした多様な価格設定方法を知っておくことは、マーケターはもちろん、リーダーを目指すビジネスパーソンにとって重要な意味を持つようになってきている。価格の仕組みを工夫することで、顧客の購入ハードルを下げたり、継続利用を促したり、複数の商品を組み合わせて顧客単価を高めたりすることができるからだ。
また、同じ商品やサービスでも、価格設定を工夫するだけで新たな顧客層を開拓し、収益性を大きく改善できる場合もある。フリーミアムなどはその典型だ。かつてDeNAはゲームビジネスにおいてフリーミアムを採用することで50%弱の営業利益率を実現した。
このように多様な価格設定の手法を知っていれば、自社のビジネスモデルや顧客特性に応じて「どうすれば最も利益を出せるか」の選択肢が大きく広がる。また価格設定の知識は、事業そのものを競合と差別化するための重要な武器ともなるのだ。
◇ ◇ ◇
POINT
近年では消費者のニーズに合わせて、無料や安価で商品を試すことができる課金モデルが増えている。特にデジタル財においてその傾向が顕著である。企業は収益を確保するために、多様なモデルをうまく選び、組み合わせる必要がある。
広告モデル
広告モデルとは、サービスを利用するユーザーが直接費用を負担するのではなく、第三者が変わって費用を負担するモデルである。最も身近な例には、地上波の民放テレビがある。地上波民放テレビは、視聴者は無料で番組視聴ができるが、費用を負担しているのはCMを提供するスポンサー企業である。
広告モデルはウェブの世界でも有効な課金モデルである。ニュースサイトの閲覧やSNSの使用が無料であるのも、企業が広告の費用負担をしているためである。こうした広告モデルを生かして、YouTubeのような動画サイトでは、広告を非表示にできる有料プランを用意している。さらにグーグルのような検索エンジンでは、検索結果の表示順位に価値をつけて、上位に表示させたい企業にはスポンサーとして費用を払ってもらうといったモデルもつくっている。
フリーミアム
フリーミアムとは、ベースとなる商品やサービスは無料で提供し、その中の何%かのユーザーが有償のプレミアム製品やサービスを使用することで収益を得る課金モデルである。典型的なものに、オンライングームがある。ゲームは無料でもプレイできるが、対戦型ゲームではすぐに負けてしまい、勝つためにはアイテムを買わなければならない。オンラインストレージサービスも同様に、一定量は使用できるが、容量を増やすには有料プランへの加入が必要となる。企業にとっては、無料サービスの充実、および無料/有料サービスのバランスが大事である。
サブスクリプション
サブスクリプションとは、モノやサービスを買い切るのではなく、利用権を定額で買う(売り手にとっては与える)課金モデルである。モノやサービスを所有せずに好きな時に利用できれば十分という消費者の意識変化を反映したものといえる。ネットフリックスのような動画サービス、ウェブでの雑誌購読など、一定金額(通常は月単位)を払えばさまざまなコンテンツを利用できる。サービス提供企業にとってデジタルサービスは限界費用が非常に低いため、ユーザーが増えてもコスト高にはならず、損益分岐点をいったん超えると高い利益が期待できる。
デジタルの世界で始まったサブスクリプションは、モノの分野にも波及している。月ごとに定額を払えば自動車が利用できる、洋服を借りることができる、化粧品が送られてくるといったサービスなどが登場している。サブスクリプションビジネスで収益を得るためには、顧客の解約率を低く抑え、長く使ってもらう必要があるため、顧客満足度維持のための施策が欠かせない。
バンドリングとアンバンドリング
商品は基本的に単体で値付けをするものだが、複数の製品を組み合わせたり、逆に商品をバラバラにしたりして販売することがある。
バンドリング
関連する2つ以上の製品やサービスを組み合わせ、1つのセットとして提供する販売手法である。消費者にとっては割安感があり、企業としては単体で販売するよりも収益が上がる。もともとファミレスの食事とドリンクバーのセットなどで存在していた仕組みである。デジタルサービスの進化により、アマゾンプライムのように配送料無料、映画や音楽の視聴といった多岐にわたるサービスも登場した。
アンバンドリング
アンバンドリングとは、元は1つになっていたものを消費者のニーズに合わせて組み合わせられるように、バラバラに分けて提供する販売手法である。たとえば、低価格の航空会社では手荷物預けや機内食を別料金として、そのぶん座席を安く販売している。音楽のデジタルサービスでは、以前はアルバム1枚で販売されていたアーティストの楽曲を1曲ずつ購入できるようになった。企業側は、アルバムとして販売するだけでなく、1曲ずつ切り売りできるメリットがあり、消費者にとっては、気に入った曲だけを購入できるメリットがある。バンドリングとアンバンドリングのどちらが適しているかを見極めるためには、業界特性、製品・サービスの特性、競争環境、需要動向を考慮する必要がある。

『グロービスMBA マネジメント・ブック[改訂4版]』
著:グロービス経営大学院 発行日:2026/9/2 価格:3,960円 発行元:ダイヤモンド社


















.png?fm=webp&fit=clip&w=720)
