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日本企業のイノベーションは組織戦で勝負

投稿日:2019/07/17更新日:2019/08/07

第1話は、日本的大企業でイノベーションを興すのがなぜ難しいのか、お伝えしました。今回は、日本的大企業における新規事業の始め方とその特徴、イノベーション人財が持つ資質について事例とともに紹介します。

まずは、日本的大企業である電子機器メーカー・XYZに勤務する女性3人の会話から…。

「同質性」「合議制」「自前主義」が弱み?

C:イノベーションが起きにくい理由を人事という立場から私も考えてみたのですが、社内が似たような考えをするような人ばかりだから、というのはありませんか?採用時も、“和”が乱れないように、同質の人を採用する傾向にある気がします。

A:イノベーションには、新しいアイディアが必要なのに、異質な意見が出てきにくい、ってことね。

C:スピード感もないですよね?よく、“ハンコリレー”って言いますけど、何かを決めるとき、関係部門の全部の承諾を取ろうとしますよね。それに時間がかかり過ぎ~っていつも思います。

B:スピード感で言えば、自前主義もそうかな。自社にない技術や部品を、他社から購入しないで、なんでも自社で開発しようとする。だから、めちゃくちゃ時間がかかる(苦笑)

A:それはあるね~。

B:日本の大企業は、トップダウンじゃないからイノベーションはできない、っていうのもありますよね。

A:なんだか、課題だらけだね~。

イノベーションに有利な日本的大企業の特徴とは?

研究プロジェクトとその後の追加研究で、我々はミドルを対象に新規事業の経験や経緯、プロセスなどについてアンケート(※)とインタビューを実施してきました。そこから見えてきたのは以下です。

・トップダウンでない日本的大企業は、現場を熟知したミドルの意見が取り入れられやすく、“小さなお試し”は受け入れられやすい
・資金力や優秀な人材など、リソースが豊富であることも有利
・チームの和を重んじるため、組織戦が得意。ミドルが社内外の人々をつないでチームとなることで、一人の天才が興すのではない日本型のイノベーションが興せる

また、「同質性」「スピード感の不足」「トップダウンではなく合議制」など、日本的大企業の“悪しき特徴”と言われてきたものが、イノベーションや新規事業の開発においては“特長”にもなりうるということでした。

我々が、上記のような考えに至った背景となるアンケートでは、回答者の70%が日本的大企業に属しています。そのうち、新規事業にかかわった経験者は60.5%。さらにその新規事業は、「ある一定の成果があった」「成功した」と回答した人が58.7%。ミドルでも新規事業の経験者や成功体験者は意外と多いことが分かりました。

さらに「新規事業に成功した」と答えている人が挙げた成功要因は、以下の通りです。

「チームメンバーの資質」(68.2%)
「自分自身の資質」(59.1%)
「トップのコミットメント」(54.5%)

「イノベーションを興すのに必要だと思う資質は?」という問いに対する回答は、以下の通りです。

「巻き込み力・引き込み力」(73%)
「やり抜く力」(70.3%)
「当事者意識」(67.6%)
「行動力」(62.2%)

このアンケートからは、チームメンバーの資質や自分自身の資質が備わっていれば、ミドルであってもイノベーションは興せることが分かります。

さらに我々は、

・トップダウンではない合議制、ボトムアップだからこそ、ミドルの力が発揮できるのではないか?
・ジョブローテーションや転勤など、日本企業の制度上の特徴は、イノベーションに有利に働くのではないか?
・イノベーションを興せるミドルには、共通した資質、キャリアの共通項があるのではないか?

という仮説を持って個別インタビューを実施しました。

日本企業でイノベーションを興すミドルが持つ資質・要件とは?

インタビューはアンケート回答者を中心に、イノベーション、新規事業を進行中、あるいは「成功した」と回答した24人の方に協力していただきました。インタビューで多くの人が必要な資質として答えたのが、「社内の強いネットワークと社外の緩いネットワーク」「上司や他部署を巻き込む力」「課題抽出する地頭の良さ」「根回し力」「自分の仕事も、困難も楽しむ力」「圧倒的当事者意識・志」などでした。

例えば、「社内の強いネットワーク、社外の緩いネットワーク」については、具体的にはこのようなコメントがありました。

・異動や出向、海外勤務などによってできた社内外のネットワークが、新規事業でのチーム形成に活かせた
・社内のどこに誰がいるのか、どういう社内パワーを持っているのか、など10年以上勤めているからこそ分かることがある
・事業部内に同じ思いを持った人がいないと支えてもらえない。チームの結束力は必要だし、上下横をつなぐ中心となるミドルが必要だと思う
・社内7割、社外3割の共創実践の場を作っていて、お互いに新たな技術を学び合う場になっている。ここから複数の新規事業が生まれている
・個人のネットワークやSNSのつながりから広がった人脈が、意外なアイデアの源になっている

