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TOBと買収の違いを説明できますか?~コロワイドによる大戸屋に対するTOBの会計的な意味~

投稿日:2020/10/30

最近、コロワイドによる大戸屋のTOBをはじめ、NTTによるdocomo、そしてDCMホールディングスとニトリによる島忠争奪戦など、国内におけるTOBが活況を呈しています。TOBとは、日本では「株式公開買付」と言い、take-over bidの頭文字をとった略です。TOBは企業買収の手段として用いられますが、TOBの成立を買収の成功と捉えて良いでしょうか。

TOBとは

株式公開買付(本コラムではTOBと表現を統一します)は、株式の買付数や価格、期間等をあらかじめ公表し、取引市場外で不特定多数の株主から株式を買い付けることを言います。金融商品取引法に規定される手続きであり、一定の要件に該当する株式の買い付けをする場合は、TOBの形で行うことが義務付けられています。

経営の支配等を目的として短期間に大量の株式を取得しようとすると、特定の株主に有利に作用したり、不透明な取引が発生するおそれがあります。そこで、金融商品取引法では、株主に対して適切な情報開示や平等な売却機会の確保等を提供することを目的として、TOBの制度を設けています。

TOBが必要となる場合

詳細は、金融商品取引法を参照していただくとして、ここではTOBが必要になる代表的なケースを紹介します。

1)5%ルール
2)1/3ルール

1)5%ルール
株券等の所有割合で5%超を保有する株主は、会社の経営や株価に対して一定の影響力があると考えられます。そこで、取引市場外で株券等の買い付けを行った後に株券等の所有割合が5%超となる場合には、原則として、TOBによって買い付けを行う必要があります()。

)ただし、5%超となる場合であっても、「著しく少数の者から買い付け等を行う場合」には、TOBの必要はありません。なお、著しく少数とは、買い付けを行う相手方の人数と、買い付けを行う日の前60日の取引市場外で行った買い付けの相手方の人数の合計が10人以下の場合(特定買付け等と言います)を指します。

2)1/3ルール
会社法上、特定の株主の株券等の所有割合が1/3を超える場合、当該株主は株主総会の特別決議を否決できる「拒否権」を持つことになります。これは、事実上、当該株主の賛同無しでは会社の重要事項を決定できないことを意味します。会社の経営に強い影響力を及ぼす可能性のある特定の株主を生む取引が行われる際には、他の株主に対して十分な情報を提供し、公平な売却の機会を確保する必要があるという趣旨によるものです(**)。

**)1/3ルールについては、5%ルールのような取引の相手方の人数は考慮されません。つまり、買い付け等の結果、株券等の所有割合が1/3超となる場合には、当該買い付けはTOBによる必要があります。

また、1/3ルールについては、大株主による買い増しや急速な買付け等に対する補完的な規制があります。これらの詳細は割愛しますが、いずれも、1/3ルールの潜脱を防止したり、公開買付を公正に実施するためのルールです。

47TOBの会計的な意味

企業買収は、「経営を支配する目的で、会社の発行済株式の過半数を取得すること」と考えられます。一方で、TOBは過半数の取得に満たない場合にも必要となります。例えば、TOBにより株式等の所有割合35%を取得した場合、公開買付者はその会社の35%の株式等を所有する大株主となりますが、それだけでは会社の経営を支配したとは言い切れません。つまり、必ずしも「買収」が成功したとは言えないのです。

大戸屋の株券等の19%を所有するコロワイドは、2020年7月10日に大戸屋に対するTOBを開始しました。当初は所有割合45%~51%を目指しましたが、8月末にTOB成立の確度を高めるため、買付予定数の下限を40%(上限は51%のまま)へ5%引き下げ、買付期間を10営業日延長しました。その結果、コロワイドは、大戸屋の株式等を約47%取得するに至りました。 TOBは成立したものの、過半数の獲得には至らず経営を支配したとまでは言えません。

それでは、コロワイドのTOBの会計的な取り扱いはどうなるのでしょうか。

・会計的な意味
コロワイドの財務諸表は国際会計基準(IFRS)を適用して作成されています。IFRSでは、連結子会社か否かを判定する際に

①投資先に対するパワー
②投資先への関与により生じる変動リターンに対するエクスポージャー又は権利
③投資者のリターンの額に影響を及ぼすように投資先に対するパワーを用いる能力

の観点から、実質的に会社の経営を支配する権利を有し、投資先のリターンを采配する実行力を持っているかどうかを見ます。(***)。

***)日本基準では、実質支配力基準で連結子会社の判定を行います。日本基準では、IFRSとは必ずしも同じ判定にはならない場合があります(日本基準については、「子会社、関連会社、関係会社、グループ会社の違いとは?」を参照ください)。

コロワイドは、TOBの成立後の2020年9月16日、早速、大戸屋の経営体制の刷新を求めて、現任の取締役11名の内10名の解任とコロワイドが推薦する取締役候補7名の選任を求める臨時株主総会の開催を請求しました。実現すれば、大戸屋の取締役の内、過半数を掌握することになります。また、他にコロワイドに匹敵するような大株主も存在しないことから、実質的にその権限を行使することが可能と考えられます。そうすると、上述のIFRS基準に照らして、大戸屋はコロワイドの連結子会社であると言えそうです。

会計上、大戸屋がコロワイドの連結子会社として判定されると、コロワイドの連結財務諸表に大戸屋の資産、負債、売上、利益等を反映させることが可能になります(****)。

****)大戸屋の売上高については、全額取り込むことができますが、当期純利益と資本(親会社の所有者に帰属する部分)は持分比率に応じた分のみが反映されます。

・その他の意味
また、過半数には及ばないとはいえ、約47%を有するコロワイドは大戸屋の筆頭株主です。これは、残る大戸屋株主の多くが、実質的に会社の経営に対する支配力を持つ株主の出現に賛同している(から今でも大戸屋株式を保有しているのだ)ということを意味します。つまり、コロワイドが大戸屋の経営を支配しようとする行為に対して、他の株主からの一定の支持を得たという既成事実を作ることにもなります。今後、コロワイドによる大戸屋の経営改善の成果によっては、再度のTOBによる完全子会社化を円滑に進める効果もあるのではないかと考えます。

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