地域活性化の担い手について考える【 グロービス・マネジング・ディレクター /西恵一郎】

「北海道」という共通の軸を通し、様々な年齢や職種の方から話を聞いてきた本シリーズ。最後となる今回は、東京に舞台を移し、人材育成のプロフェッショナルである私たち自身に立ち返りたい。長崎の壱岐島出身で、グロービスのマネジング・ディレクターを務める西恵一郎が考える、地域活性化を通じて生まれるリーダーとは。

地域活性化のカギは雇用を創出し続ける仕組みづくり

篠田:出身地の地域活性化に関わった経験があるとか。具体的にどういったことをしたのか。

西:僕の出身は、長崎県の壱岐という九州と韓国の間にある島。『日本書記』の中で最初にできた島の1つで、『魏志倭人伝』にも登場する日本の原点に近い場所だ。野菜・果物・牛・魚などなんでも獲れる実り豊かな島でもある。一方で、島内には大学がなく、一次産業以外は就職も難しいため若い人は出て行ってしまう。僕も18歳になるまで島で育ったが、大学進学とともに島を離れた。

のどかな地元という意味ではいい町なのだが、島全体を考えると人口は減っていて過疎化も進んでいる。町として、そして島として持続的に維持したいという想いはあるけれども、近い将来、財政赤字で行政サービスを維持できなくなり、限界集落を超えていく日が来るかもしれないということが見えてきた。だからこそ、何かやるなら今やらなければという想いがあった。

地域に関する活動、特に自分の地元に関しては、僕のライフミッションと思っている。だから地元に帰ろうと考えたこともあったが、今自分が1人で戻ったとしても何ら貢献できないと思いなおした。それは仕事がないから。これは壱岐だけの問題ではなく、多くの過疎地域に共通する問題だ。各地の地方創生で「町・人・仕事」などと言われているが、本当は仕事が一番先だという議論がある。

ただ、雇用を生み出す発想を行政に求めるのは難しいので、それならば雇用を創出し続ける仕組みを作る必要があると考え、壱岐の人達と議論した。そして、本気で仕組み作りを行うのであれば、ビジネスを考えられる人に相応の年収を払って相談役として来てもらうべきだという話をした。最初は多くの方が難色を示していたけれども、最終的に議会で通してもらえてビジネスチャンスを作り出すサポートを行う「Iki-Biz」が誕生した。

これは僕がゼロから提案したというよりも、元々地元の人達が持っていた問題意識を明確にして後押しをしたという感じ。問題意識があっても、実現させるためにどのような形に落としていくべきかに確証がなくて動けてなかったということだと思う。

篠田:第三者からの客観的な意見が、行動を起こすための一助となったのだと思う。

西:確かに、こうした雇用を生み出し続ける仕組みを行政だけで作るのは難しい。だからその地域で民間に知見がある人がいれば仕組み作りができるし、いなければ難しいということは起こりがち。一方で、こうした取り組みを実践できるかどうかは、行政の問題意識が非常に大事だとも思っている。

地域活性化×リーダー育成――越境学習から見えたもの

篠田:グロービスで実施している地方創生プロジェクトは、部外者として地域に入っていく形だ。まずは、プロジェクトを始めるに至った経緯を説明して欲しい。

西:地域活性化プロジェクトを他社と一緒に取り組むのであれば、地域の活性化が事業そのものの企業と取り組みたいと思っていた。そもそも地域や社会がなければ雇用が生まれず、生活者も生まれず、よって消費も生まれないのだから、「企業活動は地域社会がないと成り立たないのだ」という前提に立って地域活性化に取り組んでいる企業と一緒にやりたいと。

実は、以前から東京海上日動火災保険様(以下、東京海上日動)が地域活性化の取り組みをとても主体的に取り組まれているというのを聞いていた。そこで、「プロジェクト型で地域活性化支援プロジェクトをやってみませんか」と提案したところ、先方としては地域活性化が戦略目標に繋がっており、かつこうしたプロジェクト型での取り組みをやってみたいと思っていたということで、すぐ一緒にやろうとなった。

