店舗開発ノウハウを「外販」するという大胆な一手
フィットネスジム「RIZAP」と、コンビニジム「chocoZAP」を展開するRIZAPグループが、建設関連分野への本格参入を発表したことが注目を集めている。
2025年10月に建設業許可を取得したRIZAPビジネスソリューションズの名称を、26年1月にRIZAP建設株式会社へと社名変更した。
同社はchocoZAPの急速な多店舗展開を実現してきた「店舗開発スキーム」を、外部企業向けに提供・外販するという方針を打ち出した。chocoZAPは2023年1月24日〜2024年1月23日の1年間で1,030店舗をオープンし、そのうち24時間営業の1,020店舗がギネス世界記録認定対象となったことで知られている。
ポイントは、単に出店数が多かったことではなく、費用や工期を大幅に削減することに成功した点だ。
RIZAPは製造工場との直取引、職人の直雇用、専門パートナーへの直発注を組み合わせることで、従来の多重下請け構造に頼らない店舗開発モデルを築いた。
その結果、chocoZAPの出店実績は、内装・資材・什器にかかる費用を通常出店の25〜30%削減、工期に至っては通常の2分の1の短納期を実現したという。
フィットネスと建設業。一見、接点がないように見える二つの領域の接点をどう読み解くか。
単なる多角化戦略と見るのではなく、「自社の資源の価値発揮をどう最大化するか」という問いを立てて、考えてみたい。
この問いを考える際に有効なのが、VRIO分析のフレームワークだ。
VRIO分析とは何か
VRIO分析は、経営学者ジェイ・B・バーニーのリソース・ベースト・ビュー(RBV)研究を背景に発展した、企業の資源・能力を評価するフレームワークだ。
競争優位の源泉を外部環境ではなく、内部資源に焦点を当てることが特徴で、企業が保有する資源や能力を次の4つの問いで評価する。
- V(Value:価値) その資源は、ビジネス上の機会を活かし、リスクを減らし、成果につながるか
- R(Rarity:希少性) その資源は、競合他社が容易に手に入れられないほど希少か
- I(Imitability:模倣困難性) 競合他社が同様の資源を獲得・再現することは難しいか
- O(Organization:組織) その資源を最大限に活用できる組織体制・文化・プロセスが整っているか
これら4つの条件を満たす資源こそが持続的競争優位の源泉になる、というのがVRIO分析の基本的な主張だ。
逆に言えば、価値があっても希少でなければ優位性は一時的なものにとどまり、模倣困難であっても組織が活かしきれなければ宝の持ち腐れとなる。
VRIO分析を通じて浮かび上がる示唆
① 価値(Value)——その資源は本当に優位性に直結しているか
VRIO分析でまず問うべきは、対象となる資源がビジネス上の価値を持つかどうかである。
RIZAPグループの文脈で言えば、「店舗開発スキーム」が価値ある資源かどうかを考える。
その際、十分に考慮すべきは「その資源が顧客の課題解決や競合との差別化に実際に貢献しているか」という点だ。
多店舗展開を目指す小売・サービス業にとって、出店スピードとコスト効率は死活問題である。
もしこのスキームが、物件選定の精度向上・工期の短縮・コストの圧縮といった成果をもたらしているとすれば、それは明確な「価値ある資源」と評価できる。
一方で、例えば同スキームがフィットネス業界にしか適用できない場合、もしくは多方面の業界に適用できたとしても都市部に限定される仕組みであった場合等、価値の大きさは随分と異なってくる。
価値があるか否か、大きいか小さいかの判断は文脈に依存する。
むしろ、すべての資源に一律に価値があるわけではないことを冷静に捉えるべきだ。
資源の価値を環境や競争状況に照らして評価することを求める点が、VRIO分析の誠実な部分とも言える。
② 希少性(Rarity)——競合は同じものを持っているか
次に問うのは、その資源が業界内で希少かどうかだ。
多店舗展開の仕組みを持つ企業は、フィットネス業界に限らず多く存在する。
コンビニエンスストアやドラッグストアチェーンは長年にわたって出店ノウハウを積み重ねており、建設・内装の専門業者とのネットワークも豊富だ。
そうした業界と比較したとき、RIZAPグループのスキームが希少と言えるかどうかは、表層的には判断が難しい。
希少性の評価には、資源の内容だけでなく文脈の組み合わせも重要になってくる。
たとえば、多店舗展開する企業にとって、どの商圏に・どの規模で・どのタイミングで出店すべきかの情報は、喉から手が出るほど欲しい情報だろう。
