任天堂ほか7社の開発プロセスに学ぶ「成功の方程式」――新規開発に強い組織とは 第2回

投稿日:2026/01/28更新日:2026/06/10

常に革新的な新製品や新サービスを生み出し続ける力を持つことで、持続的に成長し、競争の激しい市場で生き残る企業。そんな企業群には「社内の仕組み」や「組織文化」に共通の要件が存在するのではないでしょうか。

本連載では具体的な企業の事例分析を通じ、新製品や新サービス開発に強い組織要件について、典型的なプロセスや超えるべき難所を克服する重要キーワードを見出します。第2回となる今回は前回に引き続き、任天堂、ユニクロ(ファーストリテイリング)、セブン-イレブン、マクドナルド、Amazon という5社について分析します。

※本連載は、グロービス経営大学院に在籍した戸田祐介、狭間孝征、櫻井秀行、伊藤沙織、古中俊康が、嶋田毅講師の指導の下で進めた研究プロジェクトの成果をまとめたものです。

任天堂:独自文化により数々のヒットを飛ばす

ゲームという商品がヒットするかしないかが大きく業績に影響する業界で、数々のヒットを続ける任天堂。そんな同社の成功要因には、以下の3点が挙げられます。

●  独自の企業文化
単にゲームを作るだけでなく、任天堂が人々に「楽しい時間」を提供する使命を果たすための指針である「ソフト思考※」、すでに安定し、広く普及している成熟した技術を活用する「枯れた技術の水平思考※」により、生活を豊かにする製品を追求。多くのヒット作の開発に反映されている。

●  試作と検証の重視
商品開発では、自分たちが本当に良いと思うものを追求し、一切妥協しない。試作を重ね、人々が本当に「欲しい」と思う製品を生み出す姿勢を貫いている。

●  ファブレス経営
自社工場を持たずに、外部のパートナーにハードの生産を任せることで企画・開発に集中できる体制を整え、チャレンジングな企画を実現。この源泉となっているのが、コストを抑えながらも高い収益性と内部留保を重視した財務戦略によって自己資本率を85%とし、潤沢な余裕資金を確保している。また「高い報酬を得るよりも驚きや喜びの創造に携わることが喜び」という社員にも支えられている。

※ソフト思考:ハード(ゲーム機本体)ではなく、ソフト(ゲームソフトそのもの)を中心に考え、プレイヤーにとっての体験や楽しさを最優先に設計する姿勢のこと。

※枯れた技術の水平思考:任天堂の元社長・横井軍平が提唱したゲーム開発の哲学で、「新しい技術や最新のハードウェアに頼るのではなく、既存の技術を独自の工夫で新しい遊び方に昇華させる」という考え方。技術的に新しくないためコストが低く、安定して使える点もメリット。

また、商品開発プロセスの特徴は下図のようにまとめることができます。

※★★:最も企業として力を入れているプロセス・要素、★:その次に力を入れているプロセス・要素

任天堂の特徴は、長期的な視点でブランドの維持と発展に取り組み、短期的な利益追求よりも、ファンの信頼を築き、ブランドの価値を長期間にわたって高めることを重視していることにあります。

前述の3つの点も、この特徴へと繋がっています。様々な背景の社員が徹底的に試作に触れ、しつこく自問自答を深め、人が持っている潜在的なニーズを掘り起こします。その中で、セレンディピティ(偶然の出会い)から商品の発想を得る逸話も多く存在します。例えば「新幹線の中で大人が電卓で時間潰ししている様子から着想し、ゲーム&ウォッチが生まれた」といった逸話からもわかるように、日常生活の中からも気づきを得ています。時には様々な世界へ「寄り道」することで、いかに生活を彩あるものに変えるかという「ソフト思考」を徹底し、商品開発に取り組んでいるのです。

ユニクロ世界で通用する日本独自のビジネスモデル×「究極の普段着」を作る開発力

世界で通用する日本独自のビジネスモデルと、ヒートテック等の開発では大企業とのコラボレーションもいとわず、究極の普段着を低価格&高品質&高機能&普遍性を兼ね備えた開発力により、万人へ浸透させることを図り続けるユニクロ(ファーストリテイリング)。同社の成功要因には、以下の3点が挙げられます。

●  直接の顧客の声、店舗スタッフの声などあらゆる角度から顧客目線を徹底
ECサイトで顧客から聞いた声を本部へ伝える仕組みであるVOC(Voice of Customer)や、店舗スタッフが顧客から直接聞いた声を本部へ伝える仕組みであるVOS(Voice of Staff)、月一度の店舗スタッフの声(売れ筋の肌感覚等)を聴く仕組み等により立案時から徹底した顧客目線を意識し議論している。例えば、インナーソックスは脱げてしまうという声がゼロになるまで改良し続け、発売して終わりではない商品開発を行っている。

●  有名ブランド等とクロスファンクション
大手化学メーカー、大手デザイナー等との大胆なコラボを行い、機能性&ファッション性の両面から集合知を得ている。大手企業とのコラボレーションにより、高機能・高品質な商品を提供。

●  数億枚レベルの大量生産によるコストダウン
量産化時には、1ラインナップで数億枚の生産を行う等、規模化によって大幅なコストダウン戦略を行う。また、これは他社が真似できない標準化によって裏打ちされ、実現している。

ユニクロの商品開発プロセスの特徴は下図のようにまとめることができます。

商品開発プロセスの特徴(ユニクロ)


