イノベーションを生み出す“信の巡環モデル”と実践ステップ ――新規開発に強い組織の要件 第4回

投稿日:2026/01/30更新日:2026/06/10

持続的に成長し、競争の激しい市場で生き残る企業。そんな企業群には、「社内の仕組み」や「組織文化」に共通の要件が存在するのではないでしょうか。

本連載では具体的な企業の事例分析を通じ、新製品や新サービス開発に強い組織要件について、典型的なプロセスや超えるべき難所を克服する重要キーワードを見出します。

前回まで、3M、YKK、任天堂、ユニクロ(ファーストリテイリング)、セブン-イレブン、マクドナルド、Amazon という7社の特徴にある共通点、相違点を考察してきました。最終回となる今回はこの共通点を改めてまとめ、新製品や新サービス開発に強い組織の要件をまとめます。

※本稿はグロービス経営大学院に在籍したメンバーが、嶋田毅講師の指導の下で進めた研究プロジェクトの成果をまとめたものです。

新製品や新サービス開発に強い組織の6つの共通点

今回の研究を通じて選定してきた企業の共通点を整理し、新製品・新サービス開発に強い組織が持つ共通の要件を6つにまとめました。

  1. コアバリュー
  2. 戦略的リソース管理
  3. プロセス管理・知識管理
  4. 寄り道(大衆性を宿す・気付き)
  5. タレントマネジメント・価値を生み出す組織
  6. 信頼性

それでは、これらの要件を具体的に見ていきましょう。

1. コアバリュー

企業の価値観や使命が社員一人ひとりに深く浸透し、全員が同じ方向を向いて行動しています。

●  YKKの「善の巡環」
理念が社員の行動基準となり、顧客や社会への貢献を最優先に考える企業文化を形成しています。

●  任天堂の「ソフト思考」
人々の生活を豊かにすることを使命とし、社員全員がその実現に向けて創造性を発揮。

2. 戦略的リソース管理

新しいアイデアやプロジェクトに対して、戦略的に資源を配分し、サポートする仕組みがあります。

●  3Mの「15%カルチャー」
社員が勤務時間の15%を自由な研究に充てることを認め、新たなイノベーションを促進。

●  ファブレス経営
開発に集中できる体制を整え、チャレンジングな企画を実現。

3. プロセス管理・知識管理

商品開発プロセスが明確で、知識やノウハウの共有が組織的に行われています。

●  セブンイレブンの標準化されたプロセス
商品開発から販売までのフローを明確化し、全店舗で一貫したサービスを提供。

●  3Mのフレームワーク活用
「NUD」「RWW」などの手法により、商品化の判断を客観的かつ迅速に行う。

4. 寄り道(大衆性を宿す・気付き)

偶然の発見や創造的なアイデアを生み出すための自由度や環境が整っています。

●  任天堂の風土
様々な背景を持つ社員が雑談の中で生まれたアイデアを試作化し、製品が生まれる土壌を育成。それを許容する経営陣の懐の深さがある。

●  3Mのクロスファンクショナルチーム
異なる部門間での協力を促し、多角的な視点からのイノベーションを推進。

5. タレントマネジメント・価値を生み出す組織

人材の育成や評価制度が充実しており、社員が最大限の能力を発揮できる環境があります。

●  マクドナルドの「ハンバーガー大学」
従業員のスキルアップとキャリア形成を支援。

●  Amazonのリーダーシップ原則
「Our Leadership Prichiples(OLP)」に基づき、社員が自発的にリーダーシップを発揮し、革新的なアイデアを追求できる環境を提供。

6. 信頼性

顧客や社会からの信頼を得るための品質管理や倫理観が徹底されています。

●  YKKの品質へのこだわり
世界中で同じ品質の製品を提供し、顧客からの信頼を獲得。

●  ユニクロの徹底した顧客志向
企画立案時に、VOC、VOS、月一度の店舗スタッフの声を聴く仕組み等により立案時から徹底した顧客目線を意識し議論している。

組織が発展・進化する「信の巡環モデル」

私たちはこの6つの要件をもとに、「巡環」することで組織が発展・進化する構造としてモデル化しました。このモデルにおいては、「6つの要件」を「23の重要なキーワード」が支える構図となっています。

6つの要件

先述した6つの要件は「信頼性」を中心に円を描くように「コアバリュー」「戦略的リソース」「商品・サービス開発プロセス」「寄り道」「タレントマネジメント」が取り囲んでいます。そして取り囲まれたキーワードを巡環し続けます。これを「信の巡環モデル」と呼びます。

