日本からベゾス+ペイジ+ジョブズ級の人材を輩出する という目線

今年1月、史上最年少の38歳で、グローバル経営コンサルティング会社であるA.T. カーニーの日本法人代表に就任した関灘茂氏。長年、コンサルタントとして日本企業を見てきた立場から、日本企業が抱える課題と、その課題へどのように貢献したいかを、元A.T. カーニーの同僚であり、現グロービス経営大学院の同僚である西口敦がインタビューしました。(全2回、前編)

日本から世界のロールモデルとなる大企業20社、ユニコーン企業200社を生む

西口:2020年1月1日から最年少で日本代表に就任されました。マネージャーになってからは「若いですね」と言われ続けてきましたよね。

関灘:29歳のときにマネージャーからプリンシパルに昇進し、クライアント企業の経営陣の方々との議論や対話が中心的な役割に変わったあたりからはそうですね。

西口:とはいえ、カーニーに20年弱おられます。顧客がカーニーに求めるものは変わってきていますか。

関灘:変わってきました。私が入社した2003年頃はコスト削減やオペレーション改革が中心でしたが、2000年代後半から徐々にイノベーション・マーケティング改革・営業改革などが増えていきました。これはコンサルティング業界の変化というより、A.T. カーニーの当時のパートナー陣が舵を切った結果という要素が強いと思います。

2010年代に入ってからは“デジタル”を冠するプロジェクトが非常に増えました。例えば、先進的な企業がデジタル関連の組織構造をどのようにしているか、デジタル関連の組織能力をどのように磨くべきか、といった検討です。“デジタル”を肌感覚で理解できる若い世代が活躍しやすい領域が増えたと言えるかもしれません。

西口:関灘さんから見て日本企業の課題は何でしょうか。どんなところに、もどかしさを感じますか。

関灘:2月14日に、弊社の全従業員が集まるスタッフミーティングで1時間ほど話しました。そこで話したことの1つが、我々の会社は何のために存在しているのかということです。

時価総額こそが全てではないものの、平成元年の世界時価総額企業ランキングを見ると、トップ10に日本企業が7社、50位以内に32社が入っていました。しかし30年後の平成の終わり頃には、GAFAなどの新興企業が上位を占め、日本では唯一トヨタ自動車が40位台に入るのみです。

各コンサルティングファームを率いた先輩コンサルタントの皆さんも、日本企業が結果を残すために力を尽くしたはずなのに、時価総額という観点では結果が出ていない。それが足元の30年であったと捉えてみようと。そして、現在から2050年までの30年の間に、世界時価総額ランキングが全てではないことも理解した上で、そのトップ50に入るような日本企業、さらには世界中の経営のロールモデルとなるような企業が結果を残せるように、我々は貢献しなければならないと考えています。

日本経済全体にとっては、大企業、中小企業ともに重要ですが、まずは我々がこれまでにも支援する機会を頂いている大企業が、創造と変革に取り組み、結果としてグローバル市場でプレゼンスを上げ、日本の雇用や税収の拡大にも貢献するといった好循環を生み出すことに貢献したい。それが、今後、我々が重視しているテーマの一つです。

もう1つの重視しているテーマは、新たな価値創造企業です。米中ともユニコーン企業を200社ぐらい生み出している間に、日本には2、3社しか生み出してない。ユニコーン企業であることが全てではないものの、新たな価値創造企業の創出数で負けている状態です。我々は米中と同じくらいの数のユニコーン企業を生み出すといった目線を持ち、独自の方法で貢献したいと思っています。つまり、これから先、日本を代表する大企業20社とベンチャー200社によりコミットしていきたい。

プロフェッショナルファームの“非常識”――卒業前提をくつがえす人材育成

西口:それを実現するには、優れた人材がより一層必要ですね。

関灘:A.T. カーニー日本法人の従業員数は約200人です。我々は、人数目標ありきの成長ではなく、コンサルタントが“強い個”、“経営を語れる個”、ビジネス・テクノロジー・クリエイティブの領域を越境できる“尖った個”の集合体となるように質にこだわった成長を志向しています。とはいえ、日本を変える、世界が変わるような仕事に取り組むにはコンサルタントが少なくとも300人は必要になります。

各コンサルティングファームでは、数年で相応の割合の従業員が“卒業”していきます。300人の組織で年間2割の従業員が卒業するとして年60人、2050年までに卒業生(アラムナイ)は1,800人、2,000人近くになります。カーニーのアラムナイの皆さんには、先ほどの日本を代表する大企業20社とベンチャー200社の経営に関わる領域でリーダーシップを発揮して欲しい。その大企業20社とベンチャー200社のすべてにカーニーのアラムナイが在籍し、貢献しているという状態が理想です。2050年までにその全てを実現することはできないかもしれいけど、やってみようとスタッフミーティングで話しました。

そして、こうも言いました。新卒・第二新卒・中途で入社している20代のコンサルタントが入社3~5年で卒業すると30歳前後。若手コンサルタントとしての経験が中心、かつ、30歳前後では、残念ながら大企業の経営陣は務まりません。だからこそ、10~20年、カーニーに在籍することを標準としたい。カーニーで十分な経験を積み、卒業した後に、大企業でもリーダーシップを発揮して欲しいのです。

