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日本一悩みを聞いた精神科医が語る「悩みを減らす」方法――『言語化の魔力』樺沢紫苑氏インタビュー(前編)

投稿日:2023/04/13更新日:2023/08/25

グロービス経営大学院とflierが共催した「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」で『言語化の魔力』が自己啓発部門賞を受賞した。著者である樺沢紫苑氏は、精神科医として「情報発信でメンタル疾患を予防する!」を掲げ、チャンネル登録者約40万人のYouTubeの運営や、40冊超の書籍執筆(累計発行部数218万部)など、精力的な活動を続けている。
今回はそんな樺沢氏に、ビジネスパーソンにも知ってほしい、悩みを減らす方法の一つとしての「言語化」について聞いた。インタビュアーは、グロービス経営大学院で組織開発やリーダーシップといったヒト系講座で教鞭をとる教員の江上広行がつとめる。

みんな同じ悩みを抱えている

江上:『言語化の魔力』が、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」自己啓発部門賞を受賞されました。まず、受賞の感想をお聞かせください。

樺沢:賞をいただけるのは励みになります。ビジネス書グランプリにはこれまでも『アウトプット大全』などがノミネートはされていましたが、受賞は初めてなので非常に嬉しく思います。

江上:『言語化の魔力』が41冊目のご著書とのことですが、本書はどんな想いで構想されたのでしょうか。

樺沢:この3年間、コロナ禍の影響や国際情勢の悪化などにより非常に悩み多き時代になりました。『言語化の魔力』は、私が精神科医として掲げる“情報発信によるメンタル疾患の予防”というビジョンを踏まえ、“悩みを自分で減らそう”というコンセプトで書いた書籍です。

私はYouTubeを8年間運営し、そこで毎日30問ほど、計10万件以上の質問に答えてきました。そこで、「この10万件に1冊で答える本ができたらすごいよね」というところから、編集者の方と話し合いコンセプトをまとめていきました。

江上:となると、樺沢さんはおそらく日本で一番悩みをたくさん聞いていらっしゃるかたですね。

樺沢:悩みを集めることに関しては間違いありません。ただ10万件といっても重複した質問も多いため、パターンはいくつかに分類できました。

皆さんは「自己肯定感が低い」「話し方が下手」「自分って駄目な人間」など共通したことで悩んでいます。以前、この3つの悩みに関してTwitterでアンケートをとってみたところ、約80%の人が「私は自己肯定感が低い」と回答しました。ほかにも「話し方が下手」「人前に出ると緊張する」「コンプレックスを持っている」など、ネガティブな回答をした人が8割でした。
このことからわかったのは、ネガティブな悩みを持つ側がマジョリティだということです。人は自分が平均より劣っていると思うから悩みます。しかし、実は皆さん平均値であり悩まなくていいのです。

言語化とは、勇気をもって言葉にすること

江上:改めて本書で定義する「言語化」とはどのようなものかについて伺えますか。

樺沢:『アウトプット大全』で語った「アウトプット」は、思っていることを話したり、書いたり、行動したりと、言語化と比べてかなり広いものです。一方、「言語化」は心の中のもやもやを言葉にして表現することです。もともとは心理学用語で、子どもの頃のトラウマ体験を言葉にすることをさします。

私たち日本人は、「言語化」に弱い。私は「言語化する勇気」という言葉を使っていますが、言語化とは、上手、下手ではなく、勇気を持って言うことだと思います。自分が思っていることや辛いこと、困っていることを一言でも多く言葉にできれば、うまく回っていくのではないかと思います。

江上:企業研修の講師として登壇していると、「困っている、と言うのが恥ずかしい」という気持ちを持つ社員が多いと感じます。

樺沢:私はアメリカに留学していましたが、現地の人は少しでも困ったら「Help me」と言います。ですが日本人はよっぽどじゃないと助けを求めない。「自分で何とかする」のは美学ですが、限界を超えると、ストレスが溜まり過ぎてメンタルがやられる原因になるので、ガス抜きが必要ですね。