 

23の具体的なキーワード

これら6つの要件をさらに深堀りするために、それぞれを支える23の具体的なキーワードを抽出しました。これらのキーワードは、各企業が実践する取り組みや文化を表しています。

 

FW

7社共通

重要キーワード

定義

コアバリュー

コアバリュー

会社が大切にしている哲学のようなもの。ビジョン、ミッション、パーパス。

戦略的

リソース管理

ローカライズ

顧客ニーズに沿うように最適化され、また実行する権限が与えられていること

イノベーション

新しいアイデアや技術を活用して、市場や顧客のニーズに対応する新しい製品やサービスを創造すること。企業や組織が競争力を維持し、成長を実現するために重要な要素

エッジを利かせる

商品やサービスに特別な要素や特長を加え、顧客にとって魅力的で独自性のあるものにすること。ユニークな機能や特性の追加、デザインの差別化、技術や素材の革新、ブランドの強化など。

資源配分

企業が持つ資源や能力を最適化し、戦略的な目標達成に向けて効果的に配置するプロセス

商品・サービス
開発プロセス

ナレッジシェアリング

(形式知化)

社内で各社員が持っている知識を共有・活用して生産性を高めること

標準化

作り方や規格、評価方法などを統一し、認識を共有することにより、誰がやっても同じ品質のものを作ることができる

集合知を得る

ある共通の目標や問題を解決するために、知を蓄積し、活用すること

企業を純粋想起させる

◯◯といえば△△と生活者が純粋に企業名やブランドを想起できる。

寄り道

大衆性を宿す・気づき

セレンディピティ

「偶然の産物」「幸運な偶然を手に入れる力」を意味する。これは「偶然の発見」や「幸運な偶然を得る」ための主体的な行動でもある。

タレント

マネジメント・

価値を生み出す

組織

ダイバーシティ

多様性を意味し、人々の性別、人種、民族性、年齢、宗教、障害、性的指向、教育、国籍、経験、意見など、様々な側面が含まれる。これらの多様な特徴を持つ人々を受け入れ、尊重し、価値を見出す文化を促進することをいう。

クロスファンクション

異なる専門分野や部門のメンバーが一つのチームとして協力し、共通の目標に向かって作業を進めること。
異なる視点を統合し、革新的な解決策を生み出すために有効であり、組織の柔軟性と適応能力を高める。

心理的安全性

チームメンバーがリスクを取ったり、意見を表明したり、失敗を認めたりしても、否定的な結果(罰則、嘲笑、拒絶など)に直面しないと信じられる環境を指す。建設的な批判が飛び交う。

尊敬型ヒエラルキー

地位や権力が単に役職や階級に基づくのではなく、個々の貢献、能力、成果に基づいて尊敬が示される組織構造。

メンバー間の相互尊敬と信頼を重視し、権威主義的ではなく、能力と成果に基づくリーダーシップを促進する。

コアバリューへの評価制度

企業のコアバリューに貢献することが評価される仕組みになっている。

価値観のマッチング

(採用・配置)

企業の理念、価値観に共感し、その価値基準に則した行動が取れる人材採用、配属となっている。

教育(人材開発、後継者育成)

効果的な人材開発と後継者育成の取り組みを実現し、組織全体の成長と競争力の強化に寄与している。

信頼性

徹底力

顧客思考を追求し、品質および安全性を第一に、商品の細部までにこだわる商品づくりを徹底すること。

規律

商品の安全性・品質など、明確に定まったものに対しては、厳格なルールをもとに管理し、それを前提に従業員自らが判断し、行動すること。

再現性・一貫性

明確なプロセス、ノウハウと手順を持ち、それらに従って行動すること、また、一貫した評価基準を設けることでより再現性は高めていること。

エンゲージメント

従業員が組織や仕事に対してポジティブな感情を抱き、自身の役割や貢献に誇りや満足感を感じ自発的に仕事に情熱を持って取り組んでいること。組織への忠誠心を持ち、組織への貢献意欲、意見やアイデアを積極的に出す。

