小林:本日は、グロービス経営大学院の教員である天野さんをお招きしました。
天野さんは、グロービス経営大学院の本科やナノ単科にて、ビジネスに活かすデータ分析を学ぶ科目を中心に教壇に立たれています。
そんな天野さんに、早速ビジネスパーソンの皆さんから届いたお悩み解決のヒントを教えていただきましょう!ひとつめはこちらです。
「で、何が言えるの?」と言われる人に足りない【仮説】
【お悩み①】
AIを使って自分なりに分析結果をまとめたのですが、AIの示唆だけでは、本当にこれで良いのか自分で意思決定できません。
分析をして資料を作ってみたものの、会議で『で、ここから何が言えるの?』と言われてしまいました。
天野:私が担当するクラスでもよく聞く悩みです。何が足りないのかといえば、データに当たる前の「仮説を立てる」プロセスを飛ばしてしまっている場合が多いんです。
行動の事前準備として仮説を立てよう

小林:AIにデータを入れる前の段階が大切なのでしょうか?
天野:おっしゃる通りです。分析はその結果をどう行動につなげるのかが大事。そのためには、AIを受け身で使うのではなく、データに当たる前、あるいはAIを使う前の十分な思考投入が重要です。曖昧な指示でもAIが、ある程度の分析結果を出力してくれます。しかし、AIの出力に依存してしまうと、戦略立案や行動につなげる、よい示唆を得ることが困難になってしまうおそれがあります。
そこで違いを生むのが、事前の思考投入です。
そもそも何のために分析をするのか、データから、どんなことがいえそうか仮説を立てるといったデータに当たる前の思考投入が、よい分析には不可欠です。
たとえば売上を見るときも、ただ数字を眺めるのではなく、「売上減少の原因はどこにあるのかを明らかにする」という目的を押さえたうえで、「客数に問題がありそう」あるいは「単価に問題があるのでは」と仮説を考えてからデータを見てみる。このような思考のプロセスを採用することで、事業改善に直接役立つ示唆を得ることができます。
逆に、こうした視点がなくデータに触ってしまうと、いろいろと時間かけたし、いろんなグラフもつくって労力をかけたけれど、ほとんどの作業が打ち手を考える上では無駄になってしまった……そんなことになりかねません。
データに当たる前、AIを使う前にしっかりと時間を取って、目的を明確にし、仮説を立ててからデータに向き合うことで、分析の成果を現場での戦略策定に結びつけやすくなります。
小林:現場での実体験から、問題がありそうな数字を見ていくんですね。
天野:皆さんそれぞれお持ちの「現場の知恵」を足がかりに仮説を立てると、分析を具体的な行動に結びつけやすくなりますよ。
ただ、自分の経験だけに頼ると、逆にバイアスにとらわれてしまう場合もあります。自分の知っている範囲を超えて考えることも大事です。
小林:知っている範囲を超えていく……いったい、何から始めればいいのでしょうか?
よりよい仮説を立てるためのポイント
天野:こうした分析プロセスに慣れていない人は、はじめのうちは、思考の型を参考にするとよいでしょう。
たとえば、売り上げは「客数」と「単価」に分解できます。あるいは、事業環境を分析するなら「市場・顧客」「競合」「自社」の3つに分解する方法があります。後者は3C分析と言われるフレームワークです。こうした思考の型となる知識を学び、試してみるというのもひとつの手です。

小林:知識をためていくと、的外れな仮説も少なくなっていきそうです。
天野:確かに少なくなっていくと思いますが、最初のうちは的外れな仮説を立ててしまっても、まったく気にせず構いません。
「仮説は当たっているときよりも失敗したときの方が学びになる」とも言われているんです。もし仮説が外れたら、それは問題の原因ではないことがわかったのです。こうした結果をしっかりと記憶しておくことで、誤った意思決定を防ぐことができますので、組織にとってはよい学びになります。
小林:なるほど、トライ&エラーが大切なんですね!
天野:最近は、トライ&エラーではなく「トライ&ラーン」だとも言われます。業務DXが進み、データを蓄積する環境が整ってきたことで、これまでよりもデータ分析の試行錯誤がしやすくなっているのではないかと思います。試行錯誤によって実践的なスキルを身につけることができますし、組織にとっても有用な知見を蓄積していくことが期待できます。
ぜひ前向きに仮説検証のプロセスに取り組んでみてください。
また、分析に習熟されている方の中には、ツールを触る前に紙に仮説を図解化したロジックツリーなどのメモを書き出す人もいます。事前に仮説を立てるという思考の癖をつけるためにも、手書きで書きながら考えてみるのもいいですよ。

