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メルカリに学ぶスタートアップ次世代の飛躍的成長の法則①――世の中の『期待』を獲得せよ!

投稿日:2023/08/29更新日:2023/08/30

以前、メルカリの事例で、急成長スタートアップの勝ち方共通項「ブリッツ・スケーリング(資源の超集中投資による、圧倒的スピードかつ指数関数的成長)」を紹介した。

<関連記事>
急成長スタートアップの共通項とは 日本版「ブリッツ・スケーリング」事例研究 vol.1
メルカリを「圧勝」させた戦術  日本版「ブリッツ・スケーリング」事例研究vol.3

『ブリッツスケール』著者のリード・ホフマンによれば、インターネット革命により物事すべてが高速化された。そのため急成長できるだろうタイミングで、今まででは考えられないほどの巨額の集中投資を行い、指数関数的に成長し一気に競合を突き放す、超ハイリスク超ハイリターン型の勝ち方が生まれたという。

※前回の画像より

「ブリッツ・スケーリング」を実践する際には、従来と異なる戦い方のポイントがいくつか出てくる。今回はそのうちのひとつ、『世の中からの期待』についてメルカリの事例で紹介したい。

期待獲得でスタートアップの企業価値をあげる

今も昔も、出資する投資家は、経営者、市場性、提供価値、事業計画や企業価値など、様々な要素を合理的に吟味する。そのため実態が全くなければ評価はされない。ただ、最近のスタートアップ投資においては「将来のリターンが見込める」「次のGAFAになりうる」「世の中を変えてくれるであろう」など、ある種実態の見えない『期待』も重要なファクターだ。スタートアップ企業の価値を測る時価総額には、「業績」のみならず「将来の期待」が含まれるのだ。
時価総額に将来への大きな期待が反映されれば、業績以上の資金獲得が可能となり、成功確率が低いブリッツスケールや新サービスが挑戦可能となる。その結果、実態としても企業価値が上がり、更なる資金調達や急成長のための巨額投資がしやすくなる。

メルカリを例に事業戦略の観点で紹介していこう。

メルカリが上場した際、将来に対する高い評価で一時、時価総額は8000億を記録した。2018年当時は設立5年目で「日本のフリマアプリの代名詞」ではあったが、年度の売上は358億、利益はマイナス70億だ。国内フリマアプリ市場全体でも前年度3割成長で6392億円に過ぎなかった(経済産業省の2019年の調査)※1

もちろん投資家はベンチャー・キャピタル法などでスタートアップの時価総額を算出し、定量的に投資判断をするが、最後の意思決定は感情的な要素も少なくないのだ。

<参考記事>
メルカリの時価総額はなぜこれほど高いのか?

『期待』に応えてさらなる期待を!

では、そんな「期待」は何にひかれ集まるのか。『期待』の由来を複数のユニコーン成長事例から考察するとポイントは以下であった。

  1. 大きなビジョンを持ちながら、素早く中核事業を成長させる
  2. 果敢な挑戦、失敗したら次に生かす

それぞれをメルカリにあてはめてみよう。

1.大きなビジョンを持ちながら、素早く中核事業を成長させる

「現在までの成長と実績」に加え、社会課題解決やグローバル展開などの「将来の壮大なビジョン」を見据えた戦略が、事業急成長の為の資金調達と投資を可能にしていく。

2013年2月創業のメルカリは、翌14年3月、売上がまだない状態でシリーズB、14.5億円の資金調達をした。当時の時価総額は82.9億円であった。「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションとし、2014年9月には米国でのフリマアプリ事業を開始している。資金を基に広告やサービス強化など積極投資し、2015年2月にはアプリダウンロード数が1,000万、2017年12月に世界累計1億ダウンロードと着実に成長した。そして2018年のIPO前までに約180億円の資金調達をし、新サービスや事業を立ち上げていくわけだが、2017年度は売上212億円、営業利益44億円である※2。業績に対しても、調達額が非常に大きいことが分かるだろう。

2.果敢な挑戦、失敗したら次に生かす

失敗から学んだことをオープンにし、学びをその後活かして成功確率を高める、こういった取り組みが、失敗を期待に変える要因となりうる。

メルカリも初期段階から積極的に複数サービスを開始し、多くの失敗を経験している。創業から2年の2015年9月には、子会社である株式会社ソウゾウを設立し「ありそうでなかったをソウゾウする」ミッションのもと、新サービスを次々と立ち上げている。しかし、「メルカリ級になれなかった(メルカリのような成長曲線を描けない)」という理由でほとんど撤退した※3

メルカリグループにおける終了・撤退サービスの例

名称 サービス内容 リリース 撤退
メルカリ アッテ 地域コミュニティアプリ 2016年3月 2018年5月
メルカリ カウル バーコード出品機能のあるフリマアプリ 2017年5月 2018年11月
メルカリチャンネル ライブコマースサービス 2017年7月 2019年7月
メルカリ メゾンズ ブランド品特化型フリマアプリ 2017年8月 2018年8月
メルカリNOW 即金買取サービス 2017年11月 2018年8月
teacha スキルシェアサービス 2018年4月 2018年8月
mertrip 旅のストーリー共有アプリ 2018年11月 2019年1月
メルチャリ シェアサイクルサービス 2018年2月 2019年6月
メルカリ イギリス事業 英国におけるフリマアプリ 2015年11月 2018年12月

撤退により期待は下がり、一時8,000億円超を記録した時価総額も2019年6月に4,309億円となったが、中核事業の成長と、オンライン決済メルペイサービスなど新たな事業への期待は根強かった。 メルカリ会長の小泉氏はある記事で「事業撤退やサービス終了に際し (略) 振返り、学べたことを共有する」という社内の仕組みについて述べている。

他にも、元ソウゾウ代表の原田大介氏は「撤退基準を設けること」が失敗からの学びで、その後活かしていると述べていた。

現在のメルカリは、失敗からの学びを活かし、サービスを広げすぎずに事業展開している。2023年6月期の売上高は1720億円、最終利益は130億円で時価総額は約5700億円である(時価総額は2023年8月)。次に生かされる失敗は、むしろ将来の期待と成長につながる。

最後に

インターネットなどデジタル技術を用いた事業は、勝者総取り(Winner takes all)となりやすい。そして他社に先んじて圧倒的勝者になるために、業績実体のない中、多額の調達した資金を継続的に投じる必要がある。そのためには、大きなビジョン、目の前の行動と失敗からの学び、失敗を乗り越えて事業を急成長させることが今まで以上に重要だ。そのために経営者として信頼を得、『期待』を獲得することが一層必要になっているのである。

次回はスタートアップにとって重要な競争優位の法則のひとつ、『エコシステム』についてメルカリの事例を通じ、紹介しよう。

次回に続く


<参考文献>

※1 フリマアプリ市場が2年で倍増、割食って伸び悩んだ「あの市場」

※2 メルカリ ファイナンス情報|STARTUP DB
  FY2018.6 通期決算説明資料|メルカリ
   フリマアプリ「メルカリ」が世界1億ダウンロードを突破|メルカリ

※3 ソウゾウはなぜ、すべての事業をクローズしたのか?──挑戦と撤退を繰り返すことで見えた、事業創造の要諦|fastgrow
   時には名誉ある撤退も、メルカリに学ぶ「見切る力」|日経ビジネス
   メルカリ小泉文明氏が語る、会社のミッション達成に近づけない新規事業の撤退判断|ログミーBiz
  メルカリが英国事業から撤退 理由は「リソース配分の優先順位から判断」|Forbes

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