東京ディズニーランドの強気な値上げの2つの理由―カスタマーバリューとダイナミック・プライシング

東京ディズニーリゾート(TDR)が、2021年10月1日からチケット価格を改定し、7900円~9400円の4段階の変動制を導入しました。従来の平日8200円/休日8700円の2段階の変動制に比べると、実質的な値上げとなります。実はTDRは2021年3月にも値上げを行っており、今年2回目となります。なぜ、TDRはこんなに強気なのでしょうか?価格設定の2つの側面から考えてみたいと思います。

値上げでも来場者UPの自信―カスタマーバリューの向上

まず1つ目は、継続的な価格上昇の裏にあるカスタマーバリュー(顧客価値)の向上です。1983年の東京ディズニーランド開園時、大人用1デーパスポートは3900円でした。今回の最大価格は9400円ですので、37年間で2.4倍になったことになります。1983年の消費者物価指数は2020年度基準で81.8と2割ほどしか物価が上がっていない(※1)ことからみても、かなりの値上げであることがわかります。また、上昇幅を年単位で追ってみると、1983年から2014年(当時6400円)までの31年間で2500円増、2015年から現在までの6年間で3000円増とここ数年で急激にペースを上げていることが分かります。

出典:政府統計の窓口「2020年基準消費者物価指数」、オリエンタルランド「Factbook2021」を元に筆者作成

この値上げ要因の一つには、TDRの価格が世界的に割安であることが考えられます。同じディズニーランドでも米フロリダ$109(約11990円)、米カリフォルニア$104(約11440円)、仏パリ€94(約12220円)、中国上海599元(約10183円)といずれも1万円以上し、日本は最安値となっています。ユニバーサル・スタジオなど他の海外テーマパークでも$100ドル以上するところが沢山あります(※2)。(2021年10月現在。$1=110円、€1=130円、1元=17円で計算)

加えてより強調したい要因は、TDRがカスタマーバリュー(顧客価値)をきちんと提供できていること、すなわち強くファンに支持されていることです。一般的には嗜好品であるテーマパークチケットは価格弾力性(価格の変動によって、ある製品の需要や供給が変化する度合いを示す数値)が高く、値上げの影響(購買数の低下)は大きいと考えるのが普通です。

しかし、TDRの2018年度の入園者数は3256万人を記録し、開園時(993万人)の3倍以上となっています(※3)。これは価格の上昇率を上回り、TDRがいかに顧客に支持されているかを物語っています。2019年(2900万人)、2020年(756万人)こそ人数を減らしていますが、これはコロナの影響で入場を制限したためであり、チケット価格上昇のせいではないことは明白です。

価格を上げ続け、それでも来場者数が増えているということは、TDRが価格に見合うカスタマーバリューを提供し続けてきたことの何よりの証左です。新アトラクションの導入や季節ごとのイベント、紙吹雪ですら持って帰りたくなるほど来場者の心を掴む数々の演出など、何度でも行きたくなる場所であり続ける努力あってこその実績ですが、この実績が翻ってTDRの自信になっていることは間違いないでしょう。

需要を最大限吸収ダイナミック・プライシングの細分化

そしてもう一つの側面として着目したいのが、ダイナミック・プライシング(変動価格制)の細分化です。変動制そのものは、TDRは今年3月に平日8200円、休日8700円の2段階制で導入していますが、今回は7900円、8400円、8900円、9400円の4段階とそのメッシュを細かくしています。

ダイナミック・プライシング(変動価格制)とは

ダイナミック・プライシングとは、時期や曜日、時間帯などの需要変動に応じて価格が動的に変わることです。従来から飛行機や宿泊施設など定員が決まっているサービスで利用されてきました。最近ではスポーツ観戦や音楽ライブのチケット、高速バスの運賃などでも見られるようになり、今後、鉄道やタクシーについても導入が検討されています。

  • サービス提供者のメリット

ダイナミック・プライシングを導入することで、価格設定者(商品やサービスの提供者)は需要をコントロールし収益増を図ることができます。具体的には、需要が高いタイミングで価格を上げ、高くても買いたい層を最大限取り込む一方で、需要が低いタイミングでは価格を下げ、この価格なら買おうという購買意欲を刺激して、売り逃しを最小限にすることを目的とします。これにより価格が高い時から安い時に振り向けられ、需要が平準化するという効果もあります。

  • 消費者にとってのメリット

また、消費者にとってもタイミングさえ選べば、お得に商品やサービスを享受できるというメリットが生まれます。もちろん人気が集中する時にはこれまでより価格は上がってしまうのですが、一定価格以上払わないと手に入らなかったサービスを混雑が少ない時にお得に楽しめる選択肢ができると思えば悪い側面ばかりではありません。

AIが容易にしたタイムリーな価格設定

このようにメリットの多いダイナミック・プライシングですが、これまでは適切なタイミングで適切な価格を設定することは簡単ではありませんでした。ここにきて急に導入の動きが広まっている背景にはITやAIの活用が進み、需要予測やタイムリーな価格設定が格段に容易になったことがあげられます。テクノロジーの進化が顧客データや販売データに加え、天候や出演者の人気といったこれまで活用することのできなかった様々な条件データを素早く反映させることを可能にしているのです。

TDRは今回、平日/土日の一律の2段階制から一歩進めて、より細かく調整できる4段階制としました。実際に、通常繁忙日の土日は9400円ですが、1月の土曜日は8900円(日曜日は8400円)に設定されているなど、きめ細かく配慮されていることが分かります。メッシュが細かくなればなるほど、収益を最大に近づけることが可能になるため、TDRでもデータ活用を進め、新たな価格設定に取り組んでいることが伺えます。

来場者の満足度を維持しながら最大限の収益を得るために、TDRにおいて価格は非常に重要な戦略要素です。コロナで経営が厳しい現在においてはなおさら慎重かつ大胆に取り組む必要があり、TDRの試行錯誤は想像に難くありません。顧客の支持やIT活用に支えられ、今後もさらなる進化が見られることは間違いなく、当面はTDRのチケット価格から目が離せません。

(※1)消費者物価指数 2020年基準消費者物価指数 政府統計の窓口
Factbook2021 チケット料金の推移 株式会社オリエンタルランド

(※2)Disney Parks & Resorts ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社

(※3)入園者数データ 株式会社オリエンタルランド

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