あらゆる業界で変化が起きている時代―リスペクト・トレーニング

Netflixが撮影現場に導入し、一躍知られるようになった「リスペクト・トレーニング」。後編の今回は、昨今の時代の変化、リスペクトするために何ができるかなどを、Netflixと共同で日本向けのリスペクト・トレーニングを開発したピースマインド株式会社代表取締役社長の荻原英人氏に伺った。(前編はこちら

あらゆる業界で価値観の変化が起こっている

名藤:禁止事項を教えるハラスメント研修から、みんなでコミュニケーションについて考えていくようなところへと、研修のあり方のトレンドが進んできているわけですが、荻原さんから見て、昨今の日本の職場で変化を感じるところはありますでしょうか。

荻原:ここ数年の変化で感じるのは、法律が追いついてきて後押ししているというのもあると思いますが、社会全体がとても広い範囲で変わってきていることを感じます。たとえば、スポーツでいえば、昭和の時代は厳しく練習するのが一般的でした。今はパフォーマンスに効果があると科学的にわかっている方法をとるようになってきています。これに代表されるように、こういった変化があらゆる業界で起こっていると感じます。

リスペクト・トレーニング、Netflix

労働環境でいっても、過重労働などの安全や健康にかかわる一律的な施策は結構前から対策がとられてきたと思います。コロナ禍も相まってテレワークが普及したこともあり、そこから一歩進んで、働く人個人個人に合う働き方を考えていくことや、個の能力を最大限発揮できるように組織をつくっていくことが、尊重される時代になってきたというのはすごく感じますね。

名藤:たしかに社会は変わってきていると思います。一方で、グロービスでオンラインの科目を教えていると、日本全国から受講していただけるのですが、地方の方から、東京はそうかもしれないが…という声をいただくことがあります。地方に限らず「実態として周囲の意識は変わっていない」ということで悩んでいる方も多くいると感じます。

荻原:直接その解になるか分からないですが、地方と東京とか、グローバルと日本とかというのも、相対的に言えばそうだと思うのですけれど、ひとつの拠点を長い時間軸で見れば、その場の常識は永遠に続いてきたものでもこれからも続くものでもないですよね。実際に新しい風が入り、「それが良い」と共感が生まれれば、時間とともに変わっていくわけです。

白石和彌監督は、業界を変えようとリスペクト・トレーニングを取り入れてくださっていますが、そういうイニシアチブをとるリーダーがいると変わりやすいですよね。大きくいえば、時代はそういう風に変わっていくのかなと思います。

常識が通用しない苦しさ

名藤:白石監督のリスペクト・トレーニングへの取り組みを紹介した記事を読みましたが、印象的だったのは、これもまた年齢でレッテルを貼ってはいけないのですが、45歳ぐらいでリスペクト・トレーニングの実践を始めたというところです。わたしも同世代なのですが、ちょうど中間の世代のように感じます。自分より上の50代前後の世代だと人によっては、「あなたのやり方は古い」と責められるような気持ちで、苦しい方もいるのではないかなと思います。

荻原:おっしゃるとおり、 世代間の課題感とか悩みというのは結構ありますよね。ある程度のシニア世代の方が若手のメンバーとコミュニケーションしていくときのギャップや難しさは常にありますし、管理職としての難しさもあります。逆に若手の社員も上の世代とのコミュニケーションや相談の仕方に悩むこともあります。

リスペクト・トレーニング、Netflix

そういった点は、課題としてすごくあがってくるのですが、結局、方法としては他者を理解したり、自分と違う常識を受け入れたり、変化していくものにどう適応していくか、といったところが求められると思います

名藤:そうですね。「時代は変わっていく」という、そういう基本的な世界観を持つということでしょうか。

荻原:まさにそうです。ハラスメントの課題でいうと、ハラスメントしてしまう方も、悪気はなかったりするものです。ご自身がつちかってきた今までの常識で、よかれと思ってコミュニケーションしているけれど、そこに相手や時代とのギャップがあるということがありますよね。時代は常に変わっているということに、どう気づいていくかという課題があります

名藤:逆に若い世代は、ハラスメント的なものから割と自由で、フラットな関係を築けているというふうに言われていますが、そのようにお感じになりますでしょうか。逆に、それがゆえの問題点もお感じですか。

荻原:世代で語るのは難しい部分があります。ただ、若い世代のなかだけであれば問題ないのかもしれないのですけれど、実際には、いろんな世代や考え方、価値観の人達が協力して仕事をして、職場や社会は成り立っています。このため、何かしら軋轢(あつれき)は起こるものです。

他者をしっかり理解する、受け入れる、それこそリスペクトがないと、いろんな課題が起きてきます。たとえば、若い世代のなかでもSNS上のいじめだって起きますし。自分のことだけを考えたり、自分の常識をそのまま押し付けたりとかをやっていると、そういう課題は起きますよね。

名藤:最初の話に戻りますが、年齢が若かろうが高かろうが、お互いに相手にリスペクトというものを持たなきゃいけないよねという、そういうことですね。

荻原:はい、そうですね。

リスペクトするための実践

リスペクト・トレーニング、Netflix

名藤:相手をリスペクトするために、この記事を読まれている方が実践できるようなことがあれば、ご紹介いただけますでしょうか。

荻原:コミュニケーションをするときに、相手が誰であろうと「そこにリスペクトはあるのか?」と、フィルターをはさんで自分に問いかけることは、非常に有効だと思います。

多様性を理解する。理解するだけでなく受け入れる。さらに多様性を良いものとして取り入れていくというのは、なかなか難しいことですよね。 個人個人、何かしら考えも違うし、バックグラウンドも違うし、価値観も違うということを、知る機会をつくっていかないと「違う」ということがわかりません。その際、個人は絶対に何かしらバイアスがあるのだから「自分もバイアスを持っているのだ」、と認識することも重要だと思います

自分の考え方やマネジメントの手法、行動には、何かしら囚われがあるという前提で振り返ってみると自分のアンコンシャスバイアスに気づくことができるのではないでしょうか。

リスペクトということばを使うならば、リスペクトを持って、自分とは違う他者の考えや行動を学んで取り入れていくということができると、自身の成長につながったり、仕事を進めやすくなったりするのではないでしょうか。    

名藤:ありがとうございます。実は、他の人から指摘してもらうということは現実世界ではそれほど簡単なことではないですね。「バイアスがあるかもよ」と言ってもらえることがあれば、それはすごくいいなと思います。自分から「これってバイアスかな?」と聞いてみるのもいいかもしれませんね。

荻原:トレーニングの場であっても、それ以外の場であっても、そういうことを話したり考えたりする場があって、フラットに話せるという状態があるのは必要ですね。

名藤:そうですね。本日はどうもありがとうございます。

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