※本記事は、GLOBIS学び放題の学習コース、「5つの力分析 ~業界の収益性を分析する~」の内容をもとにしています。実務で活用する方法など、より詳しく知りたい方は、ぜひ動画をご覧ください。

業界内の競争:競合が多いほど利益は削られやすい
1つ目の力は、同じ業界内にいる競合企業との競争の激しさです。
業界内の競争とは、既存企業同士の敵対関係の強さを指します。競争が激しい業界では、企業は顧客を獲得するために価格を下げたり、広告宣伝費を増やしたり、サービスを過剰に付加したりしがちです。その結果、売上は確保できても利益が残りにくくなります。
特に、業界の成長率が低い場合は注意が必要です。市場全体が大きくならない中で各社がシェアを奪い合うため、競争は激しくなりやすくなります。また、商品やサービスの差別化が難しい業界では、顧客から見ると「どれを選んでも大きく変わらない」状態になり、価格競争に陥りやすくなります。
たとえば、利用者にとって違いが分かりにくいサービスでは、企業が品質向上を訴えても、最終的には価格やキャンペーンで比較されやすくなります。競争の激しさを見る際には、競合の数だけでなく、市場の成長性や差別化のしやすさもあわせて見ることが重要です。
買い手の交渉力:顧客が強いと価格を上げにくくなる
2つ目の力は、商品やサービスを購入する顧客側の交渉力です。
買い手の交渉力とは、顧客やユーザーが売り手に対してどれほど強い立場にあるかを示すものです。買い手の交渉力が強い場合、企業は値引きや追加サービスを求められやすくなり、十分な利益を確保しにくくなります。
買い手の交渉力が強くなる代表的な状況として、購入者が少数の大口顧客に限られている場合があります。売り手にとって特定の顧客への依存度が高いと、その顧客を失うリスクを避けるため、価格や条件面で譲歩せざるを得なくなります。また、顧客が簡単に別の購入先へ切り替えられる場合も、買い手の力は強まります。
これは法人向けビジネスだけでなく、個人向けサービスにも当てはまります。複数のサービスを簡単に比較でき、解約や乗り換えの手間が小さい市場では、企業側が価格を上げることは簡単ではありません。顧客に選択肢が多く、切り替えが容易であるほど、企業の収益性は圧迫されやすいのです。
売り手の交渉力:供給側が強いとコストが上がりやすい
3つ目の力は、部品や原材料、サービスなどを供給する売り手側の交渉力です。
売り手の交渉力とは、企業が仕入れや調達を行う相手との力関係を指します。売り手の力が強い場合、買い手である企業は高い価格を受け入れざるを得なくなり、利益が圧迫されます。売上が伸びていても、仕入れコストや原材料費が上昇すれば、最終的な利益は減少します。
売り手の交渉力が強くなるのは、供給業者が少数に限られている場合や、その供給品が自社の商品・サービスにとって不可欠である場合です。代替できる仕入れ先が少ないほど、買い手側は不利になります。さらに、供給元を変更するために大きな手間やコストがかかる場合も、売り手の力は強まります。
たとえば、ある製品の品質を左右する中核部品を特定の企業からしか調達できない場合、その供給元の価格改定は自社の収益に直結します。売り手の交渉力を見ることは、自社の利益がどれほど外部の供給構造に左右されているかを把握することでもあります。
新規参入の脅威:参入しやすい業界では競争が激化しやすい
4つ目の力は、新しい企業が業界に参入してくる可能性です。
新規参入の脅威とは、新たな競合が市場に入ってくることで競争が激しくなる可能性を意味します。参入企業が増えれば、既存企業は顧客を奪われるリスクにさらされます。その結果、価格競争や広告競争が起こり、業界全体の収益性が低下することがあります。
新規参入のしやすさは、参入障壁の高さによって大きく変わります。参入障壁には、多額の設備投資、法規制、技術の難易度、販売チャネルの確保、既存企業のブランド力などがあります。これらの障壁が高ければ、新しい企業は簡単には参入できません。一方で、初期投資が少なく、顧客獲得の手段も整っている業界では、新規参入が起こりやすくなります。
重要なのは、現在の競合だけを見て安心しないことです。今は競争が穏やかに見えても、参入障壁が低ければ、魅力的な市場には新しい企業が次々と入ってくる可能性があります。業界の将来性を考えるうえでは、「今の競争」だけでなく「これから誰が入ってくるか」を見る必要があります。
