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中小企業で“ワーママ”のモチベーションを高めるポイントとは?

投稿日:2025/11/07更新日:2025/11/07

「女性活躍推進」は一段落?

今年は、1985年に男女雇用均等法が成立してからちょうど40年、2016年に女性活躍推進法が施行されてからほぼ10年にあたります。これらの法律は、「女性が働き続けやすい環境づくり」と「企業において女性が男女格差なく活躍できる環境づくり」という、働きやすさと働きがいの両立を後押ししてきました。

女性活躍推進法の施行時には、常時雇用する従業員が301人以上の企業(大企業※)に対し、女性活躍推進のための行動計画の策定・届出・公表が義務付けられました。その後、2022年4月の法改正では、101~300人以下の企業(中小企業)にも同様の義務が拡大されています。これで、大企業から中小企業まで、すなわち多くの企業が女性活躍推進について何らかの手立てを講じなければならない状況になったと言えるでしょう。

確かに、筆者が出産した2000年代半ばの状況から考えると、職場の風景はだいぶ変わりました。筆者が出産した当時は従業員数が約300人であり企業規模としては中小企業だった筆者の職場も、従業員数が約1000人となった現在では、出産によって仕事を辞める女性はほとんどおらず育児休業からの復職はほぼ100%。男性も積極的に育児休業を取得しています。「働きやすさ」の整備と共に、育児中であっても思い切った仕事にチャレンジする女性が出てくるなど「働きがい」も向上しています。

女性活躍推進への取り組み結果ともいえる調査もあります。リクルートマネジメントソリューションズが2025年に実施した、大手企業(主にプライム企業)の女性課長および管理職一歩手前の女性を対象とした昇進意欲についての調査では、「より上位の役職に就きたい(あてはまる・どちらかといえばあてはまる)」と回答した女性課長は47.7%となりました。同様に回答した男性課長は42.3%です。つまり、女性課長の半数近くがさらなる昇進を希望しており、かつ、男性課長の昇進意欲を上回っていることが分かりました[i]。

大手企業の女性社員の昇進に関する調査に関するグラフ
リクルートマネジメントソリューションズ(2025)「大手企業の女性社員の昇進に関する調査結果 」を参照して編集部作成

しかし、中小企業ではどうでしょうか。大企業と中小企業とで女性活躍推進に差が広がっているのではないでしょうか。

中小企業の現状

企業数で考えると、中小企業は大企業を圧倒しています。2017年時点で、日本における企業数の約99%が中小企業であり、全雇用者数のうち約70%が中小企業で働いています[ii]。

このようにビジネスにおいて大きな位置を占めている中小企業ですが、女性活躍推進については、まだ取り組みも意識も企業ごとにバラツキがあるのが現状です。
例えば、エン・ジャパン株式会社が2023年に中小企業(従業員数300名以下)350社に実施したアンケートによると、女性活躍推進法に関する各種義務化について、義務化の対象企業(全体の約50%)のうち、「対応検討中」「何をすべきかわからない」「対応が必要かどうかわからない」と回答した企業は34%でした[iii]。つまり、義務化対象企業の約半数は、まだ女性活躍推進について積極的に取り組んでいないという状況にあります。

中小企業では、その規模の小ささから「働きやすさ」を推進する施策を人事制度として導入せずに、運用により柔軟に対応する点に特徴があるとされてきました[iv]。しかし、2022年の女性活躍推進法の改正は、「柔軟な運用」に頼らずに制度として整備することを中小企業に求めているといえるでしょう。例えば中小企業庁は、中小企業における取り組みを進めるために、「中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン」を作成しています。このガイドラインでは、「働きやすさと働きがいの両立」のために残業削減などの職場環境の見直しや、人事評価制度や処遇制度の見直しなどを提言しています[v]。

このように、中小企業の制度面は法律の後押しもあり整備が進むことが期待されますが、当事者である中小企業で勤務する女性は、制度面が整えば仕事へのモチベーションが上がるのでしょうか。ここでは、特に就業継続に困難さがあると想定される育児中女性を対象とした調査結果をみていきましょう。

モチベーションアップのカギは、上司との「対話」?

「制度がある」だけでは伝わらない

筆者は2016年に、中小企業に勤務する育児中女性(正社員)の仕事へのモチベーションがアップする要因について二次分析による調査を実施しました[vi]。その結果、「企業の制度がある」ことだけでは、育児中女性のモチベーションに影響を与えていませんでした
一方で、企業の「働きがい」を推進する施策が、上司のマネジメント(行動)を通して中小企業の育児中女性に認知されることが仕事へのモチベーションを高める要因だとわかりました。上司のマネジメントとは、育児中女性の仕事の仕方や内容について関心を持つ、相談に乗る、意見に耳を傾ける、成長や活躍を後押しする、といった行動です。つまり、企業の「働きがい」推進施策が機能していることを、上司の「育児中であっても、仕事での活躍を期待して接する行動」を通して育児中女性が感じられた時に、中小企業の育児中女性は仕事を頑張り、成長しようと思えるのです。

育児中女性のモチベーション向上のタイミング
編集部作成

なお、大企業の育児中女性については、「働きがい」に加えて「働きやすさ」推進施策も上司のマネジメント(行動)を通して認知されることが仕事へのモチベーションアップの要因となっていました。しかし、これは、中小企業の育児中女性については、調査当時において就業継続できているという時点で両立のハードルをクリアしているサンプルだったと考えられるためであり、中小企業の育児中女性に「働きやすさ」が必要ないということではありません。

いずれにせよ、大企業であっても中小企業であっても、「制度がある」だけでは育児中女性の仕事へのモチベーションが上がらないのは同じなのです。

上司との対話が足りていない?

