本当の学びを届けたい「志」
ビジネスを、例えばDX(デジタルトランスフォーメーション)や事業創造を学ぶとき、私たちは「成功事例」という綺麗にパッケージ化された情報を摂取しがちです。
GLOBIS学び放題の「まろみ庵」シリーズのストーリーも、フィクションならではのスムーズさで、ロジカルな思考に基づき、商品企画から販売まで驚くほどトントン拍子に進みます。

しかし、現場を知る人ほどこう思うはずです——「現実はそんなに甘くない」と。
実際、市場には不確実性が満ちています。顧客の心理は論理を超え、物理的な制約がアイデアを阻みます。
ここで、他責にせず、チャレンジを志すのがグロービスです。
(誰にも頼まれたわけでもないのに、勝手に)「本当の学びを届ける」という使命のもと、グロービスコンテンツチームのメンバーで立ち上がりました。チームの威信をかけ、フィクションであった「まろみ庵」を、アイデアを素早く形にして事業案を磨きあげる「リーン・スタートアップ」の手法で現実に召喚し、本当に新商品を開発・販売する。こう決意したのです。
ステップ①チーム組成
まずは和菓子職人探しから始めました。「学びのために、フィクションだった和菓子屋を実際に立ち上げる」……このような突飛な理由で一緒にやってくれる方はいるのだろうか?色々と要望を上げる前に、そもそも相手にしてくれるのか?いきなり不安が走ります。
とりあえず、和菓子屋さんのリストアップから始めることに。
「ここと組めたらいいね」「あそこと組めたらいいね」と机上の空論で楽しくディスカッションをしながら、いくつかの基準を設けて、最終的に見つけたのが、今回一緒にチャレンジしてくれる縁さんです。
縁さんは、保元年(1716)創業、紀州藩御用達の菓子司として明治に到るまで藩に菓子を献上してきた小原木本舗 大徳屋長久の店主とともに、和菓子を子供や世界に発信するというすごい志を持っているIT会社の社長です。
縁さんと出会って、一目で分かりました。この人は儲けることを主目的に和菓子をやっている人ではない。この人ならワクワク感一本で話を聞いてくれる人だ、と。
初回の打ち合わせは、今でもよく覚えています。
コース動画中でまろみ庵は、キャンプを楽しむ人々をターゲットとした和菓子の新商品を企画します。
「この動画の通り、キャンプ人口をターゲットとした和菓子を作りたい。可能ですか?」
そう聞くと、「それはどんな商品ですか?」と聞き返されてしまいましたが、「一緒に考えてほしい」とお願いすると、縁さんは寝耳に水という表情をしました。思わず笑ってしまった自分がいます。
しかしその後、「面白いですね、やりましょう」と返答してくれたのです。
我々の思いが届き、まず基礎となる和菓子職人問題は解決しました。縁さんの懐の大きさに感無量です。
成功の秘訣はフィーリングでした。同じオーラを醸し出している人を探す——こういう非論理的なことを始めるときは、ビジョンやミッションで情に訴えるのが一番です!
ステップ②コンセプト設計——「体験価値」と「社会課題」の交差点
次に着手したのは、環境分析とターゲット設定です。GLOBIS学び放題の動画の学びをここぞと活用し、商品コンセプトを固めていきました。

「竹筒でわらび餅を温める」一見すると普通なアイデアかもしれませんが、ここに至るまで、1年以上の歳月が費やされました。検討のポイントとしては、以下3つです。
ターゲットとインサイト
コロナ禍を経て定着したキャンプブーム。この背景には、都会の喧騒や人間関係からの「逃避」と「癒やし」への渇望があります。
ターゲットを「癒やしを求める女性層」に定め、単なる食品ではなく「心の充足」を提供するアイテムとして位置づけました。
しかし実はこのターゲット、その後の試行錯誤の中で「外国人」へと転換することになりました。偶然出会った人々の予想外の反応とそこから学びと転換劇は、また別の機会にお伝えすることにします。
体験価値(コト消費)の設計
「キャンプ飯といえばBBQ」という塩味のイメージを変え、甘味を届ける。ただ食べるだけでなく、作る楽しみ、待つ楽しみを加える。火を焚き、変化を眺め、最後に味わう——この一連のプロセス自体をエンターテインメントとして設計しました。
SDGs文脈の付与
材料となる竹筒には、全国的な課題である「放置竹林の竹」を活用。消費行動が環境保全につながるストーリーを付加することで、感度の高い層への訴求力を高めました。
——ここまでは、MBAの教室でも描ける「完璧な計画」です。しかし、本当の戦いはここからでした。
ステップ③想定外の連続の商品開発