原因をすべて取り除くのではなく、少しずつゼロに近づける「解消」

江上:本書を読んで面白いと感じたのは、「解決ではなく解消」という言葉です。

樺沢:一般的に「解決」とは、原因を見つけ対処することによって問題を取り除き元に戻すことを言います。しかし、例えば激しい労働環境に悩んだとして、人員不足や資金不足といった会社の問題などを含めると原因はそう簡単に取り除けません。ですので、-10をいきなり0にする「解決」ではなく、-10を-9にする「解消」がいいと思います。

ビジネスにおいても、施策をひとつずつ行うと、-10が-9に、-9が-8になり、気づいたら-3ぐらいになって、何とかなっていくものですよね。
「どうしようもない」とお手上げの言葉を使うのではなく、1つずつできることをできる範囲でやっていくだけで何とかなる。患者さんも-10を-9にする解消だったらできそうだと言ってくれます。

江上:問題を一気になくそうとするのではなく、ましな状態にしていく、という発想なのですね。

樺沢:ましな状態になっていくと、精神的に余裕が出て、いいアイデアも浮かぶんですよ。-10の「どうしよう」となっている状態では、いいアイデアや正しい対処法、対策は出ません。-3ぐらいになれば、アイデアが浮かんできて、そしてゼロに近づいていくはずです。

言語化することは自己洞察力のアップに繋がる

江上:もうひとつ本書の中で印象に残ったのは、「へえ〜」や「それはそれとして」など、言語化をする際に、実際に入れるとよいフレーズが紹介されているところです。これは樺沢さんも使っているのでしょうか?

樺沢:私はふだん使っていますが、ただ患者さんには「使ってみて」と言ってはいません。心理的に自分の病気を受け止められていない人に例えば、「とりあえず<私は治る>って言って」と頼んでみても、「無理です」と言います。これはメンタルブロックといわれるものですが、なかなか最初は乗り越えられない人が多いですね。

江上:メンタルブロックを壊すための第一歩は、何でしょうか?

樺沢:メンタル疾患になりやすい人の特徴は、自己洞察力が低いことです。例えば、最近仕事が忙しくて疲れていることを自覚できる人は、今日はきちんと睡眠をとろう、飲み会に付き合わないで休もうとなります。しかし、自己洞察力が低い人は疲れに気づけず、「睡眠時間を減らしてもっと仕事を頑張らないと」「お酒を飲んで気をまぎらわそう」といった方に行く傾向があります。まだまだ昭和的な、根性で乗り切る精神が残っている会社が多いのも原因の1つかもしれません。

自己洞察力をつけるためには、普段から書くことが大切です。自己コントロールが苦手な人も、言語化すると自分はどんなことを思っているのか自己洞察でき、それがメンタルブロックをなくしていきます。

例えば私は、映画を見たら必ず感想を書いています。なぜそのシーンの描写がよかったのか、あるいはキャラクターの生き方が好きだったのか、そして、なぜ好きだと思ったのかを言語化していくのです。その作業は自己洞察に必ず繋がります。

江上:書く習慣をつけやすくする方法に、おすすめはありますか。

樺沢:SNSがいいと思います。Twitterであれば140字以内ですから、書くのに5分もかかりません。
ただし、私は面白くなかったことをわざわざSNSで発信しません。この本は役立ちますといったポジティブなおすすめをするようにしています。「自分はできる」などのポジティブなことを言った人の方が成功する確率が高いという研究もあるので、ポジティブな言語化を習慣づけるという意味でも、積極的にやってみてほしいですね。

「頑張る」は3カ月間しか持続しない 疲れず続ける「コツ」

江上:私が本書で最も感銘を受けたのは、最後の章にある「あきらめる」という言葉です。なかなかあきらめきれずに頑張っている人に、「荷を降ろしていい」といったメッセージがこもっていたように思いました。

樺沢:本当に追い詰められた時にあきらめないから病気になるんです。逆に言うと、あきらめたり手放したりすることができれば、少なくともメンタル疾患までには至らないはずです。