価値観の浸透

経営理念やビジョンの浸透を図るため、定期的に従業員に意識づけさせる活動をしていること。

失敗の許容

新たな取組みなど、トライ&エラーを許容される文化があり、成功・失敗事例を社内に共有し、形式知化を図っていること。

変革への道筋を描くための3ステップと実践ツール

これまでの分析を基に、企業が新製品・新サービス開発に強い組織になるための3つのステップと、実践するための3つのツールを提案します。

●3つのステップとツール
①現在地を知る/現在地チェックシート・重要キーワードディクショナリー
②解決すべき課題をすり合わせる
③計画・実行する/計画シート

現在地を知る/現在地チェックシート・重要キーワードディクショナリー

自社の現状を把握することが、変革の第一歩です。
「現在地チェックシート」を用いて、23のキーワードに対して3段階で評価し、ヒット企業との差分を確認します。その際のヒット企業例として、「ヒット企業の重要キーワードディクショナリー」を活用します。この際の評価者は社長、事業部長、商品開発部長だけではなく、社外の声も取り入れることで客観的な分析が可能になります。


●重要キーワードディクショナリー(今回は一部のみ紹介します)

23の重要

キーワード

会社名

 

コアバリュー

3M

「科学を通じて世界をより良くする」とし、革新的な製品やソリューションを通じて、人々の生活を改善し、社会に価値を提供することを目指して、社員に浸透を測っている。中興の祖であるウィリアム・マクナイトの考えが今でも残り、個性豊かな一人の強みを活すことで、新たなイノベーションを生み出そうとしている

YKK

創業時から「善の巡環」の考えを浸透すべく様々な取り組みを行っている。創業者の吉田忠雄は周りの人に感謝し大きな夢を描き挑戦し続けることにより会社へも利益をもたらす

任天堂

「娯楽を通じて人々を笑顔にする会社」理想が社員の意識とかけ離れていない。実践哲学。職員をワクワクさせるようなビジョン

ユニクロ

「権限移譲」の大前提となる「価値観」と「判断基準」を共有することで迷った時に上層部へ確認することに気付けるようになる

セブン-

イレブン

「明日の笑顔を共に創る」という新たに目指す姿を決め、顧客の笑顔を作り、想像を超える価値を提供するために顧客志向を徹底敵に追求する

マクドナルド

QSC&Vを基盤に、従業員一人ひとりがマクドナルドの価値観を理解、共感、体感することで、マクドナルドが掲げるミッションを体現することができる

Amazon

「地球上で最も顧客中心の企業となり、顧客がオンラインで欲しいものを見つけ、発見できる場所となる」ベゾスが描くビジョンをOLPを通じて社員に浸透させている。ベゾスのビジョンは壮大であり、社員にとって魅力的である。一方で、背伸びすれば現実感はある。コアバリューとベゾスの熱い思いが社員に共感を得ている

解決すべき課題をすり合わせる

現状の課題を明確化し、組織全体で共有します。
コアバリュー/戦略との整合や意思決定者の志、他社事例で真似したいところを定め、何を解決すべきかを決定します。この際、既存事業向けと新規事業向けに問いを変えます。

計画・実行する/計画シート

具体的なアクションプランを作成し、実行に移します。
「計画シート」に具体的な実行計画を落とし込みます。これまでのステップで理解した現在地評価、解決すべき課題を踏まえ、短期的(1~3年)に今すぐやるべきこと、中長期的(3〜5年)に将来を見据えてやるべきことの時間軸に分け、それぞれにおいてゴール、解決すべき課題、マイルストーンを信の巡環をベースに検討し、実行案を提言します。

まとめ

新製品・新サービスを生み出す組織要件は、優良7企業の特徴を研究した結果「コアバリュー」「戦略的リソース管理」「プロセス管理・知識管理」「寄り道」「タレントマネジメント・価値を生み出す組織」「信頼性」であると考察しました。

この6つの組織要件に関連する具体的キーワードとして、各社の調査、分析により23のキーワードを選出すると共に、選定7社におけるグルーピングにおいて、共通点や相違点を見出しました。

この重要キーワードをベースに、新製品、新サービスに強い企業になるためのステップ(①現在地を知る、②解決したい課題をすり合わせる、③計画・実行する)を提示しました。その際に、有効となるツール(添付1:現在地チェックシート、添付2:重要キーワードディクショナリー、添付3:計画シート)を提唱します。

今後、実証検証を行うことでより研究内容を深め、また研究対象枠を広げることで、さらに多くの企業に対して有効となる提案に結びつけて行きたいと考えています。

本連載を通じて得られた知見が、皆さんの企業の成長と革新に役立つことを心より願っています。共に未来を創り出す仲間として、皆さんの挑戦を応援しています。

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