JR東日本の女性活躍「少しだけ難しい山に登ることで、違う景色を見る」

JR東日本のMaaS・Suica推進本部で、データマーケティングを利用したリアルなネットワークによる新たなサービス創造を推進する小野由樹子氏。前編では、MaaS・Suica推進本部の役割について聞いた。後編は、小野氏ご自身の価値観の原点に迫る。(全2回、後編)

当時としては珍しい女性助役からマーケティング部門へ

―前編では、現在のMaaS・Suica推進本部の事業についてお聞きしました。後編では小野さんご自身の価値観や、女性として働くことにフォーカスしてお聞きしたいと思います。まず、これまでのご経歴を教えてください。

小野:1991年に東日本旅客鉄道に技術系として入社しました。入社後は、旅行センター等を経て車掌の教育やサービスを担当する企画部門、東京地域本社(当時)の運輸車両部運用課に配属されましたが、女性は初めてでした。

1999年には、新幹線、武蔵野線、京葉線の車掌を束ねる現場の助役として、丸の内車掌区に異動になります。1997年に労基法の女性保護規定が撤廃されたのを受けて、女性の車掌をつくることになったのです。私自身が車掌になったわけではなく、女性が車掌として働くための環境整備や教育を担当しました。

その後は、2002年にグループ会社のジェイアール東日本企画でリサーチ業務を担当しました。2004年には経営企画部兼務フロンティアサービス研究所でお客さまの声を聞いて様々な経営施策に反映する仕事も経験しました。そして2009年、Suicaのデータ活用プロジェクトを行うIT・Suica事業本部(現在はMaaS・Suica推進本部)に異動となり、現在に至っています。現在は、データマーケティングの業務のほか、RingoアプリなどMaaSのプラットフォームやプロダクトを開発する業務も行っています。

「できないけれども興味があること」に挑戦したい性格

―総合職で働く女性が少ない時代から今までキャリアを続けてこられたわけですが、小野さんの大学時代のモットーは、「面白いことならなんでも試してみよう」だと伺いました。

小野:物心ついた頃から、面白いことというか、「ちょっとだけできないけれども興味があること」に挑戦するタイプでした。人それぞれだと思うのですが、私にとって意欲が沸く選択はそういうものだったんです。

秀でた才能を持っている人はそれを得意分野として続ければいいのですが、そういうわけではなかったので、ちょっと難しい山に登るために、体力をつけようとか、こうしようということを考えてやってみるのが面白かったのだと思います。大学では統計学の研究室に入ったのですが、それも統計学が分からなかったからです(笑)。

―女性は管理職になるのに躊躇する傾向もあるといわれます。そういう方にもしアドバイスをするとしたら、何とお伝えされますか。

小野:敢えていうならば、「自分が楽しいと思うものは何か」という軸をいつも持つことです。管理職になってもならなくても、仕事をすると常に壁にぶつかると思います。そういうときは鈍感ぐらいがちょうどいい。そんな中からも楽しさを見つけるような気持ちで、一歩ずつ進むといいと思います。

壁を乗り越えてみると、見える景色が大きく変わると思いますし、管理職になったらなったで、また見える景色は違うものになります。

私も、それまではとにかく目の前の仕事に一生懸命でしたが、管理職になった後は、部下や社員のみんなが成長することが楽しくなりました。そういう風に見える景色が変わる経験をしてみてもいいのでは、と思います。

―「ちょっとだけ」できないというところがポイントですね。高すぎる壁ですと、めげますが、ちょっとだけでしたら、乗り越える方法を考えられそうです。

小野:そうしているうちに、いつのまにかすごい高い山に登れるようになる。筋トレも同じですね。

―気負わずにまずやってみたらいいということですね。鉄道業界は男性中心のイメージがありますが、小野さんが入社されてから、どのように変わったのでしょうか。

小野:入社したての頃は、女性が少なく、女性用のお手洗いをどうするかが問題になりました。管理職として丸の内車掌区の現場に行った時も、新幹線に一緒に乗ると、お客さまから「見習いかい?頑張ってね」というような声をかけられたくらいです(笑)。昨今では、女性の運転士も駅長も普通におりますし、我々企画部門にも女性がたくさんいます。パーセンテージにするとまだ低いですが、感覚的には一緒に働いているのが当たり前になりましたので、変わったものだと思っています。

お客さまや皆の「笑顔」と「元気」を実現する鉄道会社でありたい

―複雑で長期的なビッグプロジェクトを管理する秘訣を教えてください。

小野:逆に教えてほしいくらいです(笑)。先ほど(前編で)申し上げたように、ビジョンを共有できること、そしてユーザーオリエンテッドを貫くといった三現主義ですね。我々は「仮説を構築する」と言っていますが、きちんと現場を見たりお客さまの声を聞いたりして、本当にそれが仮説と呼べるものなのかを確認しながら、進めていく必要があると思います。また、デジタル時代を迎えて、若者のほうが知識レベルやノウハウが上になるので、若者をリスペクトして任せるのも秘訣だと思います。

―社内も社外も、若者に任せると。

小野:そうですね。自分も含めて年長者が悪というわけではないのですが、持っている経験や知恵を押し付けるだけになるのは良くないと思います。

―最後の質問です。グロービスでは「志」を大事にしています。志というのはすごく小さなところから始まって、だんだん育っていって、ある時終わりを迎えて、また自問自答して新しい志を見つける。そういうサイクルがあると我々は考えていますが、これまでを振り返って、またこれから、小野さんの志を語るとしたらどんなことでしょうか?

小野:昔からの夢があります。皆が笑顔になれるようなこと、元気になれるようなことをやりたい、と常々考えています。弊社は、公共性の高い企業ですので、真にいい会社になれば皆が元気になる手助けができると思っています。そういう思いもあって、「横串を通す」仕事を続けているのだと思います。

―素晴らしい志ですね、本日はどうもありがとうございました。

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