JR東日本のDX、お客さまのデータを繋ぎ、より広く「人の幸せ」を考える

2018年に発表したグループ経営ビジョン「変革2027」で鉄道や駅という従来のハード起点のモデルから、MaaS、Suica、データマーケティングを三位一体でとらえ、リアルなネットワークによる新たなサービス創造をめざすJR東日本。この取り組みを推進するキーパーソンであるMaaS・Suica推進本部次長の小野由樹子氏に話を聞いた。(全2回前編)

お客さまにより良いサービスを提供するためのデータマーケティング

―現在のMaaS・Suica推進本部について教えてください。

小野:MaaS・Suica推進本部には4つの部門があります。主にSuicaの基盤となる技術的な部門、電子マネーやJRE POINTといった電子決済の部門、データマーケティング部門、そしてMaaS事業部門で約200名の部です。私はデータマーケティング部門とMaaS事業部門2つのチームを見ています。

―データマーケティング部門というのは、どのような仕事をされるのですか?

小野:各事業部門が、お客さまにより良いサービスを提供するためのマーケティングを行うとともに、それをグループ会社も含めて横断的に活用するための仕事をしています。データマーケティングは単一の部門だけでは無理があるので、私たちのような部門が横串になって提案したり、基盤づくりをしたりすることが多いのです。

―「横串を通す」ことは、御社のように大きな会社だと難しいのではないでしょうか。

小野:たしかにそうですね(笑)。それぞれの部署が責任感を持って仕事をしていますが、隣の事業にまでは目がいかないことが多いので、私たちが横串を通すことによって全体最適を実現したいのです。

ですが、当社の主軸である鉄道事業を維持するためには、守るべきものがあるので、私たちDXの部門が「こういうデータが欲しい」「こういうことをしたい」といっても、その部門にとって、それが良いことなのかが腹落ちしないというケースが往々にしてあります。そういう時にどうすれば納得感のいく取組みとなるのか、Win-Winになるにはどうすればいいのか、皆で頭を悩ませています。

―RingoPassは、電車を降りた後のタクシーや自転車のシェアまでできるサービスです。電車を降りた後のサービスも考えるというのは、「お客さま」の捉え方が変わってきているのでしょうか。

小野:今までは、「鉄道に乗るお客さま=駅にいらっしゃるお客さま」という捉え方でしたが、より広く「人の幸せ」を考えるように変化しています。お客さまは、電車に乗るだけ、駅ナカや駅チカの商業施設を使うだけではありません。それぞれの行動が繋がっています。

お客さまの行動が繋がっているからには、データも繋いでいけば、より良いサービスをご提供できるはずです。出発地から目的地までのお客さまが移動する過程では、二次交通であるタクシーやシェアサイクルなども必要になります。であれば、そこをスムーズにご案内できる動線も必要だと考えたのです。

当社は2018年7月に「変革2027」という経営構想を発表しています。そこには今までの考え方をガラリと変えなければいけないという、トップの思いと、それを現場に浸透させる工夫がたくさん盛り込まれています。お客さまの捉え方の変化も、その1つです。

(出典)JR東日本グループ経営ビジョン「変革2027」

―鉄道だけでなく駅ビルや商業施設の整備、そしてさらに生活全般に関わるビジネス構想ですね。

小野:MaaSとは、Mobility as a Serviceの略ですが、それだけではなく「生活全般のさまざまな流れをスムーズに」といったことをめざしています。

「教わる姿勢」で、ベンチャー企業との連携もスムーズに

―アプリ開発にあたってベンチャー企業と協業されています。大企業とベンチャー企業では企業文化の違いなどがあるかと思いますが、協業を成功させるためにどのような工夫をされましたか。

小野:JR東日本のアプリを一新しようということになって、まずIDEO Tokyoにデザインシンキングの手法などを教わりました。そのあとIDEO Tokyoからの紹介でPivotal Japan(現・VMware)にお願いして、一緒にアジャイル開発をしながら学びました。最初から分からないことだらけで、教わる立場だったのが良かったのかもしれません。

そもそもデザインシンキングやアジャイル、リーンスタートアップのような考え方は、皆がそれぞれの役割を明確にして対等に議論をしながら、お客さまの求めているものを見極めたうえで素早く開発をするという手法です。フラットな関係が生きる手法ですので対等に開発ができたというのもあると思います。

また、上司や役員クラスに理解があったのも大きいです。東日本アプリは安全や運行そのものに影響を与えるものではないので、まずは「やってみよう」という気持ちで取り組めたのも良かったですね。

―外注ではなく、一緒に開発をされた。

小野:東日本アプリ、RingoPass、観光MaaSなどは協力会社の方と一緒に進めていますが、プロジェクトマネジャーはJR東日本の社員が務めています。もちろん大きなシステムは外注ですが、JR東日本アプリもRingoPassも、ビジネスをつくるところや、アプリを開発するのは内製です。私たちの思いが常に反映されるようにしつつ、内製化できる仕組みをつくって推進しました。

「変革2027」で予想していたことが、コロナ禍で現実のものに

―DXの価値をどのように考えていらっしゃいますか。

小野:「DXをする」ことが本質的な目的ではありません。業務を良くしていくためには根本からモデルを変える必要があり、それがDXになると思います。

コロナ禍によって日本企業は暗黙知で動いていたことを痛感させられました。以前はそれでも問題なかったのですが、リモートワークの普及によって形式知にしないといけないことに気づいたのだと思います。災いのなかとはいえ、そういう認識が根付き、DXを加速する機会になったのは不幸中の幸いでした。

弊社の場合、「変革2027」で予想していたことが、突然早まった感があります。ポストコロナにおいては、お客さまや地域の皆様方の目線から方策を考える機運が高まったと思います。

―今後、MaaS・Suica推進本部としてはどのようなことに取り組んでいくのでしょうか。

小野:さまざまなミッションがありますが、MaaS・Suica推進本部が立ち上がった時に想定されていたのは、移動のシームレス化や多様なサービスのワンストップ化、データを活用した新サービスの導入などです。そういったことをSuicaとMaaSとデータマーケティングが三位一体になってやりましょうという趣旨で立ち上がったのが始まりです。

小さなお子さんからお年を召した方、ハンディキャップのある方まで、また大企業の方から、中小やスタートアップの方、公務員の方など、多様な方々が、生活し、感動し、働き、挑戦する、そんな場を我々のサービスやプロダクトを通じて、試行錯誤しながら、提供できればいいと思っています。

後編に続く

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