マネーフォワード、2つの非常識戦略 日本版「ブリッツ・スケーリング」事例研究 vol.2

「ブリッツ・スケーリング(BLITZ SCALING)」とは、圧倒的なスピードかつ指数関数的な成長を可能とする経営戦略を指す。今回は海外から多額の公募増資に成功した日本のブリッツ・スケーラーの1社である「マネーフォワード」を取り上げる。なぜ短期間で急成長できたのか。「競争は避ける」「初期の多角化はしない」という、それまでのスタートアップで常識と考えられていた2つに反する行動を同社がとった点に着目したい。

競争避けず、早期に多角化へ

マネーフォワードは2012年5月に設立し、17年9月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場。21年11月期の連結売上高は156億円、同年11月末時点の従業員数は1,259名に上る。「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションにもとづき、資産管理・家計管理ツール「マネーフォワード ME」など、個人向けサービスから事業を始めたマネーフォワードは、法人向けにも会計、勤怠、経費業務などのSaaS型サービスプラットフォームを提供している。

リソース面で大企業に劣るスタートアップ企業は一般的に、競争を避けるという意識を強める傾向がある。ところがマネーフォワードは、設立後早い段階で、既にWindows版パッケージソフト販売大手の弥生やfreeeなど先行者が存在する厳しい競争環境にある中、法人向けのクラウド会計ソフトウェア市場に参入し、急成長を遂げていく。その後も、経費精算や労務管理のソフトも開発し、多角的に事業を展開していく。

「競争は避ける」「早期の多角化はしない」という常識に反する事業活動と言えよう。

しかし、海外投資家はこうした戦略を支持している。マネーフォワードは21年、海外での公募増資により300億円を超す資金を調達した。

(関連記事:「マネーフォワードが大型増資 新興企業が海外マネーに頼るワケ」)

米国の先行事例に学ぶ

ブリッツ・スケーリングを実現させる上で、アメリカなどでの先行事例の研究は大いに参考になる。マネーフォワードの多角化戦略やプロダクトのモデルとして参考にした企業としてINTUITがある¹。

INTUITは、米国の成長企業で、2021年7月期の売上高が約96億ドル、当期純利益が約21億ドルに上る大企業だ。21年11月には株式時価総額が一時2000億ドルに接近した(円換算すると、東証では首位のトヨタ自動車に次ぐ2位の規模となる)。

INTUITも会計を軸としたプラットフォームサービスおよびクラウドサービスを提供し、多角化した戦略によって事業の成功を収めている。自らプロダクトを作っていくだけではなく、積極的に資金調達をし、大規模M&Aをすることで成長速度を加速させている。21年にはEメール配信のMailChimpを1兆3000億円超で買収することを発表し、マーケティング強化を図っている。

マネーフォワードが上場後も積極的に資金調達をし、多角化を進めているのは、こうしたアメリカの成功企業の事例を参考にしていることが大きいと考えられる。

マルチプロダクトでネットワーク効果

市場を最大規模にとらえようとするブリッツ・スケーラーは、利用者の増加によりサービス価値も向上する「ネットワーク効果」の実現を目指し、果敢に事業の多角化を展開している。

企業が扱うプロダクトがひとつしかなければ、利用者の増加によりサービス価値も向上する「ネットワーク効果」は発揮しにくい。ひとつのプロダクトではなく、複数のプロダクトを持って事業を展開することが理想だ。それにはプロダクト間の互換性が不可欠となる。互換性に富んだ標準規格化を行い、外部企業とAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)連携を進めることで、ネットワーク効果をさらに加速させることができる。

日本版「ブリッツ・スケーリング」のマネーフォワードに続く企業はどこか。今後に注目したい。

(本原稿は、2021年11月21日にグロービス経営大学院で創造ファカルティグループが行ったリユニオン発表を基に執筆しています)

◆日本版「ブリッツ・スケーリング」事例研究シリーズ記事はこちらから
vol.1 急成長スタートアップの共通項とは
vol.3 メルカリを「圧勝」させた戦術
日本発ブリッツ・スケーリング実現の秘訣 SmartHR・倉橋COOに聞く【ビジネスモデル編】
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1 マネーフォワード公式note「『会計の未来』を示し続けるアメリカの会計ソフト企業 Intuit

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