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ディズニーリゾートが始めるプレミアアクセス 2000円の価格は妥当?

投稿日:2022/06/27

5月19日、ディズニー・プレミアアクセスが東京ディズニーランドとディズニーシーで導入された。これは入園後にアプリから入場チケットとは別に追加料金2,000円を払うことで、(公式サイトの表現を借りると)”利用したい時間を指定することができ、より短い待ち時間でご利用いただけます” というチケットだ。同様の優先サービスはすでに海外のディズニーリゾートでも導入されている。また、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)ではすでにユニバーサル・エクスプレス・パスという名称で優先入場パスが販売されており、混雑時には高く、閑散期には安くと入園日によって異なる価格設定がされている。

プレミアアクセス導入の背景

そもそものプレミアアクセス導入の意図は何だろう。東京ディズニーリゾートの運営会社であるオリエンタルランドの視点で考えてみよう。オリエンタルランドHPの社長のメッセージには以下の記載がある。

2020年度は、新型コロナウイルス感染症流行により、ゲストとキャストの安全安心を最優先とし、ガイドラインに沿ってリゾートを運営いたしました。

⇒(鈴木解釈)客数は伸ばせない

東京ディズニーリゾート・アプリで商品を購入できるサービスの拡張や、チケットの変動価格制の導入など、ゲストの体験価値と売上に寄与する施策を導入しました。

⇒(鈴木解釈)体験価値をあげるとともに客単価の向上で売上確保を狙う

 (出典:株式会社オリエンタルランドホームページ トップメッセージより鈴木作成)

モデル化すると、売上=客数×客単価となる。客数が伸ばせないなか、プレミアアクセスの導入は待ち時間の短縮という体験価値の向上と同時に、客単価の向上を目指す施策と考えられる。

実際、東京ディズニーリゾートにおける客単価のデータを見ると、以下のようになっている。コロナにより入場者数が激減した2020年、2021年の客単価は大きく伸びている。

(出典:株式会社オリエンタルランドホームページより鈴木作成、客数の単位は千人)

データから2021年度の顧客単価は14,834円であることがわかる。コロナ前の2019年度の客単価が11,606円であることを考えると、その差は大きい。増えた3,228円の内訳を更にみてみよう。

(出典:株式会社オリエンタルランドホームページより鈴木作成)

2021年3月からの変動価格制導入によるチケットの実質値上げの寄与が大きいのだが、同時に商品販売や飲食販売も伸ばしていることがわかる。

ただ、コロナの影響による閉園の影響で顧客数は大きく落ち込んでおり、結果、オリエンタルランドの2021年3月期決算は営業赤字となった。(2022年3月期は黒字回復)

3つのアプローチで価格の妥当性を考える

このような状況下でアトラクションあたり2,000円/人で導入された東京ディズニーリゾートのプレミアアクセス。執筆時点では美女と野獣”魔法のものがたり”、トイ・ストーリー・マニア!、ソアリン:ファンタスティック・フライトの計3アトラクション施設のみでの導入だ。

2000円という価格設定には賛否両論があろう。それではいくらが適切な価格なのだろうか。データをもとに2,000円という価格の妥当性を見てみよう。価格設定には大きく3つのアプローチがある。

  • コストベース(一定の利益をコストに加えて設定)
  • 競合ベース(競合サービスの価格との対比で設定)
  • 顧客価値ベース(顧客の感じる価値をもとに設定)

コストベースで考える

議論をシンプルにするため、サービス導入に必要なアプリの改修費用などの固定費増は巨額とは考えにくいのでいったん無視しよう。追加的に一人のゲストにプレミアアクセスを提供するコスト、限界費用は対応に必要な人員増などもあり決してゼロではないが、ほぼゼロに近いだろう。したがって、コストベース的には極論すると価格はいくらでも構わないといえる。

競合ベースで考える

USJのエクスプレス・パスは施設あたり、概ね1,500円〜3,700円、の範囲だ。ディズニーリゾートではハイシーズンも同じ2,000円であることを考えるとむしろ安いと言えるのかもしれない。

顧客価値ベースで考える

顧客にとっては時間短縮というメリットなので、機会費用として短縮できる時間コストを考えてみることにする。すなわち節約した時間にもし仕事をしていたらいくら稼げたのか、ということでアルバイトと正社員の時給を軸に試算してみよう。

東京都のアルバイトの平均時給はタウンワークによれば1,203円、また、正社員は厚労省データから約2,000円(平成29年度)ということがわかる。

平日45分、土休日で80分という待ち時間の短縮効果を金額換算すると、平日で900円〜1,500円、土休日で1,600円〜2,666円、といったところか。平日で見ると2000円は高めだが、休日にはほぼ妥当な範囲に入っている。