代替品の脅威:異なる商品が同じニーズを奪うことがある
5つ目の力は、既存の商品やサービスとは異なる方法で顧客ニーズを満たす代替品の存在です。
代替品の脅威とは、自社の商品やサービスが、別の手段によって置き換えられる可能性を指します。ここでいう代替品は、同じ業界の競合商品とは限りません。形や提供方法は異なっていても、顧客の同じ課題やニーズを満たすものは代替品になり得ます。
代替品の脅威が強まるのは、代替品のコストパフォーマンスが高い場合や、技術革新によってまったく別の方法で同じ価値を提供できるようになった場合です。顧客にとって「こちらのほうが安い」「こちらのほうが便利」「そもそも従来の商品を使わなくてもよい」と感じられると、既存市場は一気に縮小する可能性があります。
この観点で重要なのは、競合を狭く捉えすぎないことです。自社と似た商品を扱う企業だけを見ていると、顧客の行動変化を見落とします。顧客が本当に満たしたいニーズは何かを起点に考えることで、思わぬ代替品の脅威に気づきやすくなります。
5つの力分析を使うと、戦略の方向性が見えやすくなる
5つの力分析は、業界の状態を整理するだけでなく、今後の戦略を考える手がかりになります。
5つの力を分析すると、自社が置かれている業界のどこに収益性を下げる要因があるのかを把握できます。たとえば、業界内の競争が激しいのか、買い手の交渉力が強いのか、代替品によって市場が奪われつつあるのかによって、検討すべき戦略は変わります。
ここで大切なのは、5つの力分析を「業界は儲かるか、儲からないか」を判定するだけの道具にしないことです。分析の目的は、競争構造を理解したうえで、どのような方向に打ち手を検討すべきかを考えることにあります。収益性を下げている要因が分かれば、差別化を強める、顧客の切り替えコストを高める、調達先を分散する、成長市場を探すといった検討につなげやすくなります。
ビジネスパーソンにとって5つの力分析が有用なのは、目の前の売上や競合動向だけでは見えにくい「業界構造」を捉えられる点です。自社の努力だけでなく、業界そのものの力学を理解することで、より現実的な戦略判断が可能になります。
分析時の注意点:業界の切り方で見え方は変わる
5つの力分析では、どの範囲を「業界」と見るかによって結論が変わる点に注意が必要です。
同じ業界に見えるものでも、地域や顧客層、価格帯、提供形態によって競争環境は異なります。たとえば、同じ飲食サービスでも、地域密着型の店舗と全国展開するチェーン店では、競合の種類や顧客の選び方、仕入れの条件が異なります。業界の定義が粗すぎると、実態に合わない分析になってしまいます。
一方で、業界を広く捉えることで見えてくることもあります。国内市場だけを見ると成長が鈍く競争が激しいように見えても、海外市場まで含めると成長余地が残っている場合があります。このように、分析対象の範囲をどう設定するかは、5つの力分析の精度を大きく左右します。
また、5つの力に明確には含まれない重要なプレイヤーにも注意が必要です。特にプラットフォーム型ビジネスでは、場を提供する企業や補完関係にある事業者が、収益性に大きな影響を与えることがあります。5つの力分析は強力なフレームワークですが、現実のビジネス構造に合わせて柔軟に使うことが重要です。
まとめ:5つの力分析は、競争環境を読み解くための基本スキル
5つの力分析を学ぶことで、業界の収益性を左右する構造的な要因を整理できるようになります。
5つの力分析では、業界内の競争、買い手の交渉力、売り手の交渉力、新規参入の脅威、代替品の脅威という5つの観点から、業界が利益を上げやすいかどうかを考えます。これにより、単に「競合が多い」「価格が厳しい」といった表面的な理解にとどまらず、なぜ収益が出にくいのか、今後どの力が強まりそうかを構造的に捉えられます。
この学びは、新規事業の検討、既存事業の見直し、競合分析、営業戦略、マーケティング戦略など、さまざまな場面で役立ちます。特に、事業環境の変化が速い時代には、自社の強みだけでなく、業界全体の力学を理解することが欠かせません。
5つの力分析を使いこなすことで、目の前の競争に振り回されるのではなく、どこで利益が生まれ、どこで利益が削られるのかを見極める視点が得られます。その視点は、より納得感のある戦略立案や意思決定につながるはずです。
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