ヤフー元会長が語る30年史に、時代を生き抜く経営の条件を学ぶ

推薦:嶋田毅(グロービス経営大学院 教員)
本書は前LINEヤフー代表取締役会長である川邊健太郎氏が1995年からの学生起業家時代も含め、主に2000年以降のヤフー時代について振り返ったものだ。世界がドットコムバブルに湧いた時代から昨今のAI時代までが、渦中にいた人間の視点から語られており、非常に興味深い。
個人的に面白いと思った箇所を3つ挙げよう。第一は、日本のヤフー(現LINEヤフー)のような成功企業であっても、新しい技術等の可能性を正確に見通せたわけではなく、何度も読みを間違えてきたという事実である。
特に2000年代、検索やSNS、動画の可能性を過小評価した点は興味深い。「素人の作ったものが、プロが作ったものに勝てるはずがない」「他人の弁当箱を見せられて何が楽しいんだ」という率直な感想は、今から見れば「それは違う」と言えるが、当時の成功者にとっては当たり前の感覚だったのだ。新しい産業であっても常に「成功の復讐」というジレンマは付きまとうのである。
第二に、『「ネット屋がやる○○ビジネス」は「○○屋がやるネットビジネス」に必ず勝つ』という指摘だ。特にGAFAMのようなプラットフォーム企業は、業界の垣根を超えてあらゆる手法で価値を創造できる。それに対してもともとリアルの企業がネットビジネスを始めても、たいていは迷いによる中途半端さが生じるし、提供者の都合を押し付けがちになる。これは鋭い指摘である。
第三に、最後に勝つのは好奇心としつこさ、そして合理性を兼ね備えた人材や企業であるという点であろう。新しい技術や市場に対する強い好奇心が挑戦を生む。それなくしては何も始まらない。そのうえで、しつこく成功を狙う執着心と、キャッシュ創出につながる合理性があってこそビジネスは成功する。当たり前のことのようにも聞こえるが、これらを高度に兼ね揃えた人材や企業は少ない。
本書は商用インターネットが生まれて以来のビジネス史であると同時に、変化の激しい時代をサバイブするための経営の本質を学べる一冊である。日本ならではの「目の肥えた消費者の厚み」という指摘も示唆に富む。
AIや生成AIの進化により新しいビジネスチャンスが多数生まれている昨今、多くのビジネスパーソンにヒントを提示しているのではないだろうか。
『7つの激変: いかがわしい者たちが主役の「インターネット産業」30年史』
著:川邊 健太郎 発行日:2026/6/24 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社
スマホを置き、内省の時間を持とう

推薦:許勢 仁美(グロービス経営大学院 教員)
最近、自分のためだけの「静かな時間」を持てているだろうか?
本書は単なる時間術の書ではない。 その本質は、静かな時間を活用した「内省(リフレクション)」の技法書である。 ベストセラー『問いのデザイン』の著者でもある安斎氏は、リフレクションを「自分の内面に丁寧に向き合うことで過去を前向きに書き換え、未来の自分を再構築するためのきわめて創造的な行為」と定義する。
本書の半分以上は実践編だ。感情・技術(上達)・興味・信念の4テーマについて、リフレクションの具体的な取り組み方や注意点が学術的知見を交えて明快に解説されている。日々の意思決定や思考の精度を上げたいビジネスパーソンにこそ必要な一冊だ。
私自身、新幹線での移動中に試してみた。スマホをバッグの奥にしまい本書を読んだ後、紙の手帳でこの半年の歩みを振り返った。ソーシャルノイズから距離を取ったわずかな時間で、驚くほど思考が澄み渡る感覚を得られた。
まとまった時間が取れる夏休みこそ、スマホを置き、本書とノートを手にして一人になれる場所へ出かけてほしい。著者からの「本書をきっかけに、あなたの仕事と人生がより充実したものになることを願っています」という言葉を添えて、皆さんにエールを送りたい。
『静かな時間の使い方 自分の解像度を上げる「独りの思索」の全技法』
著:安斎 勇樹 発行日:2026/4/20 価格:1,760円 発行元:朝日新聞出版
「いい道具」の要件とは?AI・自動化の時代に考える

推薦:天野 慧(グロービス経営大学院 教員)
生成AIとどう付き合うか。この一年、そんなことを考える時間が急に増えた。業務での活用を奨励する企業も増えているようで、同じ問いを抱えている読者も多いだろう。
そんなときに読み直したい本が、『人を賢くする道具——インタフェース・デザインの認知科学』だ。人間中心設計やユーザー・エクスペリエンス(UX)の概念を広めた認知科学者ドナルド・ノーマンが1993年に書いた本である。
本書の主張はシンプルだ。いい道具は、人の代わりに考えてくれる道具ではない。人が自分でうまく考えられるようにしてくれる道具だ。たとえば、電卓やそろばん、ノートやペンといった道具に限らず、アラビア数字もグラフも、わたしたちの思考を助けてくれる、いい道具といえる。
本書では反対の例も出てくる。自動化が進んだ飛行機のコックピットでは、操縦士が機械にまかせきりになり、いま何が起きているか見失う。それが事故につながることもある。だから、人間が手綱を持てるようにつくらなければならない。これがノーマンの言う「人間中心のデザイン」だ。
原著の副題は「機械の時代に、人間らしさを守る」である。ノーマンは、楽しむ力や味覚、触覚といった人間らしさを擁護しつつ、人がより幸せになるために道具を使おうと呼びかける。
30年前の本だが、投げかけてくる問いは古びない。私は生成AIを、自分でしっかり考えるために使えているだろうか。それとも、考えるのをやめて出てきた答えに従っているだけだろうか。この夏、その問いと向き合ってみてはどうだろうか。
『人を賢くする道具 ――インタフェース・デザインの認知科学 』
著:D.A.ノーマン 監修・翻訳:佐伯 胖 翻訳:岡本 明、八木 大彦、嶋田 敦夫、藤田 克彦 発行日:2022/7/9 価格:1,760円 発行元:筑摩書房





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