篠田:このプロジェクトは、地域活性化プロジェクトにおける「リーダー育成」がテーマだ。なぜ「リーダー育成」という要素を組み込んだのか。

西:プロジェクトを発足する中で、東京海上日動から「異業種交流の取り組みにしたい」という提案があった。それを受けて参加してくださる他社企業を探していた時、最も響いたのが「若手のリーダー育成」という文脈。つまり、このプロジェクトの越境学習という側面が他の参加企業には魅力として響いた。結果として、地域活性化にフォーカスしたプログラムでありながら、リーダーシップ開発という文脈も取り入れるとになった。

実はこれは面白い観点で、自社では発揮できているリーダーシップが外とコラボレーションした時に発揮できない人が一定数いる。「いつもの環境」ではない場面でもリーダーシップが発揮できるということの大切さを理解して頂き、ポータブルなリーダーシップスキルを付けることに参加者の皆さんに向き合ってもらった。

篠田:地域活性化における越境学習の特徴はどんなところにあるのか。

西:これまで様々な異業種研修で越境学習を実施してきたが、その多くが参加者同士で所属企業を研究し合い、お互いの会社に対して提案をするというような形だった。そうすると、研究対象に選ばれた企業の人がリーダーシップをとることとなり、他社の人たちが本気で取り組むのは難しい。

それに比べてこの地域活性化というテーマは、すべての参加者にとって均等な距離にあり、全員が真剣にならないと解決策が出ない。真剣にやるからこそ、時にチームでハレーションが起きたり、遠慮しているとうまく進まなかったりという課題が浮き出るようになった。結果的に、全員が本気になり、リーダーシップ開発が進んだ。

もう一点重要な側面としては、各社の研修事務局が帯同してくれていたこと。研修を通じて各社の人材の特徴や陥りやすい傾向について共に議論しながら、プログラムをブラッシュアップできた。

篠田:リーダーシップの特徴や課題は各社によって異なるということか。

西:その通り。業界・職種によって発揮されるリーダーシップや陥りがちな状況というものが見えてきた。それを踏まえて、プログラムを各社の研修事務局と一緒に創りながら実施してきたという点が、よりリーダーシップ文脈を強化することとなったと思う。

第三者として地域に関わること~その難しさと意義~

篠田:このプロジェクトは、第三者、つまり地域にとっては外部者である企業の参加者が提案を行う形だが、提案まではどのように進むのか。

西:このプロジェクトの難しさは最終実行者が提案者とは異なること。つまり、提案者(=参加者)がプロジェクトの実行までを担うのではなく、最終的には現地の実行者に引き継ぐ形になる。だから、プロジェクトの最初から「参加者の皆さん(=提案者)がいなくても実行されるように実行主体(現地の団体など)を巻き込んで提案する」ということを前提条件にしている。実行者を巻き込みながら提案に持っていく、ということは参加者にとっての大きなチャレンジだ。

篠田:最終提案では現地での実行者が指定されているということか。

西:各チームは、最終提案前までに現地実行者とかなり議論をしており、実行者が行う部分と実行に必要なサポート(例えば行政や他団体からの支援)を明確にしている。支援を求めて他団体/協会に直接連絡をとって合意を取り付けるというようなことも行っていた。団体/協会は地域外にあることも多いが、地域外と繋げることで地元だけに閉じないネットワークが広がり、より広範囲の影響力を持つ取り組みになるという効果もあった。

篠田:地域を超えたネットワークづくり・コミュニティづくりにも貢献しているということか。

西:そういった側面もあった。プロジェクトのゴールは実行主体が実行できる状態まで持っていくことだが、実行者が自分事化して本気で取り組んでくれなければ、実行されずに終わってしまう。それを防ぐためには、提案者の情熱が実行者に伝播しなければいけないが、情熱は一瞬では伝播しない。持続的に関与していくことを通じて、情熱も含めて本当に引き継がれていく。その過程でネットワーク・コミュニティづくりの営みに繋がっているともいえる。

