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組織の信頼関係をどう高めるか――矛盾に向き合うリーダーシップ 第3回

投稿日:2023/04/11


本連載では、「成長する組織に共通する要素」とは何か?その実践において困難となる「矛盾」とその乗り越え方について解説しています。
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今回は、「組織内相互の関係性が良好である」状態を実現するために、「信頼関係のある組織づくり」について皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

信頼関係はすべてのスタート

よりよい組織を考えるにあたりヒントになる有名なモデルとして、マサチューセッツ工科大学組織学習センターのダニエル・キム教授が提唱した、成功循環の法則があります。ここでは、成果の出やすい組織となるためには「関係性の質」「思考の質」「行動の質」が重要で、特に起点となる「関係性の質」が良いことがその次の思考の質が開花する起点になるため、特に重要であると言われています。

成功循環の法則(MITダニエル・キム教授提唱の理論をベースに作成)


より具体的に言うと、「この組織のメンバーは信頼できる」と思うがゆえに「組織のためを思い意見をたくさん出そう」と思い、意見が多く出るからこそ良いアイディアが生まれ、「良いアイディアをもとにした良い行動を取ろう」となり、結果につながりやすくなります。

このように、成果・結果の出る組織のスタートは信頼しあえる良い関係にあるのです。

信頼とは何か

では、改めて「信頼」とはどのような意味なのか考えたいと思います。一般的な辞書の定義では「信じて頼ること」とありますが、より深掘るべく信頼の研究に目を向けていきましょう。

「情緒的信頼」と「認知的信頼」

まず組織における信頼について論じたDaniel J. McAllisterの研究※1では、信頼を「情緒的信頼」と「認知的信頼」という2つのタイプに区別・整理しています。

  • 情緒的信頼:その人の人柄、人間性に対する信頼。相手の(自分に対する)気づかいや関心を基盤とした感情に基づく。
  • 認知的信頼:その人の能力や実績に対する信頼。相手の有能さや責任感などの特性に関する認知に基づく。

信頼の構成要素とは

もう1つ別の研究を見てみましょう。信頼の研究を行うJ. A. Colquittの論※2は、信頼の構成要素は「能力」「善良さ」「高潔さ」の3つであると明らかにしています。
「能力」は前述と同じくその人の能力や実績、専門性などに対する信頼、「善良さ」は他者に対して良い意図を持った行動を取ってくれるだろうということへの信頼、「高潔さ」は道義・倫理に沿った行動を取ってくれるだろうということへの信頼です。

2つの研究の共通点を考えてみると、信頼を得るための要素は大別して「能力」と「人柄、人間性」に分かれていると言えるでしょう。

信頼関係をどう高めるか

ここまで見てきたように、信頼を得るポイントは「能力」そして「人柄、人間性」が重要であることが見て取れました。

ここからは、信頼関係をどう高めるかを考えていきたいと思います。

情緒的信頼を高めるには

情緒的信頼を高めるには、ポイントのうち「人柄、人間性」が関わります。そのため、相手に対する関心・気づかいが重要となります。
より具体的な行動としては「率直に話し合うことができる」「相手の話を聞く」「相手へ支援的・貢献的な姿勢で接する」「相互の感情へ配慮する」ことなどが重要となります。

認知的信頼を高めるには

また、認知的信頼を高めるにはポイントのうち「能力」が関わってきます。そこで、「仕事へ情熱的な姿勢で臨む」「実績を出す」「部下の仕事での成果創出を支援する」「周囲からの評判を高める」「良い経歴を持つ」などがあります。

最後の2つは、自分の努力だけで何とかならない部分も含んでいます。そのため、最初の3つ「仕事への情熱(を持つこと)」「個人としての実績(を出すこと)」「部下の成果創出支援(を行うこと)」に優先的に取り組むことがよいでしょう。

2タイプの信頼をいずれも獲得していくことが重要

ともすると、「信頼を獲得する」というと情緒的信頼の獲得、すなわち相手の話を聞くことなどに目が向きがちになります。しかしこの取り組みにおいては、認知的信頼の獲得、すなわち能力強化や実績創出も重要な要素であることを忘れてはいけません。

1つ事例を挙げると、「とても自分のことを思ってくれている上司」がいたとして、上司の判断や行動が原因で組織成果が出ず、組織が悪い評価を受け報酬に影響を受けていたとした場合、その上司を(長い間)信頼することができるでしょうか?また逆もしかりで、組織成果は出せるが思いやりのない言動が続く上司を信頼することができるでしょうか?

多くの人はどちらにおいてもNOと答えるに違いありません。結局、どちらもが大切となるのです。

相互信頼をどう高めるか

これまで「上司として部下からの信頼を得る」ためにはどうするか考えてきましたが、相互に信頼するために、特に部下として周囲から信頼を得るためにどのようなポイントが重要なのかも検討していきたいと思います。

まず、結論から言うと、信頼の構図は基本的に変わりません。Dr. A. R. コーエン & Dr. D. L. ブラッドフォード著作の『影響力の法則』には、部下が上司から信頼を得るための法則として以下の5つのポイントが書かれています。

  • ①確実に仕事をやり遂げる
  • ②ディスカッションパートナーとなる
  • ③有益な情報源となる
  • ④上司の味方・支援者になる
  • ⑤判断を代行し自律的に動く

①~⑤を概観してもやはり、「情緒的信頼」と「認知的信頼」の2つを獲得することが大切であることがわかります。

すなわち、部下も「率直に話し合う」「相手の話を聞く」「相手へ支援的・貢献的な姿勢で接する」「相互の感情へ配慮する」こと、また「情熱を持って取り組み」「個人として成果を出すこと」「組織に貢献すること」が大切となるのです。

