フリーマーケット・アプリ(フリマアプリ)のメルカリ(証券コード:4385)が、6月19日に東証マザース市場に上場した。IPO価格は3000円、上場直前の発行済株式総数が117.2百万株であったので、その時価総額は3516億円となる。上場日には6000円の高値をつけ、その時価総額は一時8000億円を超えた。
メルカリの業績を確認すると、2018年6月期の連結売上高は220億円、営業損失は27億円、当期純損失は42億円。2019年6月期の連結業績見込みは、上場前は非開示であったが、上場当日の6月19日に連結売上高358億円、連結営業利益、純利益とも損失の見込みと発表した。
赤字であるのに、何故このような高い時価総額がつくのか、そもそも赤字企業の株式に株価が付くのかという疑問を感じている読者も多いことであろう。
答えは簡単である。株価は将来の利益の現在価値であるので、当面赤字であっても、将来的に大きな黒字が見込まれるのであれば、その株式には大きな価値があるということだ。
ベンチャー企業の株価を算定する方法として、「ベンチャーキャピタル・メソッド」という手法がある。設立したての企業や、設立後間もない企業は往々にしてその損益は赤字である。しかし、数年後には事業が軌道に乗り、利益が出てくることを確信して、起業家は事業を起こす。このような企業に投資する投資家(ベンチャーキャピタリスト)は、投資先企業が将来利益を出すことを前提として、その将来時点での利益に同業他社の平均PER(株価は1株当たり利益の何倍かを表す指標)をかけたものを、その時点での時価総額とし、この時価総額を投資時点の現在の価値に割り戻す。割り戻す際には、事業リスクのほかにその企業が生存して利益を出すかどうかの不確実性を加味した、かなり高い割引率(期待収益率)を適用する。
例えば、設立されたばかりであるが、5年後に1億円の当期純利益を計画している企業を想定しよう(図1参照)。また、この企業の5年後の姿に近いと思われる同業他社が数社上場しており、その平均PERが20倍だったとすると、評価対象企業の時価総額は5年後に20億円(1億円x20倍)となる。この企業は設立されたばかり(アーリー・ステージという)であり、5年後に存続し、かつ期待された当期純利益を計上できるかどうかには大きな不確実性が存在する。
したがって、5年後に存在し、かつ1億円の当期純利益を計上できる確率を検討した結果、10%程度と見込まれ、またその事業のリスクに見合った割引率が6%とすれば、その6%を成功確率である10%で割った割引率である60%(6%÷10%=60%)が投資家として期待すべきリターン(期待収益率)となる。5年後の20億円を年率60%で割り戻せば、1億9100万円となり、これが評価対象企業の今現在の時価総額となる。
この考え方をメルカリの時価総額に当てはめてみよう。IPO時の株価には通常30%程度のIPOディスカウントが課されているので、主幹事証券会社は、メルカリの1株当たりの適正価格は4286円(3000円÷(1-30%))と推定したことになる。事実、上場後の初値は5000円、最高値6000円、終値は5300円と、市場は主幹事証券会社よりもかなりの高評価をメルカリに与えている。その後株価は若干低下し、6月27日現在4675円となっている。これらの株価に発行済株式総数をかけたもの(メルカリはかなり多額の現預金を抱えているのでその金額を控除した後の数値)がメルカリの今現在の時価総額であり、約5000億円と計算される。
メルカリの連結決算が赤字の理由は、特に海外でのフリマアプリそしてメルペイの展開にかかわる先行費用投資によるものであり、国内事業はすでに黒字化している(2018年6月期の単体決算では、売上高212億円、営業利益44億円と高収益を上げている)。
例えば、今後5年間の年間売上増加率を50%とすると2023年6月期の連結売上高は1676億円、営業利益率を35%と仮定し、35%の税金を控除すると当期純利益は381億円となる。5年後も成長が期待されるのでPERを25倍と想定すると、その時価総額は9532億円となる。その現在価値が前述のように5000億円程度とすると、5年間の利回りは13.8%((9532÷5000)^(1/5)-1=13.8%)となる。事業リスクに見合った割引率を6%と想定すると、成功確率は43.5%(6%÷13.8%=43.5%)となる。このことは、株式市場が、現在は、また当面は赤字であっても、メルカリが5年後も存続し、かつ高収益を上げる可能性を高く評価していることになる。