「女性の生き方・働き方に選択肢がない」——意欲ではなく環境が問題
地方圏の女性の約3割が、「自分の地域では女性の生き方・働き方に選択肢がない」と答えている。都市圏と比べて、倍の規模だ。

リクルートワークス研究所は、2025年9月に、家庭の事情で一度仕事を控えめにした経験がある35〜54歳で配偶者と子どもがいる女性を対象にしたアンケート調査を実施。
「育児・介護は女性の仕事」といった地域に根強く残る性別役割期待と、女性のキャリアにつながる就業機会の不足が互いに絡み合いながら地方の女性の「選べない」感覚を強化している実態を浮き彫りにした。
大嶋さん「女性が選べないと感じている背景には、そう感じざるを得ない環境がある」
個人の意識や意欲の問題ではなく、環境の問題だという前提が、この日の議論の出発点になった。
令和6年度内閣府「地域における女性活躍・男女共同参画に関する調査報告書」によると、女性が地方を離れる理由として、進学に次いで2番目に多かったのが「やりたい仕事がなかったから」だった。さらに、女性は男性より「地元を離れたい」「周囲や親の干渉から逃れたい」と答える割合が高かった。「選べない」感覚は、地域への帰属意識そのものを損なっていく。
では、その構造を変える鍵はどこにあるのか。女性がキャリアに向けて行動を起こすためには「キャリアの自己効力感」と「キャリアの結果期待」が重要になる。自己効力感や結果期待が高いほど、実際の行動も多い。大嶋さんはその関係をこう説明した。
大嶋さん「キャリアを切り開く上で鍵になるのは、自信と期待の2つです。自分にはできるという自信と、頑張れば結果につながるという期待。この2つが高い人ほど、実際にキャリアに向けた行動を起こしている」
その自信と期待を育む要因として、大嶋さんたちの調査が示したのはロールモデルの存在でも、両立支援制度の整備でもなかった。「挑戦的な仕事での模索経験」が自己効力感を、「仕事を通じた確かな強みの自覚」が結果期待を育てる——いずれも、経験を自分の価値として意味づけることの重要性を示している。
大嶋さん「支援的な関係の確保、つまりロールモデルの存在や周囲からの両立への理解は、女性が働き続ける上では重要だが、その上で女性がキャリアへの自信や期待を持つこととは直接関わりを持っていなかった」
ロールモデルを示し、育児に配慮する。そうした取り組みだけでなく、女性の経験価値を高める必要をデータは静かに示していた。

大嶋さんはさらに踏み込んだ。世の中で小さなリーダー経験が男性側に積み重なっていく一方、女性側には挑戦的な機会が与えられにくい。いきなり管理職を任せても「できない」のではなく、その手前の経験は設計されてこなかった。
大嶋さん「女性に意欲がないんじゃなくて、意欲を育てるようなマネジメントができていないんじゃないですか——そういう問いかけが必要」
「運が良かっただけ」——自分を過小評価してきた時間
性別役割分担意識は、制度や慣習として外側から押しつけられるだけではない。当事者自身の内側に静かに根を張り、「今はこれでいい」という感覚として内在化していく。それは、女性のキャリア支援を長年手がけてきた実践者たちが、現場で繰り返し直面してきた壁だ。
君島さん「女性側に働きかけるだけでは足りないというのが今のお話の非常に大事なポイントだったかなと思いますが——これは女性側に言っただけではとても自信を持てる状況にないということですか」
パネルトークでの君島さんの問いに、小安さんが答えた。
小安さん「こんな仕事をしている私ですら、『私は家のことをメインでやらなきゃいけないんじゃないか』って思っていた時代がありまして」
小安さんは、株式会社Will Lab代表取締役として全国の自治体・企業と連携し、地域のジェンダーギャップ解消に取り組んでいる。そんな小安さん自身が、かつて仕事をセーブした時期があった。転機になったのは、「君ならできる」「あなたならできる」という上司の言葉だったという。