これは、プロフェッショナルファームの世界ではかなりの非常識です。普通は、3~5年で卒業していく前提で、様々な制度設計をしていると思います。ここを思い切って変えたい。

例えば、入社3年目に出向してもらう。それもグローバル展開を最初から見据える意欲的なベンチャーのトップ直下で仕事をするポジションに、とか。マネージャーへの昇進もある5年目ぐらいには、米国や英国のデザインスクールに留学する、あるいは、海外オフィスにトランスファーする。実際、今年も複数人を送る予定です。

こうしてビジネスとテクノロジーとクリエイティブの領域を横断的にキャリア形成し、経営層の仕事から現場変革の実務まで幅広く経験してもらう。そうすることで10年、20年後にカーニーの卒業生は、クライアント企業の皆さんにも創造と変革のリーダーとして参画して欲しいと期待される集団だね、という状態を目指したいのです。

現在の弊社の若手を見渡すと、その潜在能力は羨ましいとさえ思います。例えば「英語、中国語、韓国語、日本語の4カ国語が話せます。機械学習やディープラーニングなど独学で習得しています。文化やクリエイティブの領域に週末の時間を投下しています。社会課題の解決のためにNPOに関わっています。」など、自ら考えて、動きまわる、考動力の高い人材が在籍しています。

海外での採用活動で、面談をした学生からは「ピーター・ティールのファンドか、ビル・ゲイツ財団か、カーニーか。どこが一番、社会の役に立てますか」と聞かれました。“尖った個”として、独自の価値を提供できるようになりたい、社会の役に立ちたいというパッションを持つ学生が多数いて、カーニーを選択してもらっています。

そういった人材に10年、20年単位で、カーニーに軸足を置いて、出向・留学・海外トランスファー・サバティカル・兼業などを通じて多様な経験を積んでもらい、本当の意味での創造と変革のリーダーになってもらいたいと思います。

ベゾス+ペイジ+ジョブズ級の創造と変革のリーダーを生み出したい

関灘:ここで冒頭の「日本企業の課題は何か」という質問に戻ると、多くの日本企業には創造と変革ができるリーダーが少ない。リーダー不足が最大の課題だと思います。

西口:では今後、そうしたリーダーを企業内部から輩出できるのでしょうか。

関灘:とある大企業の方は「就職活動をして、当社に入る時点でそういう人物ではない。どれだけ育成の仕組みを変えてもAmazonのベゾス級も、Alphabet(Google)のペイジ級も、Appleのジョブズ級も出ない」とおっしゃっていました。

西口:私も同じような話を聞いたことがあります。だから幹部候補になるような人材を社内で探すと、通常の採用プロセスに乗った人ではなく、イベントで目に付くピッチをしていて一本釣りした人だったりする。そういう人のほうが大化けするポテンシャルは高いと。

関灘:それならば、カーニーを創造と変革のリーダーを創出するプラットフォームにしたほうが、筋がいいのではないかと思っています。

西口:なるほど。提供側がそうした努力をする一方で、日本企業がそういう人材を受け入れる土壌、風土、文化をどれだけ持てるか、ですよね。

関灘:私自身が担当しているクライアント企業は、どこもお付き合いが長く、10年単位。経営層から課長クラスまで数百人とプロジェクトを通じた共通体験がある企業もあります。10年、20年後には現在の課長、部長の皆さんが経営陣になっていきます。そのときに「カーニーの卒業生を右腕にどうですか」「カーニーで多様な経験をしてきた人物なら」という会話ができる関係を構築することで日本企業の創造と変革に貢献できるのではないかと思います。

創造と変革ができるリーダーを生み出すことに意欲的な企業の皆さんに提案しているのは、「リーダー候補となる方々の死生観を変えるぐらいのことをやらないとベゾス+ペイジ+ジョブズ級、あるいは、それぞれと闘えるような人は出てこないかもしれない。本気の人材育成をしましょう」ということです。

数人で良いので、本気の人材育成をやる、自らが創造と変革のリーダーになるという人に、私自身もコミットしたい。もちろん、私だけではなく、カーニーのグローバルネットワークもフル活用した仕事をしたい。ここまでやることで、創造と変革ができるリーダーが少ないという日本企業の課題の解決に貢献したいと思います。

西口:結局、会社を変えようと思ったら教育に行き着いた。

関灘:最後は人だということだと思います。人であり、リーダーがどういう目線を持つのかが全て。ですから、人生のどこかでは小中学生の教育にも関わりたい。小中学生での原体験などが、将来、世界水準のリーダーになれるかどうかに大きな影響を与えるようにも思えるので。

カーニーの人材育成チームも増強しています。20代・30代のコンサルタントの潜在能力を解き放つべく。10年、20年単位で、どのような目線を持つようになるのか、どのような死生観を持つようになるのか、見守り、支援し、自身も進化できればと考えています。(後編に続続く)

(文=荻島央江)

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