奥深き「GDP」の基礎を知る 経済指標の備忘録#2

景気全般の状況を示す経済指標で、最も注目されるのがGDP(国内総生産)です。ビジネスパーソンでその名を知らない人はいないと思いますが、なぜGDPが重要視されるのでしょうか。今回から2回に分けて、ビジネスパーソンが押さえるべきGDPの基礎知識をおさらいします。

「三面等価の原則」

GDPとは、「国内居住者がある期間内に生み出した付加価値額の合計」のことです。その国の経済規模を表します。国内居住者が対象なので、大リーガーの大谷翔平選手の年俸がいくら上がったとしても、日本に送金されない限り、日本のGDPを押し上げることはありません。

付加価値とはある財・サービスに付け加えられた新たな価値を指します。200円で仕入れたパンを300円で販売すると、100円がパン屋の作り出した付加価値となります。200円のなかには農家や製粉会社、物流業者などが生み出した付加価値が反映されています。

現実の世界ではパンだけではなく様々なモノやサービスが販売されています。様々な産業や政府の生産物の価格を合算すれば、GDPを求めることができます。

改めてパンの例に戻りましょう。付加価値の部分は人件費、パン屋の利益などに細かく分解することができます。農家や製粉会社、物流業者も同じです。各事業体の人件費や事業体の利益などを合計すれば、GDPに等しくなるといえます。

また付加価値の合計額300円はそのまま消費額となっています。その国の消費額を全て合算すれば、これもGDPと等しくなります。

人件費や事業体の利益などを合算して求めたものを「分配側のGDP」、あるいは「GDI(国民総所得)」、消費額から計算したものを「支出側のGDP」、あるいは「GDE(国民総支出)」と呼びます。

GDPとGDI、GDEは原則として等しくなります。これを「三面等価の原則」と言います。以下に具体的な式を示します。生産の拡大、所得の増加、消費や投資の活発化がいずれも、国内経済にプラス効果をもたらす、ということが掴めるかと思います。

●GDP(生産側のGDP)=各産業の付加価値合計額(売上高-中間投入額)+輸入品への関税―消費税+X

●GDI(分配側のGDP)=雇用者報酬+営業余剰・混合所得(利益)+固定資本減耗(減価償却費)+生産・輸入品への課税額―補助金+X

●GDE(支出側のGDP)=民間消費+投資+政府支出+純輸出 ※純輸出=輸出―輸入

ニュースになるのは「支出側のGDP」

ところで先ほどの式をみて「?」と感じた方もいると思います。

支出側のGDP(GDE)以外の右辺には「X」があります。これは「統計上の不突合」を表したものです。本来は3つのGDPは等しくなるはずです。しかし実際に内閣府が公表する場合、推計値も存在するため、3つのGDPの間にはどうしても差異が発生してしまいます。そこで、「不突合」の数値を加えるなどして、等しくしているのです。

支出側のGDPにXがない理由は、3つのGDPの「基準」と言うべき存在だからです。私たちがニュースで触れるGDP速報は、支出側のGDPとなっています。生産側のGDP、分配側のGDPは年に1回、推計値が公表されますが、めったにニュースになることはありません。ここから先は「支出側のGDP」を「GDP」として説明します。

改めてGDPの計算式をみてみましょう。

GDP=民間消費+投資+政府支出+純輸出

消費や投資が伸び、政府が経済対策を行い、さらに輸出が活発になれば、GDPが伸びる。何となく、そんなイメージが抱けるのではないかと思います。

では、さらに理解を深めるために、内閣府のホームページにアップされている公表資料を実際にチェックすることにします。

経済成長率はどこにある?

以下は2021年7~9月期のGDP速報(1次)の統計表一覧のページにある各資料のリンクが並んだ画面です。1次速報は調査対象となる四半期末から1カ月半後に公表される最も早い速報で、推計データを実際のデータに置き換えながら、1次速報から約1カ月後に2次速報が公表されます。

「名目」と「実質」があり、それぞれに「季節調整」されたものとそうでないものがあることが分かります。また四半期と年度・暦年でも分かれています。

ここでクイズです。7~9月期時点の「経済成長率」を知りたい場合、以下のリンクのどこをクリックしてエクセルシートを出せばいいのでしょうか?

正解は「増加率」、「四半期」の囲みの一番下にある「年率換算の実質季節調整系列(前期比)」です。「年度・暦年」ではありません。

実際にクリックすると、エクセルシートが出てきますが、一番下にスクロールすると、2021年7~9月期のB列に「-3.0」とあります。前期(4~6月期)比の増減率をほぼ4倍にすると年率の数字が出ます。7~9月期は前期比マイナス0.8%なので、そのまま4を掛けたらマイナス3.2%になるのですが、詳細はともかく、ここではあくまで「ほぼ4倍」と理解しておけば十分です。7~9月期の経済成長率(前期比年率換算)はマイナス3.0%となり、2四半期ぶりのマイナス成長になったことが分かります。

「名目」「実質」の違い

一国の経済成長を計るには、「実質GDP」で見た方が適切だという見方が一般的です。実質GDPは物価変動の影響を除いて計算したものです。具体的にはある年の価格水準を基準にして算出します。一方で、「名目GDP」は物価が変動しても価格は調整せず、市場価格で計算します。経済規模を計るには、物価の影響を排除することが必要だと考えられています。

例えば、2021年3月末まで2万円で販売されていた紳士服が、4月に入り1万5000円まで値下がりしたとしましょう。3カ月間の販売数量が100万着で変わらない場合、紳士服の消費金額は名目なら200億円から150億円に下がり、GDPの右辺にあたる消費を押し下げることになります。

とはいえ販売数量は変わりがありません。消費が活発化したとも、落ち込んだとも言えず、実質的には紳士服市場の成長率はゼロになります。

名目GDPの増加率から物価上昇率を引くと、実質GDPの増加率(=経済成長率)が求められます。また名目GDPを分子とし、実質GDPを分母にして割り算を行うと、GDPデフレーターという物価指標も求められます。GDPデフレーターが1未満の時は、物価は下落した(デフレが進んだ)とみることができます。

「季節調整」の理由・「年率」の留意点

改めて内閣府のホームページのリンク一覧をみると、「名目」「実質」はそれぞれ、「原系列」と「季節調整系列」に分かれています。「原系列」を元データとし、季節変動による影響を除外したものが「季節調整系列」です。経済が成長しているのかを的確にとらえるには、季節変動による影響を除外する必要があります。季節調整を行えば、前期との比較が意味を持つようになります

なお、経済成長率は「年率換算の実質季節調整系列(前期比)」で語られることが多いのですが、前期比の増減率は上下しやすく、前期比を4倍した年率換算値はもっと振れが大きくなりやすいという点には留意が必要です。

例えば2020年7~9月期は23.2%と極めて高い成長率となりましたが、これはコロナ禍を受けて4~6月期に落ち込んだGDPの反動により、前期比の増加率が大きくなったことが作用しています。

次回はGDPの後編として、実際に記者発表資料をみながら、GDPを構成する各項目について説明していきます、また公表を受けた報道機関の記事の捉え方、マーケットなどとの関係性について触れていきます。

「経済指標の備忘録」の記事はこちら

#1「GDP」「日銀短観」…景気の読み解き方は?
#3 「GDP」、その甚大な影響力─

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