AIの回答に違和感があるときは【比較】してみよう
【お悩み②】
自社サービスの解約率が少し上がっています。
AIに分析させると『季節的な変動なので気にしなくていい』と言ってきます。
本当に対策しなくていいのか、やっぱり対策した方がいいのか、AIの回答に少し違和感があるものの、自信を持って判断できません。
小林:続いてのお悩みはこちらです。AIのアウトプットに確信が持てないということですが、こちらはいかがでしょうか?
切り口を主体的に考えてみる

天野:大切なのは、意図を持ってデータを捉えることです。与えられたデータやAIの出力を鵜呑みにするのではなく、いま目の前にあるデータの外の状況やデータの背景にも思いを馳せ、思考を広げましょう。
思考を広げる際の参考にしてもらいたいのが「分析とは比較なり」という言葉です。
ほかと比較することが、分析から示唆を出す一番の近道です。今回のお悩みで言えば、地域別、顧客別など、季節要因とは異なる、ほかの切り口と比較してみるのがひとつの手です。あるいは、季節要因と言っても年度ごとの推移はどうなのかを比較してみるといったことも考えられるでしょう。「いま目の前にあるデータ以外に、どんな切り口があるだろうか」と考えてみて、データにあたってみるのがポイントです。仮に、データを分析した結果、季節による売上の変化は毎年起きていることで顕著な差がないということがわかれば、今回の解約率はそこまで問題視する必要がないと根拠をもって判断できるかもしれません。
小林:納得できる一方で、比較の切り口を見つけるのは難しそうですね……
天野:先ほどもお話ししたように、たとえば3C分析のような、あるいは売上は客数と単価に分解できるといった、比較して考えるのに有効な思考の型をまず当てはめてみるのがいいでしょう。また、各業界には特有の重要な切り口があります。たとえば、コンビニエンスストア業界であれば、日販(1日の1店舗当たり平均売上高)が重要視されます。はじめのうちは、こうした型の助けを借りなが、徐々に自分なりの進め方を見つけるとよいですね。
小林:ナノ単科では、他の受講生とのグループワークがありますよね。そういった場で、それぞれの業界でやっていることを言語化してシェアすると、お互いに参考にできそうです。
視野を広げるための「新たなデータ」と「ビジュアル化」

小林:あまり自分の手元に比較できるデータがないときのおすすめはありますか?
天野:ひとつは、官公庁が発行しているデータなど、ネット上にある公開情報を活用することです。あるいは、自分でアンケート調査を行うなど、「データを新たに取りに行く」という発想も大切です。
AIは、与えられたデータから示唆を出すものです。扱えるデータの範囲には限界があります。手元のデータだけでは分析を深めることが難しいのであれば、自分でデータを取りに行く必要があります。手元のデータでできる範囲の分析を行うこともだいじですが、「他に必要なデータはないか」という発想も大事にしてもらいたいです。
小林:「データを新たに取りに行く」、とても大切なキーワードですね!自分でアンケートを取りに行ったり、他部署が持っているデータを聞きに行ったりも大切そうです。
天野:たしかに、データを新たに取りに行くなら他部署とのコミュニケーションも大切になります。ナノ単科ではそうした場面で相手を説得するコミュニケーションでも役立つ、分析の前提や説明の力を学んでいただけます。
小林:また、分析ではグラフなどでビジュアル化してみることも、違和感に気づくためのポイントになるのではと思いました。
天野:分析の世界では、「目に仕事をさせる」という言葉があるんです。たとえば特定の日付に偏りがあるといった、平均値や中央値だけを見ていると気づけないことが、グラフにすると見えることがあります。違和感に対するセンサーが働きやすくなりますよ。
候補が多すぎるなら【検証のサイクル】を回す
【お悩み③】
AIで問題の原因を探ろうとしたら、競合の動きのせいなのか、自社の施策のせいなのか、出てきた原因の候補が多すぎて絞れません。結局どこを改善すればいいのか特定できず困っています。
検証あってこその仮説だからこそ、小さくともまず始める