その判断は難しく、自社だけではなかなか蓄積しにくい。
しかし、1年間で1,030店舗を出店して生まれた高速出店ノウハウに、顧客行動データ等が組み合わされた「知見の束」であれば、希少性は高まるだろう。
VRIO分析において希少性を評価する際は、個別の要素ではなく、資源の組み合わせや束としての希少性に目を向けることが実務的に重要なのだ。
③ 模倣困難性(Imitability)——競合は真似できるか否か
VRIO分析の核心とも言えるのが模倣困難性の評価だ。
資源が価値を持ち希少であっても、すぐに競合に模倣されてしまえば優位性は長続きしない。
模倣を困難にする主な要因として、バーニーは歴史的経緯・因果関係の曖昧さ・社会的複雑性などを挙げている。
わかりやすく言えば、「なぜその企業だけがその強みを持てているのか、外から見ても理由がよくわからない」状態が、模倣困難性の高い資源の特徴だ。
RIZAPグループが短期間に多数の店舗を展開できた背景には、単なるマニュアルや手順書を超えた、組織的な学習や失敗経験の蓄積があるはずだ。
この中で培われた現場の判断力やベンダーとの関係性構築力等は、今後も蓄積される。
後発参入企業が後追いしても、すぐに再現できるものではない上に、差が開いて行く可能性もある。
こうした「時間をかけて蓄積された資源」こそが、模倣困難性の高い資源と評価される。
逆に言えば、スキームの外販を行うことで、競合他社がそのノウハウを間接的に入手できるようになるリスクも生じる。
VRIO分析の観点から言えば、何を開示し、何を社内に留めるかという判断は、「模倣困難性の管理」に直結する重要な経営判断なのだ。
④ 組織(Organization)——資源を活かす体制が整っているか
いかに優れた資源があっても、それを活用し、機能させる組織が整っているか。
これが最後の問いだ。RIZAP建設の事例を確認すると、既存の組織にただ機能を加えるのではなく、専門組織を立ち上げた上で社名変更の判断をしている。
社内のノウハウを外販ビジネスとして成立させるためには、元来のフィットネス事業とは異なるオペレーション体制が必要となるだろう。
恐らくだが、営業・受託・品質管理・顧客対応等、一気通貫した情報連携が必要と判断し、組織要件を整えた可能性は高い。
優れた資源を活かす組織があってこそ、というVRIO分析の現実的な問いに経営者は目を向けなければならない。
VRIO分析を自社に活かすための視点
VRIO分析は、大企業だけのものでは決してない。
中小企業や個人事業においても、自社が持っている本当の強みは何かを問い直すうえで有効なフレームワークだ。
実務で使う際の注意点を挙げるとすれば、以下の3点になる。
- 自社に都合よく評価しない
自社の資源に価値や希少性を見出したい気持ちは自然なものだが、顧客視点・競合視点から客観的に評価することが前提となる - 資源は単体ではなく組み合わせで評価する
個別のスキルや設備よりも、それらが組み合わさった「ケイパビリティ(組織的能力)」として捉えることで、より実態に即した分析になる - 時間軸を意識する
今日の競争優位が永続するとは限らない。VRIOの各要素は環境変化によって変わりうるため、定期的な見直しが必要である
上述の通り、VRIO分析の注意点は、経営者が自社資源を都合よく過大評価したり、逆に過小評価したりすることである。
つまり、経営者が自らにクリティカルな視点を持ち、冷静な判断を下さなければならない。
VRIO分析は、経営者の器、志が問われるフレームワークとも言える。
まとめ
RIZAPグループによる店舗開発スキーム外販の動きは、自社が積み上げてきた資源を改めて棚卸しし、その価値を新たな市場で活かそうとする試みとして解釈できる。
その判断の妥当性を考えるうえで、VRIO分析は有効な問いの枠組みだ。
VRIO分析が教えてくれる本質は、自社の強みが何かを正確に知ることの難しさと重要性だ。
なんとなく強みだと思っていたものが実は競合にも同じく存在する資源だったと気づいたり、大したことはないと軽んじていた社内の慣行や人脈が実は強固な競争優位の源泉だったと発見したりすることがある。
戦略を考える際、市場ニーズ等の外部環境と自社の資源が合致しているか、という観点に目が行きがちだ。
しかし、保有している自社の資源に、価値・希少性・模倣困難性・組織が備わっているだろうか。
戦略の出発点において、VRIO分析の問いを丁寧に検討することが、競争優位構築において有効な手がかりとなるはずだ。

















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