※★★:最も企業として力を入れているプロセス・要素、★:その次に力を入れているプロセス・要素

ユニクロは、SPAによるコストダウンを図り、10年売れる商品を1年かけて作り込む、発売してからも常に顧客の声を聴き、あくなき進化を続ける商品開発を行う、というサイクルを繰り返しています。また、「コアバリュー」「資源配分」「エッジを利かせる」「企業を純粋想起させる」「クロスファンクション」「価値観のマッチング」「徹底力」のキーワードを基に、戦略的リソース配分およびタレントマネジメントに力を入れ、顧客の信頼を勝ち取り続けています

セブン-イレブン:顧客の想像を超える商品開発を実現する「徹底力」


業界初の商品・サービスを世に出してきたセブン-イレブン。同社は、商品開発においては、納得性・確実性を貫き、組合と協力し一貫した商品開発プロセスや承認プロセスを持ちます。さらに、顧客の立場・目線に立ち、顧客の想像を超える商品の開発を行うための徹底力を強みとしています。そんなセブン-イレブンの成功要因には、以下の3点が挙げられます。

●  顧客の期待を超える商品開発
商品開発にあたってはさまざまなメーカーやベンダーとチームを組む「チームMD」を実践。これによりマーケット戦略上の納得性・確実性を追求し、常に新しい価値を提供する。

●  組織的なプロセス管理
商品開発のプロセスを標準化することで、主観に左右されやすい味(おいしさ)においても確実な成果を出す

●  徹底した現場主義
新入社員は全員店舗での研修を経験する。実地経験によって現場を深く理解することで、従業員の意識とスキルを向上させている。

セブン-イレブンの商品開発プロセスの特徴は下図のようにまとめることができます。

商品開発プロセスの特徴(セブン-イレブン)


※★★:最も企業として力を入れているプロセス・要素、★:その次に力を入れているプロセス・要素

顧客の想像を超える商品を開発するために、商品開発プロセスにおいては一貫性を持ち、商品のパッケージ、商品の美味しさ、見た目の細部にもこだわり一切の妥協を許さない仕組みと承認プロセスを構築しています。

マクドナルド:常に進化し続けるボトムアップ文化

世界最大のファストフードチェーンであるマクドナルド。同社では多くのクルー(店舗従業員)を抱え、彼らのモチベーションが顧客へのおもてなしに繋がるとの考えで様々な施策を取り入れています。そんなマクドナルドの成功要因には、以下の3点が挙げられます。

●  「QSC&V」の徹底
QSC&V(Quality、Service、Cleanliness&Value)を基盤に、顧客第一主義を実践。従業員一人ひとりがマクドナルドの価値観を理解、共感、体感することで、ミッションを体現することができる構造となっている。

●  「ハンバーガー大学」設立による人材育成への投資
アルバイトも含めて、人を教育する立場にあるすべてのクルーが社内教育機関である「ハンバーガー大学」に入学して、リーダーシップやチームビルディングについて学ぶ。マクドナルドビジネスの基盤は「ピープル」と掲げられており、この学びによってミッションを体現するクルーを生み出す仕組みが体系化されている。

●  ローカライズ戦略
「食の嗜好はその土地によって異なる」ことをブランドが理解し、現地の顧客に支持してもらえる見た目・味にこだわっている。期間限定商品は日本人の嗜好に合わせた商品設計で提供できるように、日本法人責任の下、商品開発を行う。

商品開発プロセスの特徴(マクドナルド)

※★★:最も企業として力を入れているプロセス・要素、★:その次に力を入れているプロセス・要素

クルーの95%がアルバイトという環境でも開発担当の設計通りに提供できるように標準化をして、ミッションを体現するクルーを育てる組織を設計しています。そして商品だけでなく徹底的な顧客視点でサービスを具現化し、顧客必要とされる存在であり続けています。

Amazon:地球上で最も顧客中心の企業になる

地球上で最も顧客中心の企業となることを掲げ、イノベーションを続けているAmazon。同社では

「Our Leadership Principles(OLP)」という哲学が浸透しており、これを軸とした独自の技術革新、強力な物流ネットワーク、多様な商品・サービスをグローバルに展開し、無類状態を築いています。そんなAmazonの成功要因には、以下の3点が挙げられます。

●  リーダーシップ原則の浸透
Amazonのリーダーシップを14の原則であらわした「Our Leadership Principles」に基づき、社員が自律的に行動。ビジネスの根幹は「人」であるという考えが根付いている。

●  個のアイデアを尊重
毎日をビジネスの1日目として、新しい挑戦を始める日だと考える「Day1」という考えを持ち、協調よりも革新的なアイデアを重視する組織文化である。

●  顧客データの活用
あらゆるサービスで収集した膨大な顧客情報を基に、新たなサービスや製品を開発。顧客がどのように生活し、何を求めているのかを自社システムでシミュレーションし、顧客のニーズに応える商品やサービスをマッチングさせている。

商品開発プロセスの特徴(Amazon)

※★★:最も企業として力を入れているプロセス・要素、★:その次に力を入れているプロセス・要素

Amazonの商品開発プロセスの特徴としては、「ローカライズ」「ナレッジシェアリング」「コアバリューへの評価制度」「クロスファンクション」「企業を純粋想起させる」といったキーワードが上げられます。

顧客ニーズに応えるためのフレキシビリティを持つこと、蓄積した知見に社内の誰でもアクセスできる仕組みがあること、また基盤としてOLPがメンバーに浸透していることが強みです。また、プラットフォーマーとなる戦略を邁進しており、企業ブランドの想起に繋がっています。

ここまで、7社の成功要因を整理してきました。では、これらに何か共通点はあるのでしょうか。次回は、この共通点を検討しながら、新製品・新サービス開発に強い組織の要件を探ります。

(次回に続く)

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