ファイナンスはMBAの科目の中でも最も多くの人が苦戦する分野だ。ただでさえ高校程度の数学を必要とするうえに、割引率や資本コスト、リスクとリターンの関係などを、その原理まで含めて理解するのは容易ではない。また、計算そのものよりも、「どのように前提を置くか」で企業価値などが大きく変わるため、唯一の正解がないことも難しさを増している。
一方で、経営者だけでなく、マーケティングや人事の担当者であっても、自らの施策が企業価値にどう影響するかを正しく理解するには、ファイナンスの理解は必須だ。ファイナンスは経営判断の共通言語とも言えるものであり、あらゆる上級管理職に必須の素養なのである。
今回は、オーソドックスなプロジェクト評価手法であるNPVが、資本構成が変わって使用できない場合に用いられるAPVを紹介する。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
資本構成が変わるケースではNPVが使えない
NPVは実務的によく用いられていますが、弱点もあります。その1つが、WACCを一定のものとして扱い、割引率として用いている点です。ほとんどのケ-スならそれで問題ないのですが、企業買収などで多額の借り入れをする場合、資本構成が変わってWACCに影響を与えることがあります。そうすると、NPVの考え方では事業や企業の評価ができないことも少なくありません。
毎年WACCが変化するような極めて複雑な前提を置いてスプレッドシートを作ることも不可能ではないですが、正確さに欠けるきらいがあります。資本構成が大きく変わる際には、それに応じた手法が必要です。
APVは「FCF」と「節税効果」で企業価値を評価する
そこで開発されたのが調整現在価値(APV: Adjusted Present Value)です。
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APVでは、図表に示したように、事業の経済的価値を100%株主資本で調達したフリーキャッシュローと節税効果に分解して評価します。数式で表すと以下のようになります。
APV=FCFの現在価値+節税効果の現在価値=PV(FCF)十PV(TS)
なお、「TS」とは、節税効果を表すTax Shieldのことです。計算のポイントは、FCFの現在価値を求める際の割引率として、無借金のrEを用いることです。この数値は以下のように計算されます。
rE = rf+(βu×マーケット・リスクプレミアム)
βuはアンレバードβのことです。アンレバードとは、「負債によるレバレッジがかかっていない」という意味です。βuと、通常発表されているβ、すなわちβLは以下の式で関係づけられます(Lはレバードの意味)。
βL=βu{1+(1-T)(D/E)}
ここでTは実効税率、Dは有利子負債、Eは株式の時価となります。
たとえば、Tが0.3(30%)、D/Eが0.2の場合、下記の関係が成り立ちます。つまり借金でレバレッジをかけるほうがβは大きくなるのです。
βL=βu{1+(1-T)(D/E)}=βu(1+0.7×0.2)= 1.14βu
一方で、節税効果(TS)部分の割引率はrDを用います。これは借入金利などからすぐに求めることができます。
『グロービスMBAキーワード フレームワークBEST100』
著:グロービス経営大学院 発行日:2026/3/25 価格:2,420円 発行元:ダイヤモンド社



















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