What:目指すべき状態~「つなげる」のではなく、「元々ひとつだった状態」への回帰~
「経営と人事をどう連動させるか」。多くの企業がこの接続作業に悩む中、そもそも「分断」すら存在せず、最初から完全に一体化して突き進んでいる企業があります。彼らはどのようにしてその状態を維持しているのでしょうか。まずは2つの実践ストーリーを見てみましょう。
【実践事例①】 文化・人事を事業に優先させる意思決定
<iYell株式会社 執行役員CHRO 伊東 拓真 氏>
iYellでは、創業時から経営戦略と文化・人材戦略を連動させることを強く意識しています。その具体的な設計として、人事のトップを常に経営メンバーが担う体制を採用しています。これにより、事業と人事の意思決定の分断を防ぎ、経営判断と組織判断の一貫性を担保するといった効果を生んでいます。
運用上、特徴的なのは、「文化・人事が事業に優先する」という徹底した優先順位付けです。組織が拡大する中で、カルチャーに適合しない人材が増加すると、一定のタイミングで組織から離脱していく可能性が高まります。そのため、組織の純度を維持するという観点から、短期的な事業合理性よりもカルチャーフィットを優先する意思決定を行っています。
この方針を実現する為に、経営理念である「1000年経営」を前提とした、役員を中心に「1000年会議」を日次で実施しています。この会議体では、経営の意思決定と人事の判断基準を常に合わせ続けることで、組織規模が拡大しても「一つのチーム」として経営する状態を維持しています。
スタートアップとして資金調達を行い、急成長する過程では、株主を中心とした外部からの期待の重圧により、事業優先の意思決定を求められる局面も発生します。その際には、経営理念に立ち返る、長期的な企業成長に資するかを問い直す、というプロセスを通じて、意思決定の軸をぶらさないことを重視しています。
また、社員への意思決定の浸透を目的として、理念やカルチャーを体系化した社内冊子を数年に一度作成・リリースしています。これにより、経営の考え方の言語化、組織全体への一貫したメッセージ伝達を実現しています。
【実践事例②】 トップ自身が現場の評価にコミットする
<株式会社SHIFT 人事本部 VPoHR 上岡 隆 氏>
SHIFTの急成長(採用数300名→2500名/年)の背景には、トップ自身が人に強い興味を持ち、事業を動かす駆動装置として”評価会議”を設計していることがあります。社長自ら1000人規模の評価会議に全て参加し、評価するためには一人ひとりの社員の理解が不可欠だということでタレントマネジメントシステムを自社開発し、評価制度自体も半期ごとにダイナミックに変更していく。「ビジネス=人」であり、切り離せない両輪であるからこそ、人材戦略が経営戦略と一体となっているのです。
また評価会議自体が”経営戦略会議”としても機能しており、個を1000人見ることで、組織全体を解像度高く理解することができ、戦略の見直しにもつながっています。
連動ではなく一体化
これら2つのエピソードが示しているのは、私たちが目指すべき理想形が「連動(後からつなぎ合わせるもの)」ではなく、「元々ひとつだった状態への回帰(一体化)」であるという事実です。
創業期を想像してください。創業者は「事業をどう伸ばすか」と「誰を採用し、どう育てるか」を、一つの脳内で同時に思考しています。そこには分断はありません。創業期から経営者たちが「経営戦略と人材戦略の一体化」を徹底している会社には、この分断が起きていません。
しかしながら、多くの日本企業は成長の過程において、組織が拡大し役割が分担・分化される中で、人事は目の前のオペレーションに追われ、経営のスピードに追いつけなくなり後手に回ってしまいがちです。その結果、経営と人事との距離が開き、分断状態に陥ってしまうのです。
つまり、今求められているのは、組織拡大によって切り離されてしまった「経営と人に関する意思決定」を、摩擦を恐れずに再び経営チームの中で「一つ」に統合し直す、地道で根気のいる再構築プロセスと言えます。
青くさい信念と泥くさいプロセス
この再構築をなし遂げるために不可欠な要素として、ARCH研究会での議論において「青くさい信念」と「泥くさいプロセス」という2つのキーワードが浮かび上がりました。
「青くさい信念」とは、企業活動として短期的な利益やビジネスの正解を大切にしながらも、加えて「人はどうあるべきか」「組織はどうあるべきか」という理想や哲学を持つことです。
そして「泥くさいプロセス」とは、人と人が向き合い、摩擦を恐れずに意見をぶつけ合い、妥協点ではなく、スマートな制度設計だけでは解決できない最適なバランスを見つけ出す地道な対話や行動のことです。
iYellの事例で言えば、「1000年会議」という日次の会議体で、経営と人事の判断基準を妥協なくすり合わせ続ける地道な対話が泥くさいプロセスに該当すると考えられます。この泥くさい対話を支えているのは、「社員を安易に甘やかすのではなく、外の厳しい環境でも生き残れるプロフェッショナルに育て上げることこそが真の優しさである」という、伊東氏の人への深い愛情と厳しさを併せ持つ信念でした。
また、SHIFTの事例においては、 1000人規模の評価会議にトップ自身がフルコミットし、「ビジネス=人」という本質から絶対に逃げない姿勢が青くさい信念に該当すると考えられます。このトップの青くさい信念を人事施策として現場に実装し切った上岡氏の根底には、「会社が成長してこそ、人に新たなキャリアや面白い挑戦の機会を提供できる」という事業成長と人の幸せを不可分と捉える価値観と、「仕事とは最後までやり切るものだ」という強い覚悟がありました。
では、経営と人材戦略の一体化を組織が拡大したとしても実現し切るためには何が必要なのでしょうか。次のパートでは、その点について掘り下げていきます。

(次回に続く)
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