小安さん「女性は『今はこうしたい』ということと、『本当は中長期でどうしたいか』ということの間に、やっぱりギャップがある」
「5年後、10年後、本当だったらこうしていたい」「環境が違ったらこうしたい」——内在化された役割意識が、その声を封じている。そこを引き出すことが、Will Labが注力する支援の核心だ。
さらにやっかいなのは、この内在化が自己評価にも及んでいることだ。大嶋さんが全国で女性のキャリア支援に取り組む人々に聴取した結果からは、女性が自分の仕事の成果を「運が良かっただけ」「させてもらっているだけ」と捉える傾向が指摘されている。挑戦的な仕事で成果を出しても、それを自分の力として受け取れない——だからこそ、経験を「一緒にストーリー化する」プロセスが必要になる。
小安さんが全国各地で行うワークショップは、その問いを掘り起こす場として設計されている。3〜5回のプログラムを通じて、参加した女性が「本当はこうしたい」を自分の言葉で語れるようにし、最後にプレゼンテーションを行う。自分だけが気づくのではなく、職場や地域に届けるところまでをセットにする。
2018年から伴走する兵庫県豊岡市では、経営者の意識改革を推進する企業コンソーシアムが16事業所から現在144事業所に拡大した。宮城県気仙沼市では、約130事業所が参加するジェンダーギャップ解消プロジェクトが動いている。
一方で、ネットワーク作りには難しさもある。ある地域では、場を用意しても人が集まらなかった。参加者に理由を問うと、こんな声が出た。「車で1時間かけて集まらなきゃいけない理由がないと、家を抜け出せない」。
移動のハードルの背後にも、役割分担意識が働いていた。行政からのレターで正式に呼ばれてはじめて、人が集まったという。自然発生を待っていては、時間がかかりすぎる。
「頭数だけ働き方がある」——経験をデザインする職場
84万人——美容師の資格を持ちながら現場を離れた「休眠美容師」の推計数だ。長時間労働、土日祝日の勤務。育児や介護、パートナーの転勤を理由に、ハサミを置いてきた人たちがいる。
KIBOWの投資先であるラポールヘア・グループは2011年7月、東日本大震災の直後に宮城県石巻市で創業した。現在、全国61店舗(ベトナムにもフランチャイズ展開中)、スタッフ301人、平均年齢50歳。全スタッフの95%以上が女性で、30〜70代の、時間に制約のある女性が働く場として地方を中心に展開してきた。
取締役の渡邉さんは、同社の取り組みを「ラポールモデル」と呼ぶ。性別による賃金格差はゼロ。店舗にキッズルームと保育係を配置し、店長を置かないフラットな体制をとっている。20年近いブランクを経て復帰した美容師もいれば、75歳で現役を続けるスタッフもいる。パートナーの転勤があっても近隣店舗で続けられる環境も整えている。

渡邉さん「午後3時にあがってお迎えに行く働き方もある、土日は出なくていいという選択肢を用意する。そうすると、だんだん『もっと美容師の仕事がしたい』『パートナーに土曜日に出勤してもいいか交渉してみようかな』というスタッフが出てくる」
外から与えられた選択肢が、内側からの変化を引き出していく。
代表取締役の早瀬さんは、採用の考え方をこう話した。
早瀬さん「女性はスタッフの頭数だけ働き方があると思っています」
採用面接では、早瀬さん自身が一人ひとりの状況を丁寧に聞く。家庭状況、将来のこと、これからどう働いていきたいか——「キャリア」という言葉は使わずに、まず本人の状態を確認することから始める。
早瀬さん「女性が選べる環境を我々が用意しようということが基本の形になってますね」

