「世の中にいいことをしたい」。だから林業を選んだ
森未来は2016年創業。「森林を持続可能な状態にして次の世代へつなぐ=Sustainable Forest」をミッションに掲げる。実現までの時間軸は、50年で見ている。
浅野氏はもともとIT業界で営業職として働き、いつか起業したいと考えていた。ただ、それまでの仕事の延長線上で起業することには、十分な動機を感じられなかったという。
「起業ってすごいエネルギーと時間を使うので、せっかくこれだけのものを使うのであれば、『世の中にいいことをしたい』というのがまず一つの起業テーマとしてありました」
そこに「スケーラビリティ」と「自分が関心を持てること」という二つの軸を加えた。地方創生や環境問題について調べる中で行き着いたのが、林業だった。
「CSR的で社会貢献するのも素晴らしいことですが、間接的ではなく『自分の事業が伸びていくことが直接社会インパクトを出していく』ようなことをやりたいと思っていました」
現在は、商品データ約2万5000点、サプライヤー情報約4000社をデータベース化し、分断されてきた木材のサプライチェーンをつなぐ事業を展開する。さらにAIエージェントを開発し、木材の流通をデジタルで変える「ALL WOOD PLATFORM」の構築を進めている。
一方で浅野氏自身、インパクトを掲げる企業には、利益を生み出す難しさもあると話す。林業という産業そのものが収益を上げにくい中、社会的価値と財務リターンの双方を成立させるビジネスモデルをつくらなければならないからだ。
収益の上げにくさの根っこには、森林が生む価値に見合う対価が、森林側に届いていないという構造がある。浅野氏はAIブームを例に挙げた。
「AIは大量のエネルギーや、データセンターでの水資源を消費します。そのデータセンターが使っている水資源の源流をたどると、水を涵養する豊かな森を管理しているのは林業者だったりします。しかし、我々IT企業やユーザーが、森林に対して対価を適切に払っているかというと、そうした『外部経済の内部化』がまだできていないのが現状です」
その森未来に、投資家たちは何を見たのか。
投資の前に、山の中の材木店まで向かう投資家
KIBOW社会投資ファンドは、2011年の東日本大震災後の被災地支援を起点に、2015年から社会課題の解決を目指す起業家への投資を続けてきた。累計の投資先は23社。投資後も「ヒト」「カネ」「チエ」によるハンズオン支援を掲げ、継続的に投資先とコミュニケーションを行っている。
森未来とKIBOWの接点は2018年に生まれ、2020年にはグロービスが運営するアクセラレータープログラム「G-STARTUP」への参加を経て、関係が深まっていった。
KIBOWのデューデリジェンス(DD)は、普通のVCとは少し違った。
通常の事業・財務面の確認に加え、KIBOWとは、森未来が事業を通じてどのような社会変化を起こすのかを示すロジックモデルを一緒に作った。投資契約書には「インパクトを出す」という趣旨の文言も盛り込まれたという。
DDは書面にとどまらなかった。浅野氏はこう振り返る。

「私個人のリファレンスチェックだけでなく、クライアントである取引先のインタビューをさせてほしいということで、わざわざ奥多摩の山の中の材木屋さんまでヒアリングに一緒に行きましょうと」

そんな回り道に見える手順を踏んだのには、理由がある。売上や利益は決算書で確認できるが、事業が掲げた社会の変化を本当に起こしているかどうかは、現場にしか表れない。顧客が森未来を選ぶ理由の中にその手がかりを探し、確かめたうえで、KIBOWは投資を決めた。
DGが見ていたのは、「インパクト」という言葉ではなかった
2023年には、DGインキュベーションが初回投資を実施した。デジタルガレージ傘下で、日本初のシードアクセラレーター「Open Network Lab(以下、Onlab)」と採択企業を主な投資対象とするVCファンドを運営する会社だ。森未来に投資したOnlab1号ファンドは、Onlab参加企業と、ESG分野のスタートアップを中心に投資を行ってきた。後継ファンドであるOnlab2号ファンドでは、社会・環境にポジティブなインパクトを創出する意図のある企業を中心に投資をしている。
遊佐康佑氏(株式会社DGインキュベーション投資第一部部長)は、今回の登壇にあたり当時の投資検討資料を読み返し、あることに気づいたという。
「実は資料の中で1回も『インパクト』という言葉を使っていませんでした(笑)」
では、何を見て投資したのか。
「森未来さんがやりたいことをやりきった先にある『市場の大きさ』や、浅野さんたち『チームの熱意』に惚れ込んで投資を決めました」

