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コーポレートガバナンスの意味と目的 ~よくわかる!はじめてのコーポレートガバナンスvol.1~

投稿日:2020/07/20更新日:2020/08/03

一層求められるガバナンス改革

「物言う株主」が株主提案によって経営改革を迫る株主総会シーズン。昨今の東芝や日産、今年に入ってからは独ワイヤーカードの不正会計で「ドイツのスティーブ・ジョブズ」の異名を持つCEOが逮捕されるなど、不祥事が起きるたびにコーポレートガバナンスが注目されます。さらに日本では、価値創出の面から、生産性が高まらない多くの日本企業に対して「ガバナンスを強化せよ」と、アクティビストや国から号令がかけられています。コロナ禍でDXが加速し、かつ、業界再編の足音が聞こえる今、ガバナンス改革はより一層必要とされています。

ガバナンスを学ぶ意味

ではそもそも、「コーポレートガバナンス」とは一体何でしょうか?コンプライアンスや内部統制とはどう違うのでしょうか?ガバナンスとはもはや、経営者や会社役員、経営企画、財務、広報にかかわる人材だけが知っていればいい話ではありません。グローバル化が進み、海外の子会社・関連会社に駐在したり、ビジネスで関わったりする方は増加しましたので、企業内のグループガバナンスの観点からも身近になりました。また、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長の巨額報酬隠しの例など、ガバナンスが機能不全に陥ると、有事の際の組織への破壊力は「半端ない」レベルになりかねりません。企業の一構成員として、ガバナンスを知り、経営層の行動に意識を向けることが、組織の健全性と競争力を維持し高めることにつながります。

これから複数回にわたる「よくわかる!はじめてのコーポレートガバナンス」シリーズの、今回は第1回として、コーポレートガバナンスの意味と目的について解説します。見慣れない言葉が出て来ても、ぜひ最後まで読み進めてみてくださいね。

コーポレートガバナンスとは

「コーポレートガバナンス」とは、 “企業をめぐる関係者が、企業の舵取りをどうするかを考えること”です。(*1)この関係者とは、顧客、従業員、債権者、株主、取引先、国・地域社会と、幅広く存在します。経営者も、厳密には二種類に分けられます。業務を執行する側と、経営を監視する側の取締役や監査役からなる取締役会があります。幅広い意味での関係者みながそれぞれ、自分たちの利害を守るため、普段、企業の舵取りを任されている経営者の意思決定や行動について、経営者と協議し、合意形成するシステムであり、株主との関係を第一義的なものとしています。

コーポレートガバナンスとは:
企業の関係者が自分たちの利害を守るために、経営者の意思決定や行動について、経営者と協議して合意形成する仕組みを通じて、企業の舵取りをどうするかを考えること  

出所)松田千恵子著、「これならわかるコーポレートガバナンスの教科書」、日経BP社、2015年よりグロービス加筆・編集

図:コーポレートガバナンスにおける企業と経営者を取り巻く関係者

出所)グロービス

「協議し合意」と聞くと、平和な話し合いのイメージを持たれるかもしれません。が、経営改革を求める株主と企業との“話し合い”は、時に激しい火花を散らし、マスコミに大々的に取り上げられたこともありました。

2000年以降、日本で「物言う株主」として最も有名になったのは、村上世彰氏らが率いたファンド、通称「村上ファンド」です。村上ファンドは、阪神電鉄・百貨店、ニッポン放送、TBSなど有名企業の大株主となり、親子上場している銘柄の企業価値評価の不合理を突いたり、敵対的TOB(株式公開買付け、take-over bid)を仕掛けたり、さらに、これまで社長の胸三寸で決まっていた取締役の選任にまで口を挟むので、昭和期からの護送船団方式に慣れ親しんで来た日本企業や日本社会から見ると、たいへん異質で厄介な存在に映りました。2000年代は、日本企業を安く買って再生し高く売る手法を用いる外資系ファンド、いわゆる「ハゲタカファンド」が、存在感を示していた時代でもありました。

コーポレートガバナンスの目的

なぜ、こんな騒ぎを起こしてまで、物言う株主は経営改革を迫るのでしょうか。

その大きな目的は、企業の持続的な成長中長期的な企業価値の向上です(*2)。これらが達成されることで、ゆくゆくは株価上昇や増配が期待できるため、株主にとっても有益だからです。

コーポレートガバナンスの目的:企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上

なんだ、これはどんな企業の経営者でも目指しているはずの経営目標ではないか。そんな声が聞こえて来そうですね。本来、経営者と株主は、共通の目的に向かって進む同士であるはずなのです。ところが、なぜ、当たり前のことにも聞こえるガバナンスの目指すべき方向性を、わざわざ公の場で示し、ガバナンス強化をしなくてはならなかったのでしょうか?

その原因は、大きく分けて次の3点でした。①日本企業の株主軽視の傾向②株主と経営者の利益相反関係、そして、③日本経済の長期停滞です。これらの要因によって、多くの日本企業のガバナンス機能は長年、欧米諸国の投資家から異端視され、また、企業内部においても機能不全が起きやすくなっていました。

次回の記事では、上記の①~③について詳しくみていくことで、ガバナンスの強化が求められるようになった背景と問題点を整理し、それらを踏まえて、コロナ禍の今、求められるガバナンス改革について解説します。

このコラムで引用させて頂いた、松田千恵子さん著「これならわかるコーポレートガバナンスの教科書」(日経BP社、2015年)は、経営陣だけでなく、実務を担うミドル層や、経営学を学ぶすべての方に、コーポレートガバナンスを知る最初の一冊としてオススメです!身も蓋もないガバナンスのお話が満載です。

(*1)松田千恵子著、「これならわかるコーポレートガバナンスの教科書」、日経BP社、2015年、p.18
(*2)金融庁、「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」、平成26(2014)年12月12日、2020年6月25日アクセス

【もっと詳しく学びたい方へ】
グロービス経営大学院で提供する、「企業変革」をファイナンス視点で学ぶ応用展開クラス「ファイナンシャル・リオーガニゼーション」では、前述の村上ファンド vs. 阪神電鉄の攻防を題材にしたケースメソッドを通じて、アクティビスト株主への対応を当事者の立場になって考え、停滞に陥ってしまった歴史ある企業の変革と再生、コーポレートガバナンスのあるべき姿について、実践的な理解と洞察力を養います。 

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