江上:ご自身の活動では、例えばYouTubeの投稿を8年間毎日続けられていますよね。この「頑張り」継続のポイントはどこにあるんでしょうか。

樺沢:これに関しては、「頑張る」というよりも「信じて淡々とやる」ということでしょうか。今でこそYouTubeチャンネルの登録者は40万人いますが、最初の3年ぐらいは登録者が1万人を超えるのも大変でしたし、視聴回数を伸ばすのも大変でした。その時、未来の視座で「1000本アップロードしているYouTuberでまったく鳴かず飛ばずの人はそんなにいないはず。自分も1000本ぐらいアップすれば、みんな見るようになるのでは」と、将来の自分を信じました。それで、8年間毎日投稿しています。

江上:淡々とやってらっしゃるんですね。

樺沢「頑張る」はせいぜい3カ月間しか続かないと思ってください。会社のプロジェクトや期間限定の目標は通じますが、1年、2年と頑張り続けてしまうと燃え尽きたり、鬱になったりします。
本書では、緩急をつけること、できる範囲でやっていくと書きました。私がよく患者さんに言う言葉ですが、できる範囲でやっている限り病気にはなりません。ただし、できる範囲というのは、100の力があったとしたら、怠けた70~80の力では結果は出ないので、そのギリギリを攻めるのが重要です。自分のパフォーマンスのギリギリを攻めていくのが、疲れずに長く続けるコツだと思います。

後編に続く

言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える
著者:樺沢 紫苑  発売日:2022/11/9
価格:1,760円(税込) 発行元:幻冬舎

  • 樺沢 紫苑

    精神科医、作家

    1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。札幌医大神経精神医学講座に入局。 2004年から米国シカゴのイリノイ大学精神科に3年間留学。 帰国後、東京にて樺沢心理学研究所を設立。 「情報発信によるメンタル疾患の予防」をビジョンとし、 YouTube「精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル」(登録者40万人超)、メールマガジンなど累計60万フォロワーに情報発信をしている。 『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版)の大全シリーズは、80万部を突破。 著書40冊・累計210万部、SNS総フォロワー数80万人超。
  • 江上 広行

    株式会社URUU 代表取締役/グロービス経営大学院 教員/JPBV「価値を大切にする金融実践者の会」代表理事

    金沢大学経済学部卒業 学位:学士(経済学)

    株式会社URUU 代表取締役、グロービス経営大学院 教員、フィールド・フロー株式会社 取締役、JPBV「価値を大切にする金融実践者の会」代表会員、おかげさまお互いさま合同会社 執行社員

    1967年石川県金沢市生まれ。1989年金沢大学経済学部卒業。地方銀行に入行、営業経験を経た後、融資部門にて信用調査、研修講師、業務設計、CRMシステムの開発等に従事。2007年より株式会社電通国際情報サービス。主に地域金融機関向けのビジネスモデル変革支援、人材育成、組織開発、情報システム構築などのコンサルティングを行う。

    2015年より、グロービス経営大学院の講師として組織開発やリーダーシップなどのクラスで教鞭をとる。2018年9月株式会社URUUを設立 代表取締役就任。利益よりも価値を大切にする金融の普及、創発を生む組織対話のファシリテーション、その人らしさを解放するリーダーシップ教育、ワークショップ「エミー・ゼニーゲーム」などの事業を営んでいる。

    2018年12月、日本における持続可能な金融ビジネスモデルを実現することを目的に新田信行氏(第一勧業信用組合理事長)、渋谷健氏(フィールドフロー代表取締役)らとともに、JPBV「価値を大切にする金融実践者の会」を設立、代表会員に就任。

    経済産業省 知的資産経営評価融資研究会委員(2009年)、経済産業省 ITクラウドを活用した経営支援基盤調査研究会委員(2013年)、経済産業省「地域レベルの産学連携機能強化に係る方法論に関する調査」検討委員(2017年)。中小企業診断士/ITCA認定ITコーディネータ、趣味はサッカー観戦。

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