DGインキュベーションは、森未来が持つ木材情報の量と、その情報を建築業界などで活用できる可能性を評価。アクセラレータープログラムへの参加を経て、投資を決めたという。
投資後の関わりは、資金にとどまらない。
浅野氏によれば、「中間管理職をどう育成するか」「経営陣の給与をどう設定するか」といった、起業家が周囲には相談しづらい経営課題についても相談に乗るほか、新たな投資家の紹介などファイナンス面でも支援を受けているという。
遊佐氏が重視するのは、起業家の「インテンショナリティ(意図・意志)」だ。
社会課題の解決には時間がかかる。50年先を見る森未来のような事業なら、その間に市場も技術も変わり、戦略の転換は避けられない。だからこそ、変えていい部分と変えてはいけない部分を分けて見る。戦略や戦術を変えても、「何を実現するためにこの事業をしているのか」が変わっていないかどうかだ。
森未来については、投資時に見込んでいた市場規模に対し「まだまだ取れる市場はあるはずで、道半ば」と評価する。さらに、将来的にはネイチャーポジティブへの取り組みも含めた「インパクトIPO」の可能性にも言及した。
「浅野さんが熱かった」。地銀の投資はそこから始まった
北國銀行グループとの関係は、グループの投資専門子会社QRインベストメントがBPキャピタルと共同運営する「のとSDGsファンド」からのエクイティ出資で始まった。
出資を決めた当時、QRインベストメントで投資委員を務めていた北國銀行の浜野文雄氏は、「インパクト投資」という言葉をまだよく理解していなかったと明かす。
それでも投資した。
「『SDGsや能登の森林のために、何かアクションを起こしてくれる熱い人だな』という印象で、『よし、投資しよう』と決めたのを今でも覚えています」

その後、関係はエクイティから融資へ広がる。最初に行ったのは、スタートアップ向け融資であるベンチャーデットだった。
一般的な審査基準では、赤字が続くスタートアップは融資対象から外れる。そこで北國銀行が加えたのが、「インパクト」という評価軸だった。
「リスクとリターンだけを見れば融資はできません。しかし、そこに『インパクト』という第3の軸を取り入れることで、融資が実行可能になるのではないかと考えました。当時は、とにかく浅野さんが熱かったので支えたいという思いが強く、次のエクイティ調達が見えていたので、そこまでの繋ぎ融資という形で実行いたしました」
その後、北國銀行側もKIBOWなどを通じてインパクト投資・融資について学び、2025年12月にはポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)を実行した。インパクトのKPIを設定し、第三者機関の評価を受けながら達成状況を確認していく融資の仕組みだ。
繋ぎ融資に始まり、PIFまで。一つのスタートアップに、なぜそこまでするのか。山中氏の問いに、浜野氏はこう答えた。
「社会課題を解決しようとしている企業に適正にお金を流せば日本が良くなるのではないか。地域の社会課題を解決してくれる企業にリスクマネーを供給することこそが、地銀の本来の役割ではないか」
事業を伸ばすのか、インパクトを優先するのか
資金の出し手が3者に増えれば、期待も一様ではなくなる。セッション終盤、「インパクト成長と事業成長のどちらを優先すべきか」という論点で、その違いがはっきり表れた。
起業家の答えは、意外なほど割り切っていた。
「もちろん両方ですが、戦略としては『事業成長』を優先しています」
まず木材流通の主要プレイヤーとして事業を拡大し、その中で持続可能な流通の割合を高めていく戦略だ。
「本当に小さいニッチな領域だけをやっていては社会は変わらないので、まずはスケールすることを目的に置いています」
融資する側の浜野氏は、収益が前提であることを認めたうえで、あえて逆の言葉を選んだ。
「我々としてはやはり『インパクトファースト』でチャレンジしてほしい」
高い志を掲げる会社であれば、一時的に赤字でも、大きな資金を持つ投資家や公的資金が手を差し伸べる。お金が後からついてくる環境を作るのが金融側の仕事だ、という立場だ。
VCの遊佐氏が見るのは、優先順位そのものではない。方針転換を重ねても、「何のためにこの事業をやるのか」が変わらないかどうかだ。
「本当にインパクトを追求する起業家であれば、戦略や戦術のピボットはいくらでも歓迎すべきです」
実際、森未来は「Sustainable Forest(持続可能な森林を創る)」というミッションを創業から変えていない。一方で、戦略もビジネスモデルも何度も変えてきた。
「まずスケールする」と言う起業家に、「インパクトファースト」を求める銀行、意志の一貫性を見るVC。言葉は三者三様だが、思いの大部分は重なっている。森未来のミッションを実現してほしい、そのために事業が続いてほしい。
違うのは、銀行とVCとインパクトファンドで預かる資金も負う責任も異なるがゆえの、力点の置き方だ。 その重なりは、セッションの終盤で言葉になった。 ミッションさえ変わらなければ、戦略はいくら変わってもいい。遊佐氏はそれをインテンショナリティと呼び、浜野氏はミッションが不変ならPIFのKPIは設定し直せばいいと言い、浅野氏は創業から戦略もビジネスモデルも何度も変えてきたと明かした。優先順位は割れても、ミッションを変えないという前提は、三者が最初から共有していた。