篠田:このプロジェクトを通じて、最終的に地域にはどのような貢献をしたいのか。

西:まずは、地域に雇用を生みたい。そのためには、産業(事業)を作らなければならない。そしてその手前に、事業をつくろうという機運が生まれている必要があり、そのきっかけ作りをしたい。どこまで影響を持てるかはわからないが、例えば想いを持った人が役所や地元にいるかもしれないので、そういう人がこのプロジェクトの取り組みを近くで見たり聞いたりすることで、自ら働きかけられる人になってくれたらいいと思っている。このプロジェクトの成果が明瞭化されていくと、実績として伝っていくと思うので、こうした動きがより加速しそうな気がしている。

篠田:課題感や想いを持っている地域の人の背中を押す活動という意味では、壱岐のプロジェクトとも共通点が見えた。ある意味、部外者だからこそその地域の良さを客観的に発見でき、新しい風を入れることが出来るのかもしれない。

地域は誰のものか?「誇り」と「想い」をもって取り組む人の背中を押したい

篠田:「地方創生」という言葉についてはどう思うか。「地方創生」という言葉は地方と中央という対比をベースに、中央の視点で考えられた言葉だという議論がある。

西:そもそも地方は「創生」されるものではないし、地域に住んでいる人たちはきっと満足していて「創生してほしい」とは思ってない。子供世代や孫世代が自分の住む地域に同じように住めるようにしたい、ということがみんなの願いなのでは。つまり、この地域のエコシステムを持続させていきたいという想い。

一方で、日本全体で人口が減るのは目に見えている。日本の人口問題の根本は、出生率の高い地域から出生率の一番低い東京に日本中の人が流れ込んできていること。地方に住んでいたら出生率は比較的高いレベルで維持されるはずだが、東京に一極集中していけばいくほど人口減が加速してしまうという構造的な問題がある。

篠田:地方で雇用機会が少ない状況が続けば、東京に流れ込んでしまうと。

西:こうした機会の偏りがある程度改善され、地方に住んでいても仕事ができる環境が整えば人口集中しないが、そのためには雇用機会が集中しない仕組みが必要だ。

篠田:人口流動によって地元を離れている人が多い中、「地方創生」「地域活性化」は誰のものかというのも重要な話。各人が故郷の活性化を自分事化として取り組まなければ、日本全体の地域が衰退していくことが見え始めている。

西:そこで大事になるのが「シビックプライド」だ。自分が外に出た時に自分の出身地に対してポジティブに話ができ、他の人が行きたい・住んでみたいと思えるような話ができるかどうか。でも「シビックプライド」は小さい時から教育しないと生まれにくい。

篠田:最後に今後の抱負を教えてほしい。

西:地域活性化について、「なんとかしたい」とすでに動いている人はいる。問題はその方々だけでは足りないということ。想いを持って活動する人が増えない理由はいくつかある。アイデアがなくて行動できていないのかもしれないし、自分が取り組むべきだと思えていないかもしれない。こうした人達を「行動を起こせる人」に変えていくことを、僕らはやっていかなければいけないと思っている。彼らの想いに火を燈して促していくことはできると思うので、そこに携わっていきたい。

きっかけは小さなことかもしれない。「意外と自分にもできる」と思えば自信を持って動くかもしれないし、「自分の地元のことだ」と思ったら自分事化できるかもしれない。そこを後押しすることが使命だと思う。

インタビューを終えて

今回のインタビューで見えてきたことは、地域に「第三者」として関わる難しさや意義だった。確かに、実際に地域に住んでいなければ見えてこない魅力や気づけない課題があるのは事実だが、それゆえに「地域活性化には携われない」ではなく、「第三者」でありながら「自分事化」して携わっていく可能性を感じて頂けたら嬉しい。都市部に住んでいたとしても、地元や故郷がある人は多い。今は住んでいないからこそ、地域間を繋いだり、地域にいるドライバーとなる方の背中を押すこともできるのだ。

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