ただ、待ち時間が短縮されたからといってその時間に働くわけではない、という反論もあろう。

そこで実際に、待ち時間の短縮にお金換算でどのくらいの価値を感じるのか聞いてみた。

”グロービス約50人に聞いてみました”(※ 文末参照)の結果は以下の通りである。

(出典:グロービスでのアンケートから鈴木作成)

例えば、価格を2,000円に設定したとすると、大学生(平日)なら20%、家族連れ(休日)なら40%がサービスを購入したいと考えていることになる。

さらに同じ家族連れでも、例えば猛暑なら購入意向はさらに60%近くまで跳ね上がることが予想される。

需要曲線からは以下のことがわかる。

  • 感じる顧客価値は人によってバラバラ
  • 同じ人であっても環境や文脈が変わることでWTP(支払意思額)が変化する

グラフからわかるように、消費者が支払ってもいいと考える価格(WTP:支払意思額)と実際の価格には差(消費者余剰:消費者にとってのお得感、企業にとっては取りのがした利益)が生じる。もし、価格を休日や平日といった状況によって、さらには個人が払ってもいいと考えている価格で個別化できれば、企業側は消費者余剰を小さくし、さらに利益を拡大することができる。いわゆるダイナミックプライシングだ。実際、ホテルの価格や航空運賃など、設備のキャパに依存するビジネスでは、日やシーズンによって設備稼働率を上げて利益を最大化する価格変動制(ダイナミックプライシング)がもはや当たり前になっている。東京ディズニーリゾートの入園チケットでも日程によって4段階(7,900/8,400/8,900/9,400円)の変動価格がすでに導入されている。

プレミアアクセスがもたらすデータが、今後の価格を変えていく

なぜ今回東京ディズニーリゾートは、プレミアアクセスというさらなる価格変動制を導入したのだろうか。価格変動制の中でも、ここでは同じタイミングならみんな同じ価格のものをダイナミックプライシング、さらに、同じタイミングでも相手によって値段が変わるものを更にパーソナルプライシングと呼び分けておこう。

パークチケットの変動制では少なくとも同じ日、同じタイミングに入園するゲストでは一物一価でダイナミックプライシングだ。しかしながらこのプレミアアクセスの導入はさらに同条件で入園したゲストにも実質的に価格を個別化しているという点で、一物多価であり、パーク入園料のパーソナルプライシングに近いと言える。

一般に、パーソナルプライシングで供給側の利益は増大する一方、不公平感といった形で価格そのものやサービスプロバイダーに対する不信感を持たれてしまうリスクがある。

USJでの有料エクスプレス・パスは2000年代から導入されており、長い歴史がある。少しうがった見方かもしれないが、USJでの成功にはそもそも価格は顧客ごとに違ってもいい、という大阪の値切り文化、パーソナルプライシング文化も影響しているように思う。対して東京は価格交渉しない定価文化だ。

東京ディズニーリゾートのプレミアアクセス導入はアトラクションが限られていて、テスト的に見える。天候や属性などに応じて変化する、価格に対する消費者の反応や、実質的なパーソナルプライシングに対するゲストの反応を探りたい、データを積み重ねたいという東京ディズニーリゾートサイドの思惑もあるのではないだろうか。

データが集まれば、プレミアアクセス自体の価格設定をさらにシーズンや混雑状況によってダイナミックに変えたり、供給数を最適化したりすることが可能になるだろう。今後の展開を見守りたい。

 

 ※”グロービス約50人に聞いてみました”
グロービス経営大学院の学生、スタッフ54名へのアンケート結果。以下の3パターンで、いくらまで払ってもいいかを問うたもの。平日、休日での待ち時間はネット上でのデータを参考にした。サンプルは当然偏っているので、結果はあくまで参考程度に見てほしい。

  1. あなたは大学生です。友達と授業のない月曜日にTDLへ行きました。ところが美女と野獣“魔法のものがたり”は45分待ちです。優先チケットを別途購入するとなんと待ち時間1分で優先的に入場できることがわかりました。あなたは優先チケットに最大(一人あたり)いくらまでなら払ってもいいと考えますか。
  2. あなたは社会人です。日曜日に家族3人(パートナーとお子さん)でTDLへ行きました。ところが美女と野獣“魔法のものがたり”は80分待ちです。優先チケットを別途購入すると待ち時間は1分で優先的に入場できることがわかりました。あなたは優先チケットに最大(一人あたり)いくらまでなら払ってもいいと考えますか。
  3. あなたは社会人です。休日に家族3人で(パートナーとお子さん)でTDLへ行きました。今日は朝から暑く、最高気温は35度の予報です。ところが美女と野獣“魔法のものがたり”は80分待ちです。優先チケットを別途購入すると待ち時間は1分で優先的に入場できることがわかりました。あなたは優先チケットに最大(一人あたり)いくらまでなら払ってもいいと考えますか。

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