「1人じゃない」が意味するもの
社会課題への思いが、そのまま投資理由になるわけではない。事業としてどう成立させるのか、誰にどんな変化を起こすのか、その変化をどう測るのか。森未来が資金の出し手に一つずつ示してきたのは、この問いへの答えだった。同じようなやりとりを、KIBOWの投資先23社もそれぞれの事業で積み重ねてきた。その記録は、全投資先の社会変化への道筋と進捗指標を公開するインパクトレポート2025で読むことができる。

セミナーのタイトルは「社会を動かす起業家は1人じゃない」だった。それは励ましの言葉ではなく、この夜の登壇者たちが示した事実だ。KIBOWは志を事業の設計図に落とし込み、DGインキュベーションは志が本物かどうかを見極め、北國銀行は志を評価する軸を自ら作った。志を持つ起業家の周りには、その志を確かめ、支える方法を考え続ける資金の出し手がいる。
セッションの最後、その資金の出し手たちが、起業家へ向けて語った。
浜野氏は、地方銀行の側からこう語った。
「地方銀行はこれから、インパクト投資やインパクトファイナンスという形での存在感を示していきたいと考えておりますし、全国の地方銀行もこのような流れになっていくと思いますので、ぜひ高い目線でチャレンジしていただければと思います」
遊佐氏は、投資家である前に、伴走者としての言葉を選んだ。
「困難に直面した時に、最後に拠り所になるのは『なぜそもそもこの事業を始めたのか』という原始的な思い、志です。本日お越しの起業家の皆様、その拠り所を大切にしてください」
浅野氏は、こう宣言した。
「起業家として、インパクトと財務リターンの『両方をやりきる』という強い覚悟を持ち、先ほど遊佐さんからお言葉があった『インパクトIPO』をしっかり実現して、市場にリターンを返していきたい」
そして山中氏が、この夜を締めた。
「浅野さんのようなインパクト志向の起業家を応援するネットワークはどんどん広がっています。皆様で手を携えて、大きな社会変革を成し遂げていきましょう」
広がるネットワークの入り口で、資金の出し手は「社会を変えたい」と語る起業家の何を見るのか。3者の答えは、書類の中にはなかった。一緒に作った設計図の中に、現場の顧客の声の中に、何度戦略を変えてもぶれない一点の中に、それはあった。


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