天野:大切なのは、仮説は検証されて初めて意味を持つということです。データに真摯に向き合い、自分が最も確からしく思える仮説とほかの仮説を比較しながら、「どれが一番問題なのか」を検証する。このサイクルを回すことが大事です。
ただ、手持ちのデータで検証しきれるとも限りません。その場合、「小さな実験」から検証を始め、徐々に仮説を絞り込んでいきましょう。たとえば、全社でいきなり本格的な検証を実施するのは難しいでしょうから、まずは特定の地域や店舗だけでテストマーケティングをしてみるといった方法が考えられます。
私も研究の中で、「本当は1万人くらい集めた実験ができたらいいのに」と思うこともありますが、理想的な実験ができることは稀です。常に予算や時間といったリソースには制約があります。検証したいポイントを切り分けて分解し、小さなところからはじめて、結果が得られたら組織に共有し、追加調査の必要性を訴えて、少しずつ予算枠を広げ、調査の規模を大きくいく。徐々に広げていくことをおすすめします。
小林:例えば、小さな結果でもデータがあるのとないのとでは、その後の人の巻き込みやすさが違いそうですね。
天野:おっしゃる通りですね。スピーディーにPDCAを回して少しずつ積み重ねていったほうが、失敗も少ないですし、周囲からの信頼を得やすくなると思います。
検証がうまくいかないとき、どうリカバリする?

小林:仮説を検証してみたら、すごく的外れだった、なんてこともありそうです。そんなときはどう巻き戻せばいいのでしょうか?
天野:振り返って次につなげることが大事です。そのためには、しっかりと記録に残す。よくあるのは、仮説を思いつくまま五月雨式に試してしまって、組織の中に記録すら残らないという事態です。「こういう分解で立ててみた仮説だったが、違った」「では次はこうしよう」などと、分析の軌跡を記録として残しながら進めることが大切です。
小林:構造を分解して、自分はどこを検証しているのか。結果に対して何にどんなつながりがあるのか。そうした見取り図を描き、全体像を見渡すことが大事なのですね。
とはいえ、自分ひとりで向き合っていると、どうしても思考が止まってしまう場面もありそうです。
天野:そんなときは、他の人から意見をもらいながら仮説を立ててみましょう。最初のご質問で「知っている範囲を超えた仮説を意識する」というお話をしましたが、人間には必ず、何らかの先入観や偏り、いわゆるバイアスがあります。
私も実務で分析をする際は、よく他の人から意見をもらっています。分析が得意な人というと、科学者のように実験室でひとり黙々と作業し、ひらめきを出しているイメージがあるかもしれません。でも実際には、できる人ほどデータを収集する前に、自分の仮説に対する他者からのフィードバックをもらうという手間を惜しみません。他の人から意見をもらいながら直していく、そんな活動的なイメージの方が強いです。ぜひ自分の頭の中だけに思考を閉じず、人を巻き込みながら分析を深めていってください。
分析の思考習慣は、実践とフィードバックで身につく
小林:読者の皆さんも、今回の「仮説を立てる」「比較する」「検証のサイクルを回す」というステップを踏むと、いつも仕事で扱っている数字の見え方が変わってくるのではないでしょうか。
天野:AIは曖昧なプロンプトでも、お願いすれば、どんどんアイデアを出して分析を進めてくれるので、便利なツールです。しかし、それだと思考が凝り固まってしまうおそれがあります。価値ある分析には、AIの出力を受動的に受け取るのではなく、自分の仮説をぶつけたり、ほかの観点の視点で仮説を考えられないか考えてみたりして、あえて自分の考えを広げる手間を惜しまないことが大事です。
私がコンテンツ開発に携わり、講師を担当しているナノ単科の「データ・アナリティクス入門」では、6週間のオンライン講座でこうした思考習慣を定着させるための実践的なトレーニングの場を提供しています。知識をただ知っている状態で終わらせるのではなく、実際に使えるスキルへと昇華させていく。そのためのアウトプットとフィードバックが得られる場です。
小林:現場で使えるスキルにしていくための、アウトプットとフィードバックの環境があるんですね。興味がある方は、ぜひサイトをチェックしてみてください。
天野:データに向き合う際の思考習慣が変われば、AIの使い方も、明日からの仕事も大きく変わりますよ。またどこかで皆さんにお会いできるのを楽しみにしています!
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