どのような上司のマネジメント(行動)が仕事へのモチベーションをアップさせるのかを、企業規模を問わない育児中女性を対象に、もう少し具体的に深ぼった他調査があります[vii]。その調査では、特に、将来的な昇進・キャリアを手助けしてくれるスポンサー機能と、評価結果を適切に話す機会を持つフィードバックが、育児中女性にキャリアの見通しを立てさせ、仕事へのモチベーションをアップさせる決め手だとされていました。
見てきた通り、女性活躍に関する制度だけを整備しても、上司がそれを活かし、モチベーションアップの決め手となるような行動をしないと意味がありません。その時にこそ、育児中女性と上司との「対話」が重要になってくるのではないでしょうか。

最近の企業経営では、社員のエンゲージメントや生産性の向上、イノベーションの創出といった観点から、「対話」の重要性が強く叫ばれています。「対話」の場として、例えば目標管理制度に基づいて半年に1回だけだった面談を見直し、2週間に1回などもっと頻繁に面談をする1on1などが行われるようになりました。
これは、育児中女性のみならず、多様な人々が働きやすさと働きがいを両立して仕事ができる環境を作るために、従業員本人の希望と経営側の方向性のすり合わせを行い従業員のエンゲージメントを高め、仕事へのモチベーションを向上させる取り組みです。

しかし、2015年に行われた中小企業への他の調査[viii]では、上司と部下のコミュニケーションは、1日に5回以下、また総時間は15分未満であるという結果がありました。少し前の調査ではありますが、上司と部下は、日常的に非常に限られた時間のなかでコミュニケーションをとっていることが分かります。また、この調査では、上司と部下が面談する頻度は「半年に1回」「3か月に1回」「1か月に1回」が約8割を占めていました。恐らく人材に余裕が無い中小企業において、上司と部下が突っ込んで話をする機会をなかなか持てていないことが推測できます。

中小企業においては、まず、働く状況の改善という意味で女性活躍推進のための制度整備は必須です。しかし、その上で一番大切なことは、上司と育児中女性がお互いにビジネスパーソンとして尊重し合い、上司が今後も育児中女性の活躍を期待しているという態度を示すこと。そして、上司と育児中女性が率直かつ真剣に「対話」を行うことのできる機会と時間を創り出し、今後の活躍の方向性を一緒に模索することではないでしょうか。
お分かりのように、解決すべき課題は中小企業と大企業の間にあまり差がありません。しかし、課題の解決策においては、中小企業ならではの良さとして柔軟さを活かすことができると考えます。

最後に

筆者が行った二次分析では、企業が行う「働きやすさ」と「働きがい」推進施策は、企業規模の大小を問わず上司の部下育成の態度に影響を与えていることもわかりました。つまり、上司がこれらの施策に納得していると、育児中女性も分け隔てなく育成しようとするということです。
これまでの研究でも、女性の活躍には上司の部下育成、及び、上司の女性部下に対する育成方針に働き掛ける企業の取り組みが重要であることが明らかになっています[ix]。中小企業は、単純に女性活躍推進に関する義務化に対応するだけではなく、「働きやすさ」と「働きがい」を推進する施策を社内に広めマネジメント層に浸透させるなど、具体的な行動につながる取り組みをするべきでしょう。

中小企業においても育児中女性の就業継続が当たり前になってきました。単に人手不足解消のための手段ということではなく、育児中であっても満足のいく仕事をしたい、正当な評価をして欲しい、活躍をしたいという女性の希望に、中小企業の経営側が、経営問題としてどのように対応していくかが今後は求められていると考えます。それが、ひいては育児中女性だけではない多様な人材の活躍につながり、経営上の成果に繋がってくのではないでしょうか。


※本コラムでは、常時雇用する従業員数が300人以下の企業を「中小企業」と表記しています。(中小企業基本法における製造業等の基準に準拠)

参考文献

[i] リクルートマネジメントソリューションズ(2025)「大手企業の女性社員の昇進に関する調査結果」、2025年7月29日アクセス

[ii] 中小企業庁(2017)『中小企業白書2017年版』

[iii]エン・ジャパン株式会社(2023)「中小企業350 社に聞いた『企業の女性活躍推進』実態調査2023」2025年6月25日アクセス

[iv] 中小企業庁(2006)『中小企業白書2006年版』

[v] 中小企業庁(2023)「中小企業・小規模事業者人材活用ガイドライン 令和5年(2023年)6月」2025年8月3日アクセス

[vi] 石橋直美(2017)「法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修士論文2016年度 中小企業の育児中女性が仕事や昇進に対する意欲を維持するための要因」 ※独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した『男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査』(2012)を基に、筆者が二次分析を行った

[vii] トーマツ イノベーション(現・ALL DIFFERENT株式会社)×中原淳 女性活躍推進研究プロジェクト (2017)「女性の働くを科学する:追加調査」、2025年8月3日アクセス

[viii] 中原淳・保田江美(2021)『中小企業の人材開発』東京大学出版会, p63.

[ix] 武石恵美子(2014)「女性の昇進意欲を高める職場の要因」『日本労働研究雑誌』No.648, pp.33-47.

  • 石橋 直美

    グロービス学び放題 コンテンツ開発チーム研究員

    法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修士課程修了。 コンサートホールを運営する公益財団にて事業企画等に従事した後、グロービスに入社。法人向け人材育成・組織開発部門において、コンサルティング業務、部内の業務改革プロジェクト等に携わる。現在は、ビジネスを学べるオンライン動画サービス「グロービス学び放題」のコンテンツ企画・執筆を行っている。日本キャリアデザイン学会会員。MBTI認定ユーザー。

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