竹という素材が教えてくれた現実の厳しさ
理論上は美しかった「竹筒×和菓子」というアイデア。しかし、実際に試作を始めた瞬間、私たちの前に立ちはだかったのは、竹という「素材」の複雑さでした。
まず突きつけられたのは、「竹は生物である」という当たり前すぎる事実です。
アイデアを出したとき、私たちがイメージしていた竹筒は、観光地で食べる竹筒ご飯——つまり、切り出したばかりの青竹です。みずみずしく、香りも良い。和菓子にぴったりだと思っていました。
ところが、これは普段目にする竹細工の竹とは全く異なるものでした。
生の竹には大量の水分が含まれており、常温に放置すれば数日で腐敗します。つまり、生の竹で商品開発を進めれば、チルド配送が必須となり、配送コストも保管コストも跳ね上がります。店舗での取り扱いも難しく、採算はまったく合いません。無知とは本当に恐ろしいものです。
では、伐採後に「油抜き」などの処理を施せばどうか——これなら常温保存が可能になります。
しかし今度は別の問題が生じました。油抜きをすると水分が抜け、竹が乾燥して非常に燃えやすくなるのです。キャンプで直火にかけることを前提とした商品なのに、素材そのものが燃えてしまっては本末転倒です。
さらに追い打ちをかけたのが、調達コストの問題でした。
私たちは、放置された竹林の活用によって、社会課題の解決に加え、材料を安価に調達できると想定していました。確かに竹そのものは全国に豊富にあります。しかし、それを商品として使えるレベルに加工するには、伐採・運搬・洗浄・乾燥・サイズ調整・検品といった多くの工程が必要で、結果として予想をはるかに超えるコストがかかることが判明したのです。
竹という素材の複雑さに悪戦苦闘する日々。しかし、試作を進める中で気づいたのは、容器だけでなく、中身の開発もまた、同じように困難に満ちているという現実でした。
カステラからわらび餅へ――失敗が導いた最適解
もう一つの大きな壁——それは、和菓子そのものの開発です。
当初、私たちは竹筒を使った「竹カステラ」を構想していました。当時のネーミングは「かぐやケーキ」。
竹筒ご飯の延長線上にあるアイデアで、キャンプで焼きたてのカステラが楽しめる——コンセプトとしては完璧に思えました。
しかし、理想と現実は大きく異なりました。何度試作を重ねても、竹の中でカステラが綺麗に焼けない。火の通り方が不均一で、見た目も味も商品レベルに達しません。縁さんと何度も試行錯誤を繰り返しましたが、結果は芳しくありませんでした。
窮地に陥った私たちが辿り着いたのが「わらび餅」というアイデアでした。焼くのではなく、温めて固める。これなら竹筒との相性も良いはず——そう考えたのです。
ところが、これもまた新たな試練の始まりでした。竹筒が燃えない且つ適切に美味しく作るための火加減、わらび餅粉と水の絶妙なバランス、そして何より、顧客体験上重要な「作る楽しさ」と「食べる美味しさ」を両立させるための仕組み——これらを見つけ出すのは、想像以上に困難な作業でした。
ある日の試作会で、縁さんがふと口にした言葉が忘れられません。
「理論では分かっていても、実際に手を動かすと、素材が教えてくれることがたくさんある」
その言葉通り、私たちは数え切れない試作を行いました。その末に、ようやく「これだ!」と思える試作品が完成したのです。
一方、わらび餅の製法が固まってきた頃、新たな課題が浮上しました。「このままでは、ただの和菓子で終わってしまう」——体験価値を高めるための、何か決定的な要素が足りない。
そこで生まれたのが、うさぎの砂糖菓子を浮かべるというアイデアでした。

当初の竹取物語から着想を得た「かぐや」のコンセプトに呼応する、うさぎ。竹筒の中で温められた砂糖菓子が、ゆっくりと溶けていく様子を眺める。その儚さと美しさが、キャンプの焚き火の前で新たな「癒やしの時間」を生み出す——まさに体験価値そのものでした。
「理論」と「実践」の往復運動で見つけた本質
こうして、素材の複雑さや試作してみての気づきといった実際の製品開発上の困難、体験価値の追求。幾多の壁を乗り越える中で、ようやくわたしたちの商品——「BANBOOORO」の輪郭が見えてきました。
振り返れば、この1年以上にわたるプロセスは、まさに「理論」と「実践」の往復運動でした。
「MBA的なフレームワーク」があったからこそ、私たちはターゲットを明確にし、コンセプトを描き、方向性を見失わずに進むことができました。
しかし同時に、素材と向き合い、職人と対話し、試作を繰り返す中でしか得られない「現場の知恵」もまた、不可欠なものでした。カステラが失敗したからこそ、わらび餅という最適解に辿り着けた。竹の扱いに苦労したからこそ、商品としての競争力(差別化)が増したのです。
理論だけでは商品は生まれない。しかし、現場の感覚だけでも、方向性を見失ってしまう。この両輪が揃って初めて、「BANBOOORO」という商品が、現実のものとなったのです。
リーン・スタートアップの実践:MVPによる検証
ただし、商品開発はこれで終わりではありません。むしろここからが本当の挑戦です。
完成した試作品を前に、チームが立ち返ったのは、リーン・スタートアップの原則である「MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)」という考え方です。

完璧な完成品を目指して時間を浪費するのではなく、まずは「うさぎが風呂に入っているように見えるか?」「食品として成立するか?」というコアの価値のみを検証できる試作品を作成し、テストを繰り返しました。
炭火やガスバーナでの加熱テストを行い、見た目の可愛さと、食品としての安全・成立性のバランスを探る日々。
そのプロセスは、スマートなビジネス動画とは程遠い、煤(すす)と汗にまみれたものでした。
しかし、この「手触り感のある失敗」こそが、事業創造における最大の学びであることもまた事実です。
幾多の失敗を経て「BANBOOORO」のプロトタイプはようやく完成に近づきました。
ただし、商品ができたことはゴールではありません。本当の問いはここから始まります。
この商品は、想定したターゲットに本当に届くのか。「癒やし・外国人・SDGs」という仮説は正しかったのか。
次回は、市場という冷徹な審判の場における検証プロセスをお届けする予定です。果たして、当初の思惑通りに、販売は進むのか?楽しみにしてください。
興味ある方はぜひ使ってみて、コメントください。
BANBOOORO(バンブーロ)は現在、クラウドファンディングを通じた先行受付を行っています。
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【まろみ庵シリーズの動画】
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