また、「課題抽出力」や「地頭の良さ」については、このようなコメントがありました。

・学業の優秀さだけではダメだと言われるが、全く必要ないかと言われると、そうではない。新規事業を進める際、何が本当の課題なのか、その本質を見抜くことが大事で、そのためには、論理的に考える力≒学業の優秀さは大事
・当社における新規事業の部署での人財要件として地頭の良さは必須。ただし、伸びしろがあってある意味完成度の低い人の方が結果を残している
・日本の大企業はオペレーション・エクセレントを目指しているので、大企業で優秀と言われる人は効率的な考え方のできる人。でも、それだと課題解決力はあっても、課題を見つけ出す力は低い
・顧客の抱える本質的な課題は何かを見抜く力は、イノベーションの創作フェーズでは非常に重要なスキル。イノベーションはここから始まると言っても過言ではない

イノベーション人財がもつ資質「NINJA」

前述のアンケートでの回答とも合わせ、我々はイノベーション人財がもつ資質の特徴を以下のように整理しました。

1) 「社内外の人脈・ネットワーク力」→Network
2) 「課題抽出力・本質を見抜く力」→Insight
3) 「根回し力・巻き込む力」→Nemawashi
4) 「自分の仕事も、困難も楽しむ力」→Joy
5) 「圧倒的当事者意識・志」→Ambition

そして、これらのキーワードの頭文字をとって、イノベーションを興すミドルに必要な資質を「NINJA」(忍者)と命名しました。

ところで、この人財要件・資質は、1人の人がすべて持つ必要があるのでしょうか。インタビューでは、以下のような回答がありました。

・海外の拠点とも仕事をしているけれど、日本人はチームワークが素晴らしいと思う。お互いに足りないところを補い合うことが得意だし、長期雇用という背景もあって気心が知れているから
・サッカーとか、ラグビーとかもそうだけれど、日本人は組織で戦うっていう意識が強い。自己主張が強すぎないし、組織戦が得意

つまり、1人の人がすべての要件・資質を持っていなくても、組織の中で補い合えば、十分戦えるということだと考えます。また、その組織の内外をつなぐ役割は、ミドルにとって重要な仕事と言えそうです。

では、ミドルがイノベーションをリードする際に、NINJAの資質はどう活かされるのでしょうか。第3回、第4回では、「NINJA」の詳細について、インタビュー事例とともに語ります。

※20代~40代のビジネスパーソンを中心に実施、有効回答数130

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日本企業ではなぜイノベーションを興すのが難しいのか?

  • 中曽根恵子/名古比加里/山田陽子/川田枝美子/石岡琢磨

    中曽根恵子:グロービス経営大学院2018年卒業。株式会社リコー・デジタルビジネス事業本部にて新規事業の創出・ソリューション拡販を担当 名古比加里:グロービス経営大学院2018年卒業。株式会社JTBパブリッシングに勤務。営業チームのマネージャーとして、観光コンテンツを活用した法人向けソリューション営業を推進中 山田陽子:グロービス経営大学院2018年卒業。大手総合電機メーカー・空調事業経営企画部門にて欧州事業を担当。グループリーダーとして戦略を立案・遂行する 川田枝美子:グロービス経営大学院2018年卒業。大手新聞社勤務。販売部門のエリアマネージャーとして新聞販売網の維持・強化に携わる 石岡琢磨:グロービス経営大学院2019年卒業。株式会社大塚商会・SI部門課長として販売部門の営業管理

監修

  • 垣岡 淳

    グロービス経営大学院 教員

    関西学院大学商学部卒。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了(修士:経営学)、大阪産業大学大学院経営・流通学研究科博士後期課程修了(博士:経営学) 学部卒業後、大手食品メーカー入社。大手流通小売企業を対象とした営業部門のラインとスタッフを経験。その後大学院を経て株式会社日本総合研究所入社。コンサルティング部門にて消費財/生産財のメーカー及び商社、情報サービス/通信、流通小売、サービス等、幅広い顧客を対象に経営戦略・マーケティングを中心とした調査・コンサルティング活動に従事。 現在は複数の企業の経営アドバイザリーとして活動する傍ら、グロービスにおいてマネジメント・スクールや企業研修での講師を務める。複数の大学における非常勤講師、大阪産業大学客員教授(産学連携担当)などを歴任。各種セミナーにおける講演、雑誌等への寄稿も多数。

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