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IFRSと日本基準-貸借対照表の違い Vol.4【事例・図表で解説】

投稿日:2021/03/26更新日:2023/07/13

IFRS連載第3回は、IFRSの財務諸表について学び、中でも損益計算書に着目し、日本基準との相違点を解説しました。第4回は、主に貸借対照表(IFRSでは「財政状態計算書」が名称だが、以下、「貸借対照表」とする)の相違点についてご紹介します。

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IFRSの貸借対照表

IFRSと日本の貸借対照表の違いは、以下の図の様にまとめられます。

(注2) IFRSにおいては、「固定」(Fixed)とは呼ばずに「非流動」(Non-current)と表現します。従って、「非流動資産」は日本基準の固定資産、「非流動負債」は同じく固定負債に該当します。

(注3) 「流動性配列法」とは、貸借対照表上の勘定科目について、流動性の高いものから低いものへと上から順に配列する方法を言います。つまり、資産については換金性の高い順に、負債については返済期間の短い順に配列します。一方、ガス事業や電気事業等の固定資産が多額で重要視される企業では、固定性の高いものから順に配列する「固定性配列法」(非流動配列法)が採用されることがあります。

主要な表示区分

IFRSにおいては、資産と負債は原則として、流動・非流動に区分して表示します。例外としては、流動・非流動に区分しない方が信頼性があり、目的適合性がより高い情報(財務諸表利用者の意思決定に影響がある情報)を提供する場合には、区分せずに表示することも可能です。流動と非流動の区分基準には、正常営業循環基準(注4)と1年基準(注5)が用いられます。日本基準に存在する「繰延資産」については規定が存在しません。

IFRSでは、最低限表示すべき項目(注6)を定めていますが、企業の財政状態を理解する上で重要性がある場合には、追加で表示項目(科目)、見出し、小計を表示することが求められます。

(注4) 「正常営業循環基準」とは、正常な営業活動の過程にあるものは流動資産または流動負債とする、という基準を言います。現金化される期間が1年を超えるものでも、この基準を満たせば流動資産または流動負債に分類されます。

(注5) 「1年基準」とは、「ワンイヤー・ルール」とも言い、決算日の翌日から起算して1年以内に入金または支払期限が到来するものは流動資産または流動負債とする基準を言います。実務においては、まず、正常営業循環基準を適用し、この基準で判断できなかった項目(例えば、営業取引以外で発生する有価証券の購入等)を更に1年基準を適用し、「流動」と「固定」とに分類します。

(注6)  IAS第1号「財務諸表の表示」第54項には、財政状態計算書に掲記すべき最低限の項目として、18項目をあげています。(2021年2月時点)

科目の配列

日本基準では、原則的に流動性配列法が用いられています。流動性の高い順に並べて表示することは、支払能力を表現するには良い手段とされています。一方、IFRSでは資産と負債項目の配列方法についての規定は特になく、流動性配列法と固定性配列法(非流動性配列法)のいずれも認められています。どちらで表示するかは各企業の判断に委ねられていますが、あくまで財務諸表利用者が企業の財政状態を把握しやすい方法を選択することになります。

事例:味の素の貸借対照表を見てみましょう!

事例として、IFRSで作成された味の素(株)の連結貸借対照表(財政状態計算書)を見ていきましょう。

(出典)味の素株式会社 決算資料

資産も負債も流動性配列法により表示されています。資産の内訳について、例えば「有形固定資産」のところ。日本基準の貸借対照表では、さらに内訳として「建物及び構築物」、「土地」、「建設仮勘定」などが記載されますが、IFRSでは、そこまでの記載はありません。これら有形固定資産の内訳は、財務諸表の注記情報において詳細が記されます。
「無形資産」についても同様です。日本基準では貸借対照表上で「商標権」、「ソフトウェア」などの残高が記載されますが、IFRSでは「無形資産」とだけ表示され、その詳細は注記情報に記載されています。貸借対照表の表示科目はシンプルですが、その分、注記情報が豊富なのがIFRSの特徴とも言えます。

また、日本基準で言う「純資産」の部を、IFRSにおいては「資本」の部として表示しますが、意味合いは同じです。

さらに、特徴的な項目としては、資産、負債、資本の各部に「売却目的保有に分類される処分グループ」があります。これは、将来売却する予定の事業グループについて、それぞれ他の資産、負債及び資本と区分して表示したものです。日本基準ではこのような区分はありませんが、IFRSでは、これらを区分した方が、財務諸表利用者が将来の予測をするにあたって有益な情報を提供するとしています。

ちなみに、味の素(株)は、2019年4月に物流事業を統合するために、大手食品企業と共同で新規に物流会社を設立しました。物流事業を手掛ける子会社である味の素物流(株)は新会社に吸収されることになったため、味の素(株)は味の素物流(株)の支配を喪失することが確実になりました。そこで、2019年3月期に、これらに関わる資産、負債、及び資本を「売却目的保有に分類される処分グループ」に計上し、物流事業を非継続事業に分類しました。物流事業は他の大手企業と統合されることになったため、2020年3月期の財政状態計算書においては、「売却目的保有に分類される処分グループ」の金額がゼロになっています。

今回は、貸借対照表について、IFRSと日本基準の違いを見ていきました。次回は、キャッシュ・フロー計算書を取り上げて説明します。


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