価格改革で企業課題を解決する—ダイナミックプライシング導入の7つのステップ

ダイナミックプライシングとは、売り手主導で、主に時間軸での需要変動に対応して価格を変動させるプライシングのことです。ダイナミックプライシングと聞くと、テーマパークやスポーツ観戦チケットなどのエンターテイメント業界を一番に思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

しかし、それだけではありません。最近では、国土交通省が主導してタクシー料金へのダイナミックプライシング導入実証実験が行われたり、スーパーマーケットで食品ロス削減を目的として賞味・消費期限ごとに値段を変える取り組みも始まっていたりと、私たちの生活に身近なところでの導入が進んでいます。

本稿では、ダイナミックプライシングとは何か?また具体的にどういったステップで導入を進めていけばよいのか?PriceTech企業の代表としてプライシング戦略の立案や変革支援を行う筆者が、各社の事例や導入実績を踏まえて解説します。

ダイナミックプライシングとは?

ダイナミックプライシングとは、売り手主導で、主に時間軸での需要変動に対応して価格を変動させるプライシングのことを指します先述したようなエンターテイメント業界や、飛行機・ホテルなどの業界ではすでに活用されている価格設定の手法です。
これまでのプライシングは、固定的で一律的な価格を担当者の経験と勘で決められることが多く、意思決定プロセスが多い日本企業においては「変更するのが難しいもの」という印象があるかもしれません。しかし、「価格(Price)」はマーケティングの4Pの中でも収益そのものを担うもの。この要素を見直すことは、企業の商品・サービスの需要に対して最適な価格はどのようなものか考え直すことにつながります。変動する需要を捉えてより柔軟に価格に反映することで、増収だけでなくさまざまなロスの削減につなげることができるのです。
では、ダイナミックプライシングを企業として導入する際にどのように進めればよいのでしょうか。7つのステップで解説します。

ダイナミックプライシング導入へのステップ

  • ステップ1:目的の明確化
  • ステップ2:リサーチ・機会損失ポイントの特定
  • ステップ3:解決策の仮説構築と取り組みインパクトの試算
  • ステップ4:テスト(実証実験)
  • ステップ5:プライシングロジックの策定
  • ステップ6:システム実装
  • ステップ7:ダイナミックプライシングのローンチ

ステップ1:目的の明確化

企業がプライシングに対して感じている課題はどんなものでしょうか?課題と言っても収益向上やロス・無駄の削減、競合との差別化など様々なはず。目的に応じて参照すべきデータや、組み立てる価格戦術が変わることもあります。まずは課題を整理し、目的を明確にし、それを社内の共通認識とするところから始めます。

ダイナミックプライシングは決して万能なソリューションではありません。市場環境や事業特性、目的によってはダイナミックプライシング以外のプライシング手法が適している場合もあります。なぜ、何のためにダイナミックプライシングなのか、という点に十分に答えられることが重要です。

ステップ2:リサーチ・機会損失ポイントの特定

現状の販売状況やオペレーションを調査し機会損失のポイントを洗い出します。
これまで行われてきたプライシングにも何らかの戦略やルールはあり、そのノウハウは暗黙知として社内に蓄積されています。それらをもとに、価格を変えるべき要素やタイミングなどを整理します。その価格を誰が、どのような手順で変えているのかも大切なポイントです。定性的なヒアリングと、販売データからも読み取ることができる情報が多くあります。

次にリサーチすべきは顧客の価格に対する反応です。もしダイナミックプライシングを導入したいのがテーマパークのような箱モノビジネスの入場料などであれば、消費者調査を行い顧客に直接聞くのが有効です。その際によく用いられるのが、PSM分析です。

 図1 PSM分析の例(ハルモニア株式会社作成)

PSM分析とは、「高すぎると思う価格」「安すぎると思う価格」「妥当価格」「理想価格」の4つを聞くことで、消費者に受け入れられやすい価格帯を見つけることができる分析の手法です。

一方、例えば小売業界は、商品数が多く、かつ相場に合わせて価格が変動し価格変更の頻度が高いため、消費者調査が難しいケースがほとんどです。その場合は、実際に価格を変えてみて消費者の反応を確認するのも有効な手段です。

