「利上げ確率」で解釈が変わる? 経済指標の備忘録<米国編vol.2>

米国の経済指標と金融政策の関係に焦点を当てる「経済指標の備忘録・米国編」。前回は米雇用統計の基礎知識について説明しました。米国のマクロ経済環境の把握には欠かせない雇用統計は、米国の金融市場のみならず、日本株や為替相場、債券相場にも多大な影響をもたらすものとなっていますが、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策の方向性に対する投資家の共通認識によって、市場の受け止めや反応が変化します。

市場予想を上回るほどの、経済情勢の力強さを示す米雇用統計が公表されたにもかかわらず、金融市場でマネーの「逆回転」が起き、さらには信用不安が起きてしまう──。そんなシナリオも、現実の世界で全く起こらないと言い切ることはできません。今回は普段、ニュースで耳にする「利上げ確率」とは何なのか、基礎的な内容について触れたうえで、利上げ確率が高い場合に想定される金融市場の反応などを考えていきたいと思います。

「利上げ確率」はどこで分かる?

米国の中央銀行であるFRBの金融政策の方向性に対する「市場の見方」を示す物差しのひとつが、「FF金利先物」と呼ばれるものです。FF金利(Federal Funds Rate)は、金融政策を遂行するために操作する「政策金利」のことで、FRBが定期的に開く連邦公開市場委員会(FOMC)で決められるものです。(関連記事「イールドカーブは何を示す? ビジネスパーソンの必須知識 金利編vol.2」)

市場で取引されるFF金利先物が今のFF金利よりも高いということは、今後FRBが利上げを行うと多くの市場参加者が予想していることを示します。このFF金利先物から、市場が予測する利上げや利下げの「確率」が算出されるのですが、その確率はCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)グループのFedWatchというウェブサイトで公開されているので、機関投資家でなくても把握することができます。

さて3月15~16日に開かれたFOMCで、FRBはFF金利の誘導目標を0.25~0.50%とするとアナウンスしました。CME のFedWatchで、次回のFOMCの結果が発表される22年5月4日時点の”Target Rate Probabilities”を見ると、棒グラフの下に以下のような表が出ています。

Target Rate

Now

1 day

1 week

1 Month

25-50(Current)

0.0%

0.0%

0.0%

3.5%

50-75

21.2%

22.9%

30.6%

67.4%

75-100

78.8%

77.1%

69.4%

29.1%

 

※日本時間2022年4月7日午後4時現在のデータをもとに筆者作成

表にあるTarget Rateの下には、5月に予定する次回のFOMCの後、FRBがアナウンスしうるFF金利の誘導目標が、上から低い順に並んでいます。べーシスポイント(bp、1bp=0.01%)で表示されており、25-50というのは、0.25-0.50%を意味します。それぞれの右側には「現時点」「1日前」「1週間前」「1カ月前」において、5月のFOMC後に該当するFF金利の誘導目標になる確率が何%になると市場が予想している(予想していた)のかが示されています。

75-100をみると、Nowが78.8%、1weekが69.4%となっています。75-100bpの下限である75bpから現行のFF金利誘導目標の下限の25bpを引くと、50bp(=0.50%)となります。つまり、5月のFOMCで0.50%の利上げが行われる確率(4月7日時点)を、金融市場は78.8%だとみていて、1週間前に算出された確率(69.4%)と比較すると、0.50%の利上げの織り込みが進んだ、ととらえることができます。従来のような0.25%の利上げペースよりも、FRBが急ピッチで金融引き締めを行うとの見方が金融市場にかなり織り込まれているという訳です。

利上げの織り込みが進むと…

利上げの織り込みがまだ進んでいない状況下で、市場予想を上回るほどの、労働市場の力強さを示す雇用統計が公表された時、金融市場はどのような反応をみせるのでしょうか?  

「米景気が思った以上に好調である」→「FRBが利上げペースを速める可能性がある」→「利上げ確率が上昇する」

ことが考えられるでしょう。

利上げ確率の織り込みが進む時、米国債のイールドカーブ(利回り曲線)は、短期から超長期までの金利全体に上昇圧力が掛かり、かつ長期・超長期金利よりも短期金利が比較的上昇する「ベア・フラットニング」が発生することがあります。<関連記事:イールドカーブは何を示す? ビジネスパーソンの必須知識 金利編vol.2

米金利の上昇は、一般的には成長株の株価下落要因となります。AppleやAmazonといった業績拡大期待の高い企業の株価が下落すると、米国株相場全体(特にハイテク株の多いナスダック総合株価指数)を押し下げることにつながり、その影響は日本市場にも波及しかねません。

利上げの織り込みが和らぐと…

半面、利上げがかなり織り込まれていた時、市場予想を下回るほどの、米経済の先行き懸念を広げかねない米雇用統計が公表され、利上げ確率が低下した時はどうでしょうか? 

イールドカーブは先ほどのケースと逆に、金利全体に低下圧力がかかり、かつ短期金利がより大きく下落する「ブル・スティープニング」化が進むことが債券市場の反応として考えられます。

金利低下は成長株にはプラス要因となるとされています。米景気の失速を意味しかねない経済指標が発表されたにもかかわらず、米国株が上昇し、それが日本株にとっての追い風となる、一見矛盾した現象が起きることも予想されます。

相場は様々な思惑・要因で動くものなので、必ずしもこの通りに反応するわけではありません。また金融市場が雇用統計の結果を「解釈する」のに時間がかかるケースもあります。

素直に反応しないのは「過剰流動性相場」のせい?

これまでの金融市場は、先進国の中央銀行が金融資産の購入などを行い、金利を低位で安定させて市中にマネーを供給する金融緩和的な姿勢をとっていました。市中に溢れたマネーが株式市場に流入すると、景気拡大期待が高くないにもかかわらず、株価指数が実態以上に上昇するといったバブル的な現象を生む原因となります。このような中央銀行のマネーに支えられた「過剰流動性相場」が続いた結果、市場参加者による中央銀行の一挙手一投足への関心度合いは、昔よりもずいぶん高いものとなりました。

世界最大の経済大国である米国のFRBが金融引き締めを強めるのか、緩和姿勢に戻るのか──。国際金融市場に及ぼす影響の大きさは計り知れないレベルとなっています。

ところで、経済指標は雇用統計以外にも、GDPや鉱工業生産指数、消費者物価指数など様々なものが発表されています。他にも重要な経済指標が存在するにもかかわらず、そもそもなぜ雇用指標がFRBの政策スタンスを変化させうるものとなっているのでしょうか?

日銀も失業率や有効求人倍率、毎月勤労調査を注視はしているのでしょうが、「重視」して政策運営を行っているという話は、あまり耳にしません。そのようなことを念頭に置きながら、次回は雇用統計以外の米国の経済指標の基礎についても解説していきます。

「経済指標の備忘録」シリーズ記事はこちらから

#1 「GDP」「日銀短観」…景気の読み解き方は?
#2 奥深き「GDP」の基礎を知る
#3 「GDP」、その甚大な影響力─
#4 「日銀短観」─Tankanと訳される理由
#5 「鉱工業生産指数」 製造業だけが日本の景気?
#6 <前編>消費者物価指数、日米間で格差 その理由は?
#6 <後編>消費者物価指数、日銀との関わりは?
#7 6年7カ月ぶり円安水準、巨額の「経常赤字」が起点?「国際収支」編
#8「最大級」のインパクトを持つ米雇用統計 <米国編vol.1>

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