店長がいないことで、スタッフが自分たちで協力関係を組む——早瀬さんはそれを「互助の精神」と呼ぶ。いろんなライフステージの人がいて、何時に働きたいか、どんな時に困るかというニーズが違う。だからこそ噛み合う。キッズルームでは30〜40代の子育て世代と60〜70代の祖父母世代が同じサロンで働き、「頑張れ、今は大変だけど子育てはすぐ終わっちゃうよ」と声をかけ合う。
今年3月、創業15年を機に初めてインパクトレポートを公開した。スタッフへのアンケートでは、「自分の可能性が広がった」と答えた割合が46%超。「仲間が増えた」も同数値で並んだ。
渡邉さん「女性たちが自分で考えて、働くことを実現するだけでなく、もっと自分は稼げるんだと思える場をつくっていきたい。『働く』から『稼ぐ』へ——そこまで実現していけたら」
こうした職場で起きていることは、大嶋さんのデータが示した「経験そのものが自信を育む」という知見と重なる。熊本県で地域支援や女性のキャリア支援などを行うきらり.コーポレーションでは、発表したことに対して具体的な成果と照らし合わせながら「これがあなたの得意分野だ」と繰り返し伝える場を設ける。岡山の製造業・フジワラテクノアートは評価を「量から質」に変えたことで、全国から800人近い応募が集まる職場に変わった。
大嶋さん「評価を変えるということは女性たちのためだけではなくて、全員のためになる。何をやってどれだけ成果を出したら高評価されるかが明確になることで、育児や介護中の社員を支えてきた周囲の社員も、同じ基準のもとで解放される」
経験をデザインすることは、人材確保の問題でもある。
「選択肢を作ることが、地域の未来を作ること」——地域が変わるために
女性が「選べる」地域を作ることは、一つの企業や自治体が単独でできることではない。
女性活躍推進法は101人以上の企業に適用される。しかし地方圏では、そもそも101人以上の企業がない地域も多い。都市部の大手企業がこの10年で積み上げてきた女性活躍のナレッジが、伝播していない地域がまだ日本にたくさんある。だからこそ、自治体が機運を醸成し、金融機関がハブとなって中小企業にナレッジを波及させる仕組みが必要だ。
広島銀行は「HATAful(はたフル)プロジェクト」として広島県や中国電力、マツダなどと連携し、企業横断で魅力的な職場を増やす取り組みを進める。山陰合同銀行は取引先企業の女性ネットワークを構築している。全国97の自治体が参加する内閣官房の「地域働き方・職場改革等推進会議」では、固定的な性別役割分担意識の解消が政策の方向性として明示された。
小安さん「現状を変えたい経営者とともに、早く事例を作る。そしてそれを波及させていく」
変革に積極的でない層は、事例が見えれば動き始める。女性を生かしたいという機運は、人口減少を背景に経営者の間で確実に高まっている。
大嶋さん「地域に女性の選択肢、生き方、働き方の選択肢を作ることが地域の未来を作ることになる」
「選択肢がない」と感じている地方女性ほど、子どもに「他の地域で暮らしてほしい」と思う割合が高い。女性を外から呼び込んでも、外に出ないよう引き止めても、問題の構造は変わらない。
絶望から希望へ——変化は、すでに始まっている
閉会にあたり、司会者の山中さん(KIBOW社会投資ファンド)はこう述べた。
山中さん「地方で働く女性を取り巻く環境は厳しい。これを変えられるのか、という絶望的な思いがあった。しかし今日の話を伺い、経営者が『職場』を変え、地方の女性に『自信と期待』を持ってもらえる経験を提供することで、地方の女性が働きやすい社会を創れると理解した。何よりも今日300人を超える方々がオンラインで集まってくださった。これは『希望の事例のネットワーク』だ。私たち皆の力で、このネットワークを広げていきたい」
現場で事例をつくる人、データで構造を解明する人、職場を変えようとする経営者、そして問題意識を持って集まった300人。変化は、すでに始まっている。
「本当はどうしたい?」
自分のキャリアについて、その問いに答えられる女性が、地域に一人増えるたびに、地域の未来が一つ変わる。

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