前編では、メンバーの能力や意欲を高めるための上司による支援において、ポイントとなる点を解説してきました。 しかし、これらを踏まえて実際にメンバー育成に取り組んでみても、様々な「矛盾」によって達成が阻まれることが大いにあります。具体的にはどのような「矛盾」があり、それはどのように乗り越えればよいのでしょうか。
忙しさを解消する行動が、忙しくてできない
中間管理職であるマネージャーからはよく「業務が多く、メンバー支援のための時間が取れない」という声を聞きます。
しかし、それを言い訳に時間を取らずにいると、いつまで経ってもメンバーのパフォーマンスは上がらず、自分だけが難易度の高い業務に関わらなくてはならない状態が続き、忙しさが継続することになります。上司の忙しさを解消させるためにはメンバー育成が必要であり、それには上司の支援が必要だが、忙しいから支援できない結果、人が育たず忙しさが継続するという矛盾があるのです。
矛盾の解消法
ではこの矛盾をどう解消するか?ヒントは「選択をする」ことです。
全てのメンバー/機会で支援行動をとるのは現実的ではありません。よって、次のリーダー候補など育成効果の高い人材に絞り、かつその人材があと一歩成長してほしい分野の仕事を選択し、成功体験を重ねる支援をしていくことが大切であると考えます。そして育ったメンバーが、自分にしてもらった経験を活かし、更なる後輩を育成していくようになれば、育成の好循環が生まれていくのです。
機会の少ない今だからこそ、まさにリーダーの意図した育成行動が必要となっているのです。
強い組織のためのモチベーションケアが、弱い組織をつくる
ここまで、意欲を高めるには上司による支援が重要であることを解説してきました。しかし、支援をしすぎると依存的かつ他律的な人材が多くなる傾向があるのも事実です。すなわち、強い組織をつくろうとモチベーションケアをしすぎると、結果弱い組織になってしまうという矛盾が生じるのです。
私自身、最初に就いた「キャリアカウンセラー」という仕事で「傾聴」を徹底して行う訓練を受けたこともあり、その後のマネジメントで、率いる組織を一時期に依存的・他律的にしてしまった経験がありました。
矛盾の解消法
ではこの矛盾をどのように乗り越えると良いか。ヒントは「行動規範」です。
我々が働く組織は事業体として、永続的に成果、収益を上げることが目的となります。そのために、企業人として働くうえで守るべき行動規範はつきものです。モチベーションのケアを行いつつも、そもそもの行動規範を守ることを組織内に根付かせ、皆で確認し合うことができていれば、自律性ある組織の基盤は揺らぎません。これが依存的・他律的な状態に陥らないためのポイントになります。
能力を高めようとすれば意欲が下がり、意欲を高めようとすれば能力が下がる
本人の能力を超えた業務や自律的な思考・行動は、能力を高めるためとはいえ、メンバーに負荷をかけるため意欲を落とすリスクがあります。特に成果が出なかったときなどは顕著です。しかし同時に、前述の通り意欲の向上に手をかけすぎると、弱い人材になりかねません。
すなわち、能力向上への支援は意欲を下げる可能性があり、意欲向上への支援は能力を下げる可能性があるという矛盾があるのです。
矛盾の解消法
ではこの大きな矛盾をどう乗り越えればよいのでしょうか。ヒントは「順序」です。
まず前提として、今の日本の(特に大企業の)組織では、一般的に若手・シニアともに意欲やモチベーションが高い状態にあるとは言えません。その状態で能力強化のためとはいえ、急に難易度の高い業務を付与し支援をし始めてもうまく回らないでしょう。
よって、まずは意欲・モチベーションを高めるための働きかけを行うことが先決です。そして業務への意欲が高まった結果、難易度の高い業務を付与し支援をするという順番が大切になります。
一方、時間が経過すると意欲が下がるため、再びそれを高めるための支援も必要です。大切なことは、状態を見ながら順序を立てて、意欲、能力と往復しながら支援していくことになります。この繰り返しこそがリーダー行動として求められるのです。
ともすると、リーダーは自分の癖や経験から「意欲を高める」か「能力を高める」かどちらかに行動が偏ることになります。これまで様々なリーダーを見てきた経験から、どちらかに偏ったリーダーは数年でマネジメントポジションから離れる傾向があり、両立しているリーダーは成長する組織を創れている傾向があります。
よって、まずはご自身がどちらに偏りがちなのかを把握すると同時に、状況/相手を見て適切な働きかけができるように行動を往復・修正する習慣を身に着けていきたいものです。
今回は、メンバーの能力と意欲の高め方とそこに孕む矛盾の乗り越え方を見てきました。皆さんのリーダー行動を見直すヒントになりましたでしょうか? 次回、第3回は組織信頼の高め方について、引き続き一緒に考えていきましょう。
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