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組織に「ダイバーシティ」が必要なワケ

投稿日:2015/05/13更新日:2021/10/26

なぜわれわれはダイバーシティ・マネジメントの導入について真剣に議論する必要があるのだろうか。

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■ダイバーシティはイノベーション力や問題解決力を生む

人や組織の研究で実績のあるヘイ・コンサルティング・グループでは、さまざまな企業の比較
調査の結果から、イノベーティブな企業には以下の6つの特徴があることを見いだした。

  1. 明確な方向感と視座
  2. 人材の多様性
  3. 上下間の風通しの良さ
  4. ネットワーク密度の高さ
  5. 失敗に寛容な文化
  6. 組織における「遊び」の存在

ここで2番目に挙げられる特徴が「人材の多様性」である。ヘイ社の解釈によれば、多様性こそが新しいアイデアの組み合わせを生み出すという。確かに、世の中を大きく進化させてきた多くのパラダイムシフト(社会の規範や価値観が大きく変わること) は、ある領域の専門家とそれ以外の観点が結びついたことによって引き起こされてきた。ダーウィンの進化論も、もともとは地質学者であった彼がガラパゴス諸島に降り立ったからこそ生まれた。企業においても、多様な人々のつながりの中でこそ、新しいものが生まれるといえる。

そして、スコット・E・ペイジ(ミシガン大学教授、複雑系や経済学を研究) の研究も押さえておきたい。彼は著書『「多様な意見」はなぜ正しいのか』(日経BP社/2009年)の中でこう述べている。端的に言うなら、問題解決において「多様性」は強力な要素であり、多くの場合「能力」に勝る。例えば最高のソルバー(問題解決者)たちは、それぞれ能力は高いが似たような思考をしがちであり、集団になっても個人の時とさほど変わらない出来を示す。一方、ランダムなソルバーの集団は、物事を見る観点も解決のためのヒューリスティック(仮説形成法)も多様なため、集団としてより良い結果を生む。以上のことから、まずダイバーシティを実現している組織には高いイノベーション力や問題解決力が宿りやすいということが分かる。

■多様な社員が多様な購買層を喚起する

次に環境変化に注目したい。米国に本拠地がある化粧品メーカーのエイボン・プロダクツ社は、かつて化粧品販売の市場をさらに拡大するため、有色人種の社員を商品開発部門のリーダーとして登用した。当時、1色しかなかった有色女性向けのファンデーションを多色展開することによって、新規市場での利益を大きく伸ばした。

また、ボストン・コンサルティング・グループが2008年に行った広範な調査によれば、世界の家計支出の約64%は女性が決定しているという。調査当時、約20兆ドルと換算されたその消費力は数年内に28兆ドルへ上昇することも予測される。その上で同社は、企業における女性の役割を拡大すれば、その企業にプラスになると述べている。購買意思決定者の心理やニーズをくみ取れる者、つまり市場の顧客構成に近い社員が売れる商品やサービスを開発できるからである。こうして企業は具体的な実利を考えた上でも、多様な社員の登用を進める必要性を理解してきている。

■IBMを立て直したダイバーシティ戦略とは?

最後にIBMの事例を見ながら、ここまで論じてきた要点と新しい点も加味し、企業が生き残るためダイバーシティ・マネジメントがどう有効に機能したのか検証してみよう。かつて、大規模コンピュータの製造販売で業界を席巻していたIBMは、1980年代から90年にかけて戦略を誤り、巨額の赤字を出すまでに転落した。その危機を救うべく1993年にCEOとなったルイス・ガースナーは、IBMを立て直す戦略を考える上で社員に着目した。当時のエグゼクティブはほとんどが男性、かつ白人であった。しかも、生え抜き以外からトップに就いたのはガースナーが初めてであった。この画一的な集団で議論しても新しい発想が出ないことは明らかだ。ガースナーが求めたのは、変革を推進できる優秀な能力だった。

数十万人の社員の中で十分活用されていない能力、それは白人男性以外の中に眠っている。価値観の違う人々から出るアイデアを切磋琢磨する中で起こり得るイノベーションに期待したガースナーは、「IBMの生き残りの戦略はダイバーシティである」と宣言した。マイノリティーの優遇施策ではなく、能力ある人材なら誰でも活躍できる組織風土を作ることを目指したのである。

その第一歩として、世界中のIBMに共通して存在し、あまり活用されていない人材、つまり「優秀な女性の活用推進」の大号令を下した。同様に、白人以外の人種や障害者の活用も大きな柱となった。営業部門に身体障害者を雇用し活用を進めることで、障害者でも支障なく利用できる商品の開発が進み、大きなマーケット開拓につながった。LGBT (レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの略。性的少数者を指す)への対応にも乗り出し、LGBTの優秀な人材獲得と彼らを通じた新市場の開発も進んだ。「IBMの社員構成は世界の市場を映す鏡でなければいけない」というガースナーの言葉の下、マイノリティーを管理職クラスに登用する動きも加速した。

当然、「ハードの製造販売からソリューションビジネスへ」という事業戦略の大転換も奏功したわけだが、1992年当時、約50億ドルという巨額の赤字を出し瀕死の状態にあったIBMが、ガースナー就任後わずか5年で60億ドル強もの利益を計上するまでに復活したことは、ダイバーシティ・マネジメントの効用を理解する上であまりに明快な事例といえよう。多様な人を登用し活躍させる風土の形成は、優秀な人材を組織にとどめる効果も生んだ。また、IBMにそうした組織風土があると知った社外の優秀な人材が、自分もその一員になりたいと集まってくるようになる。

以上のように、ダイバーシティ・マネジメントの効用は、イノベーション(プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーション)や問題解決、市場への適合に加え、内部人材のリテンション、社外人材へのアトラクション効果などさまざまなメリットを生み出し、競争優位の源泉となり得るのである。

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

次回へ続く)

  • 林 恭子

    グロービス経営大学院 教員

    筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士課程前期 修了
    筑波大学大学院人文社会ビジネス科学学術院 ビジネス科学研究群 経営学学位プログラム 博士後期課程 修了
    学位:Ph.D(経営学)/ MBA

    米系電子機器メーカーのモトローラで、半導体、携帯電話のB2B事業に携わった後、ボストン・コンサルティング・グループへ。HRマネジャーとしてプロフェッショナル・スタッフの採用、能力開発、リテンション・プログラム開発、ウィメンズ・イニシアチブ・コミッティ等、幅広く人材マネジメントを担当。グロービスではマネージングディレクターとして人事を含む管理部門全体を統括し、働きがいのある企業としての各賞の受賞へ。現在は、組織・人事研究グループのリーダーとして教育プログラム開発や、研究・執筆、リーダーシップ、ダイバーシティ、パワーと影響力、キャリア開発、パーパス経営等の領域を中心にグロービス経営大学院での講義、企業研修、講演などを多数務める。
    イートアンドホールディングス、萩原電気ホールディングス、及びコーア商事ホールディングズ(何れもプライム上場)社外取締役。学校法人柳心学園 理事。公益財団法人首藤奨学財団 評議員。経済同友会会員。国際戦略経営研究学会 常任理事。組織学会、産業・組織心理学会、経営行動科学学会員。

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