上司、部下共々の行動があってはじめて相互信頼を高めることにつながりますので、上司としては自身のチームメンバーへこうした行動を促し、アドバイスをしていくことが重要です。

矛盾① 信頼できない人をどう信じるか

ここからは、信頼を高めようとするとぶつかる矛盾について考えたいと思います。

まず1つ目は「信頼できない人をどこまで信頼するか」という矛盾です。

情緒的な信頼(人柄的信頼)も認知的な信頼(能力的信頼)もできない人を信頼すると、そのメンバーは今の状態を肯定的に受け止めてしまい、成長することなく、結果信頼できない状態が放置されるという矛盾が生じる懸念があります。

とても悩ましい矛盾ではありますが、これを乗り越えるためのポイントは「相手が信頼に足り得る人へ成長してくれるはずだ」と期待して接することが重要となります。

注意したい点として「無条件で信頼する」ということや「信頼して何もしない」のではないということです。

「期待」が信頼たる人へと育てる

みなさんは、ピグマリオン効果という現象をご存じでしょうか?これは「人は相手から期待をされたように振舞うようになる」という効果を言います。

ここでは性善説的に(こちらの働きかけによっては行動を変化してくれるはずと期待し)接するか、性悪説的(何をしても変わらないと期待せず)に接するかで相手の行動が変わるというのがポイントになります。

要するに、今は信頼できない人であっても(時間がかかるかもしれないが)相手へ性善説的に接することで、相手が期待を理解し行動が変化します。すると、いずれは信頼に足り得る人になってくれる可能性があり、まずは性善説的に接することが大切であるということです。

この1年間、とある企業で、リーダーシップコーチングを行ってきました。この経験を共有させていただくと、コーチを受けていたその上司の部下は(当初は私の目から見ても)期待するのが難しいのではないかと感じるほどの状況でしたが、上司も諦めず、手を変え品を変え、相手への期待を伝え、改善行動を促し続けた結果、少しずつではありますが、組織への貢献姿勢が高まってきました。また成果への改善がみられるようにもなって来ました。

1年前に諦めていたら今でもその部下は信頼できない状態で放置されていました。しかし、双方の努力の結果、少しは信頼できるように変わってきたのです。

また、私自身もこれまで60人ほどのメンバーと関わりましたが、この考え方はおおむね現実に当てはまると実感しています(期待を伝え継続的に支援的に関わることで、信頼に足り得る人材へ成長してくれることを実感しています)。

矛盾② 経験のない分野で信頼をどう獲得するか

2つの信頼のタイプのうち、特に「認知的信頼を獲得するために能力が足りない」というシチュエ―ションに出会うことが多くあります。

この原因は日本の人事制度に起因しています。具体的に言えば、日本の人事制度は「職能制度」をベースに発展してきているため、今いる部署で成果を出した結果、専門スキルがない分野へマネジメントポジションで異動をするケースが多く発生します。すると、経験・能力が足りず信頼を獲得できない状況にぶつかるケースを多く見ます。

すなわち、信頼を獲得してマネジメントポジションになったものの、専門性を一気に失われ信頼を獲得できないという矛盾にぶつかることになるのです。

この場合の解決のポイントは状況を踏まえて2つあります。

組織での成果を出す

まず1つは、状況として部下や周囲で専門性を持っていて課題解決できるメンバーがいる場合です。この場合は、経験・能力のあるそのメンバーとの情緒的信頼を獲得し、そのメンバーの行動を促し組織成果につなげることとなります。

自身が能力を身に付けなくてよいわけではありませんが、部下が気持ちよく働ける環境をつくることを通じて、組織での成果を出すことで、自身の信頼を増幅させることが重要となります。

改めて学び、能力を身に付ける

もう一方の状況は、そのようなメンバーが組織にいない場合です。その場合はどうするかというと、シンプルに自身が努力をして学び、スキルを獲得し、成果を出すことが重要となります。

ただ、「日本人は社会人になると世界でも最も学ばない」と言われています。勤務先以外での学習・自己啓発に対する『自己投資』に関する調査でも、以下のような結果が出ています。

パーソル研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」を参照して作成


私自身、企業のリーダーシップトレーニングを行っていても、「専門性のない部署で部下の方が専門性があるがどうしたらよいか(今更勉強すべきか)」という質問を受けることが多く、この学習への意欲の低さを実感している1人です。

ここで明確にお伝えしたいことは、信頼を得るためには上司たるもの学習・成長が不可欠であり、そこへ向けて努力をして欲しい、ということです。

今、世の中は大きく変化しており、変化適応のためにリスキング・アップスキリングの重要性がそこかしこで謳われています。日々成長・変化が重要と決め、学習を継続していきましょう。

第3回では、組織の信頼関係の高め方について考えてきましたがいかがでしたでしょうか。

いずれも容易に高まる近道はありませんが、大きな方向性と行動の継続性が重要であることがご理解いただければ嬉しく思います。

次回は「(一度決めた戦略・方針について)定期的な改善行動がとれる組織になるにはどうすべきか」を考えたいと思います。


<参考文献>

※1 Affect- and Cognition-Based Trust as Foundations for Interpersonal Cooperation in Organizations(Daniel J. McAllister,1995)

※2 Trust, trustworthiness, and trust propensity: A meta-analytic test of their unique relationships with risk taking and job performance.(JA Colquitt,2007)

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