急成長スタートアップの共通項とは 日本版「ブリッツ・スケーリング」事例研究 vol.1

なぜ今BLITZ SCALINGなのか?

2021年10月に発足した岸田新政権。成長戦略の中で、新たな潮流を示すという意味でひと際目についたのは「スタートアップへの徹底支援」であった。

日本はこれまでスタートアップ企業が育ちにくい市場と捉えられていたが、21年9月に米国調査会社であるスタートアップ・ゲノムが発表した「スタートアップ・エコシステムランキング」では、東京が9位(20年は15位)にランクインしており、少しずつではあるが市場の様相が変わりつつあることが見て取れる。

“GAFAM”は 今や言わずと知れたグローバル企業の代表格だが、彼らもかつてはスタートアップであり、特にこの10年で世界的に大きく躍進した企業群でもある(米ハイテク企業群のGAFAM 5社で日本の上場企業約2,200社分を超える驚異的な時価総額を誇っている)。

彼らの成長はシリコンバレー特有の環境下だからこそ生まれたという見方もされるが、当然それだけではない。市場の定義、テクノロジーの活用、顧客獲得とその圧倒的な拡大スピードなど、様々な戦略的示唆がそこにはある。

スタートアップにとって追い風が吹き始めた今の日本において、GAFAMを超える企業は生まれるのか? 本コラムでは『BLITZ SCALING』(リード・ホフマン著)を紐解きながら戦略的な視点でそのヒントを見出したい。

BLITZ SCALINGとは何か?

ブリッツ・スケーリング(BLITZ SCALING)とは、「電撃的な(blitz)」という形容詞が表す通り、圧倒的なスピードかつ指数関数的な成長を可能とする戦略である。

従来の伝統的で常識的とされているビジネス戦略とは異なり、将来を見通しにくい状況下で効率性よりスピードを優先し、多くの経営資源を投下する積極的な成長戦略を指す。経営リーダーはリスクと不安の増大に耐え忍ぶ日々を送る一方で、成功の先にはWinner Takes Allの世界を実現させるのである。

巨大SNSの明暗を分けたmixiとFacebook

皆さんは「世界を代表するSNSは?」と問われて何を思い浮かべるだろうか? Facebook、TikTok、Twitter… 実に様々なサービスが挙げられると思うが、その多くは米国をはじめとした海外サービスである。

では、「世界で初めて上場したSNSは?」と問われるとどうだろうか。答えは日本の“mixi”であり、意外にもこの事実はあまり知られていない。

過去にmixiでCFOを務めていた、メルカリの小泉文明会長によると、当時のmixiは最大で3,000万人のアクティブユーザーを抱えるSNSに成長しており、日本中を熱狂の渦に包むほどの影響力と勢いを持っていたという(関連記事:「小泉文明氏が語る『メルカリ経営哲学』とは」)。

あまりの熱狂具合に「(学生が)授業中みんなオレンジの画面(当時のmixiのUI)を見て授業を聞いていない」というクレームが大学から寄せられた逸話もあるほどだ。対談時の2020年1月段階でメルカリのMAU*が1,400万人であることを考えると、当時のmixiが如何に影響力を持っていたかが想像できる。

まさに3,000万人というユーザー数をベースに、1つの巨大な経済圏を築けるほどの可能性を秘めていたmixiだったが(実際に小泉氏は、このようなエクイティ・ストーリーまで描いていたと語っている)、市場の認知とユーザー数は2008年以降Facebookに徐々に侵食されていく結果となる。何が明暗を分けたのか?

「市場規模」をどのように定義するか

小泉氏の言葉を借りるなら、「競争に負けたのではなく、(自ら)戦略を取り違えた」といえるだろう。事実、“SNS”という事業特性において、mixiとFacebookで大きな差異があったかと問われると、必ずしもそうではない。

複数の考察視点はあるものの、1つ大きな差を挙げるならば「市場規模」の捉え方ではないだろうか。書籍『BLITZ SCALING』第2章「ビジネスモデルのイノベーション:①市場規模の定義」の中でも、自身が見据える市場を過小評価せず、最大規模で捉えることの重要性が語られている。

当時のmixiがFacebookと比べて市場を小さく捉えていたかどうかは定かではないものの、初期段階より市場をグローバル規模で捉えたFacebookが、インターネット技術の高まりを追い風に「ネットワーク効果」を世界規模で最大化させ、結果的に他の追随を許さないほどの影響力とユーザー数を獲得できたことはある種の必然だったのではないかと捉えることもできる(LinkedIn、Amazonでも同じことが言及できる)。

メルカリは創業段階より市場をグローバルで捉えており、日本市場はあくまでその足掛かりのファースト・ステップであると(比較的早期での米国展開を見るに)位置づけていたと考えられる。当然、市場規模の捉え方だけで勝てるほど甘い世界ではないものの、「我々はどの市場(規模)で戦うべきか?」という、出発点となる「問い」無くして可能性の道は拓かれない時代になったとも言える。

日本でブリッツ・スケーラーは生まれるか?

日本のスタートアップからGAFAMは生まれるか?

冒頭の問いに対する私たちの答えは、大いに「Yes」である。ビジネスの着想や技術レベル・人材の質において、諸外国と比較しても日本が見劣りすることは決してないと考えており、加えて日本のスタートアップを取り巻く環境も追い風になりつつある。

次回以降は後述の日本企業を研究題材に、“日本型ブリッツ・スケーラー”から学べる示唆やヒントを、“BLITZ SCALING”の視点も加味して考察していきたいと思う。

事例の選定基準は、以下の通りだ。2011年以降設立で株式時価総額1,000億円を超える企業(2021年7月2日時点)で、Winner Takes Allが生じる可能性のある市場で競争を行っている企業とした。そのうえで、上場・非上場の観点から複数社を選定してリサーチを実施した。ただし、2011年以前の事業を継承して、主要事業にした企業(主には持ち株会社で既存の上場企業を傘下に置いたもの)は除いた。具体的にはマネーフォワード、スマートニュース、SmartHR、メルカリを取り上げることとする。

* MAU: Monthly Active User

本原稿は、2021年11月21日にグロービス経営大学院で創造ファカルティグループが行ったリユニオン発表を基に執筆しています。

◆日本版「ブリッツ・スケーリング」事例研究シリーズ記事はこちらから
vol.2 マネーフォワード、2つの非常識戦略
vol.3 メルカリを「圧勝」させた戦術
日本発ブリッツ・スケーリング実現の秘訣 SmartHR・倉橋COOに聞く【ビジネスモデル編】
日本発ブリッツ・スケーリング実現の秘訣 SmartHR・倉橋COOに聞く【組織編】

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