社内知見や消費者の反応などの情報が揃ったら、それを元にプライシングによって発生している機会損失ポイントやパターンを特定します。

ステップ3:解決策の仮説構築と取り組みインパクトの試算

ここでは、ステップ2で特定した機会損失を抑制し効果的なプライシングを行うための策を立てていきましょう。自社ビジネスの特徴から、どのようなシステムやオペレーションを取るべきか考え、仮説を構築し、新しいプライシングによるインパクトはどの程度の規模となるか試算します。

対象がサービス提供数に上限のあるエンターテイメント施設や交通・旅行などの稼働率の高低が売上に直結するビジネスであれば、平均単価×稼働率で試算します。また、小売であれば来店客数×一人当たりの売上単価(あるいは粗利)で試算するのが良いでしょう。これにより課題解決に適した策がどれか、仮説を導き出すことができます。

ステップ4:テスト(実証実験)

ステップ3で構築した仮説に基づき、実際に一部の店頭やオンラインなどで価格を変更してみてその効果を測定します。仮説と実際の結果とのギャップが見つかるかもしれません。そのギャップが発生したら、原因を特定し再度オペレーションやシステムの構成を調整して仮説の精度をあげていきましょう。

ステップ5:プライシングロジックの策定

プライシングロジックとは「何を、どんな時に、いくらで売るか」のロジックのことです。実証実験までの過程で整理されたそのロジックを仕組み化することで、より効率的なダイナミックプライシングを実現することができます。

 図2 ダイナミックプライシング実現のためのフロー(ハルモニア株式会社作成)

はじめは入門的なルールベースのダイナミックプライシングから始めて、徐々に高度化させていくと良いでしょう。ルールベースでは、価格を変動させるために「どんな条件の時に、どのように、価格を変えるのか」を設定し、それに基づき変更します。

エンターテイメント施設や交通・旅行などの稼働率ビジネスであれば、いかに稼働率をあげるかにポイントをおいてルールを設定・調整するのが効果的です。小売の場合は、天候などで変わる売れ行き状況に加え、常に流動的な在庫数、相場に応じて変動する原価に合わせた値付けルールを設定することが重要です。このルールも、最初はシンプルなものからはじめ、少しずつ条件を追加していくことで無理のない設定・継続的な運用ができます。

ステップ6:システム実装

プライシングロジックが固まったら、システム実装を進めていきます。この際、PriceTech企業は、多くのプロジェクトから得られた豊富な知見を生かしてのシステム設計・実装が可能です。しかし、目的に応じて既存システムとのデータ連携方法や、開発期間・コストを見積もり、内製での開発も視野に入れつつ、より自社にあった開発方針を取る方が効率的です。

ステップ7:ダイナミックプライシングのローンチ

ダイナミックプライシングの導入には、顧客への事前周知などのコミュニケーションが欠かせません。一般的にダイナミックプライシングを導入するというと、消費者に対して「値上げ」の印象を与えがちです。それを回避して正しく理解してもらうためにも、どのように伝えるのかをよく吟味しましょう。メディアでのお知らせだけでなく、開始前からウェブサイトや店頭でお知らせを掲示したり、なぜ新しい価格体系を始めるのか、顧客にとってどのようなメリットがあるのかを、顧客・メディアに丁寧に説明したりましょう。

加えて、社内での理解を得ることも重要です。顧客と直接対峙する社員を含めて一人ひとりにまで理解が行き渡るよう、顧客と同じく丁寧なコミュニケーションを徹底する必要があります。

運用開始後もプライシングロジックのブラッシュアップは続きます。その際には、常に「顧客にとっての価値」を中心において考えることで必然的に改善ポイントが見えてくるはずです。定期的に顧客視点でのプライシングを実施するための社内研修を行ったり継続的な検証を行ったりし、参照データの追加や適用範囲拡大などの改善を続けていきましょう。それこそが、ダイナミックプライシングの導入とその定着を成功させる鍵となる要素なのです。

さいごに

ダイナミックプライシングは、これまでの固定的で一律の価格設定とは違い、需要と供給のバランスを柔軟に取って価格を変動させる値付け方法です。その価格の変動を決めるルールは、個社を取り巻く環境に大きく左右されるため、それぞれにあったプライシングロジックを組み立てる必要があります。そのためにも、常に販売データや顧客の反応、知見などを元にした仮説を立てて検証を繰り返していく「仮説思考」を持ち、実験を繰り返すことで精度を高めていきましょう。

<参考資料>

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