どのような業務であっても、複雑さが増したり専門性が高まったりすると、1人でそれを担当するのは難しくなる。たとえばかつてちょっとしたシステム開発は1人のエンジニアが設計から開発テストまで担当していた。
しかし現在ではそれでは大きなプロジェクトは回らないので、要件定義はプロダクトマネージャー、設計はアーキテクト、開発(コーディング)はエンジニア、テストはQA、UI/UXはデザイナーなどと業務を分担することで生産性を高めている。
近年では同様の分業が営業の現場でも進行中だ。昔の「足で稼ぐ時代」には飛び込みの新規営業からクロージング、さらにはアフターサービスの一部までを1人のセールスパーソンが行っていたが、これでは育成も大変だし、何よりも営業スタイルが属人化してしまい、ばらつきが大きくなってしまう。
営業、特に法人営業の業務分担にはいくつかのバリエーションがあるが、最も有名なのはセールスフォースが開発した「ザ・モデル」だ。これをそのまま利用したり適宜微調整を加えることで、営業のばらつきを減らしつつ、スケール化することが容易になってきたのである。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
幅広い法人営業業務を1人で抱えるのは非効率
セールスフォースが提唱する、営業活動における分業体制「ザ・モデル」は、「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4つのプロセスから成ります。

かつては、特に法人営業において、見込み顧客の開拓から評価、商談、アフターサービスまでを1人の営業担当者が行うというケースが少なくありませんでした。たとえば、法人融資担当の銀行員は、飛び込み営業から与信、商談、アフターサービスまでを1人で行うことが多いです(ある程度周りからのサポートは受けますが)。顧客をよく知るという意味では1つの方法ではありますが、1人があまりに広い範囲の業務を抱えることは、営業方法の標準化を妨げることになり、営業担当者ごとのバラツキが生じますし、すべてのスキルを習得するのに長い年月を要します。
また、このやり方は、近年注目を浴びるようになってきた「カスタマーサクセス」の効率化を妨げることにもなります。カスタマーサクセスとは、顧客が製品やサービスを最大限に活用して期待する成果を達成できるようサポートすることです。受動的なカスタマーサポートとは異なり、顧客の成功を継続的に支援する積極的かつ能動的なアプローチです。競争が激化する中、顧客満足度をより高め、長期的な関係構築により顧客生涯価値(LTV)を上げる上で重要視されています。
「ザ・モデル」による営業分業の4つのプロセス
ザ・モデルによる分業は、上記の課題を解決しつつ、ITを有効に活用することにもつながります。下記に示した4つのプロセスをシームレスにつなぐことで、各分野の専門性や長所を活かしつつ、売上高の最大化を図るのです。
(1)マーケティング
単にイベントを開催したり、コンテンツ・マーケティング(資料作成など)を行ってリード顧客(見込み顧客、問い合わせ)を創造するだけではなく、ナーチャリング(リード顧客の購買意欲醸成)も期待されます。その結果、彼らの一部がMQL(Marketing Qualified Lead。購入意欲が高いと考えられるリード顧客)へと変わっていくのです。なお、ナーチャリングについてはインサイドセールスが担ったり、共同で行ったりすることもあります。ナーチャリングの手法としては、顧客ごとにあつらえたメールの送信やセミナーの案内などが挙げられます。
(2)インサイドセールス
個別のMQLに対して、メールや電話など非対面のコミュニケーションを行います。BANT分析(予算[Budget]、決裁権[Authority]、ニーズ[Needs]、タイミング[Timing]について調べること)を行うことでMQLを評価し、優先順位付けをします。商談数の代わりにSQL (Sales Qualified Lead :商談する価値のある見込み顧客)をKPIとして使う企業もあります。
(3)フィールドセールス
実際に客先に出向いて(昨今はオンラインも増えています)商談を行い、契約の締結を目指します。すでにそのMQLについて得られた情報を活用して最適なソリューションを提供します。具体的な価格や数量、契約条件などもここで決めます(同時に社内的な承認も取り付けます)。
(4)カスタマーサクセス
顧客に対して、自社製品が最大限の価値を生み出せるようにさまざまなサポートを行います。顧客満足度を高め、リピート購買や顧客同士の紹介によって、アップセル(顧客の単価上昇)やクロスセル(別製品の購入)も狙います。
『グロービスMBAキーワード フレームワークBEST100』
著:グロービス経営大学院 発行日:2026/3/25 価格:2,420円 発行元:ダイヤモンド社
























