未来を切り拓く組織へ:新製品・新サービス開発に強い企業の秘密
企業が持続的に成長し、競争の激しい市場で生き残るためには、常に革新的な新製品や新サービスを生み出し続ける力が必要です。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。多くの企業が挑戦し、挫折してきたこの領域で、コンスタントに成功を収めている企業には「社内の仕組み」や「組織文化」等に共通の要件が存在するのではないでしょうか。
われわれは、ヒットを生み出し続ける企業の共通点を探り、フレームワーク化することで、そうした企業に近づく道筋が見出せるのではないかと考えました。そして新製品や新サービス開発に強い組織要件について、典型的なプロセスや超えるべき難所を克服する重要キーワードを見出しました。本連載では、その成果をお伝えします。
※本連載は、グロービス経営大学院に在籍した戸田祐介、狭間孝征、櫻井秀行、伊藤沙織、古中俊康が、嶋田毅講師の指導の下で進めた研究プロジェクトの成果をまとめたものです。
7つの企業の商品開発プロセスを5ステップで分析
本研究では、新製品・新サービス開発に強い企業の事例をまとめることで、共通点あるいは一般的な企業との差異を抽出できると考えました。企業の選定においては、候補先の中からグロービス経営大学院の学生アンケート他をもとに抽出し、その中から業界、プロダクトライフサイクル(PLC)、ビジネスの特性などを考慮して行いました。
具体的には、以下の7社を対象に徹底的な分析を行いました。
- 3M
- YKK
- 任天堂
- ユニクロ(ファーストリテイリング)
- セブン-イレブン
- マクドナルド
- Amazon

これらの企業は、業界やビジネスモデル、企業文化が多様でありながら、常に革新的な製品やサービスを提供し続けています。私たちは、各社の成功要因について分析し、キーワードにまとめ、特に重要であると考えた商品開発プロセスについて注目しました。
商品開発プロセスについては、①企画立案、②先行開発、③商品化、④量産化、⑤販促の5つのステップに分解し、各フェーズで必要とされる流れを抽出しました。その上で、「各企業の要となるポイント」と「企業ごとの強みと特徴」を以降で深堀りしました。

それでは各企業の成功要因を具体的に見ていきましょう。今回は7社のうち3MとYKKについて見ていきます。
3M:ひらめきとアイデアを大切に、顧客課題を解決する画期的な商品を開発
3Mの成功要因には、以下の3点が挙げられます。
● 自主性を尊重する文化
自分の就業時間の15%を自分の好きな時間に使ってもよいという不文律「15%カルチャー」、あるいは自分の信じる研究を(たとえ上長の指示に背くことになっても)進めてよいという「ブートレッキング」、メンター制などの仕組みがある。これによって自主性を育み画期的な商品を生み出すことができ、社員が自由にアイデアを追求できる環境が整っている。
● 蓄積技術をプラットフォーム化
創業より積み重ねてきたテクノロジーを46の汎用術基盤としてプラットフォーム化。これにより技術要素を組み合わせて検討しやすくなり、独創的な新製品を生み出すことが可能となっている。
● 独自のフレームワークによる判断基準の明確化
NUD(New,Unique,Different)、RWW(Real,Win,Worth)といった独自のフレームワークを取り入れている。これらのような第三者が見ても解りやすい判断基準を設けることで、組織内での意思決定の質を向上させ、成功確率を高めている。
また、商品開発プロセスの特徴は下図のようにまとめることができます。

※★★:最も企業として力を入れているプロセス・要素、★:その次に力を入れているプロセス・要素
3Mでは「コアバリュー」「ナレッジシェアリング」「標準化」「クロスファンクション」「再現性・一貫性」のキーワードが挙げられます。上記の成功要因からも伺えますが、中興の祖のウィリアム・マクナイトの考えが今もなお社員に浸透し、イノベーションを起こすための仕掛けが多々存在しています。また社内技術の棚卸と連携により、独創的な組み合わせでの製品開発を実現しています。
YKK:ブランドへの強い愛着と技術力で、あらゆるお客様のニーズに確実に応え、信頼構築をし続ける
YKKの成功要因には、以下の3点が挙げられます。
● 「善の巡環」の理念
同社では「YKK精神」として掲げる「善の巡環」の考えの下、他人(顧客やその先のエンドユーザー)にとって利益のあることをしないと自分たちの利益は得られないとし、それを具体的な行動基準にすることで利益を得続けている。クライアントの要望に応えて喜んでもらうこと、問題が起きたらすぐに対処することなどが徹底されている。こうした価値観により、高品質な製品と信頼関係を構築している。
● 黒部に技術の総本山をおく
富山県黒部工場を中心に、世界72カ国ワールドワイドで同じ品質の製品を一貫生産で提供。また製品のスピード納品にこだわる。黒部にはYKK AP R&Dセンターや価値検証センター、黒部製造所、教育施設「YKKセンターパーク」などが集約され、企業理念を技術・人材・製品に反映させる聖地となっている。
● 失敗しても成功せよ 信じて任せるの考えの下、人材育成の充実を図る
コアバリューを価値行動評価として目標評価を行う。早い段階で失敗することで大きな成功を収めることを期待するなど「人財」として社員を育成。
また、商品開発プロセスの特徴は下図のようにまとめることができます。

※★★:最も企業として力を入れているプロセス・要素、★:その次に力を入れているプロセス・要素
YKKでは「コアバリュー」「ローカライズ」「標準化」「コアバリューへの評価制度」「価値観の浸透、失敗の許容」のキーワードを基に「善の巡環」等、創業時からの考えを浸透させ、自律した組織行動を促す言葉と仕組みが機能しています。また、現地法人の社長の半数以上はローカル人材とすることで、現地主導による経営の最適化、企業としての持続可能な成長を目指しています。
次回は任天堂、ユニクロ(ファーストリテイリング)、セブン-イレブン、マクドナルド、Amazonの5社の分析を進めながら、新製品や新サービス開発に強い組織の要件をさらに探ります。
(次回に続く)



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