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リーダーによる「率先垂範」がもたらす効用とは——仏教僧団から組織運営の秘訣を学ぶ

投稿日:2024/06/20

古くから続く組織には成功の秘訣がある。そして、その秘訣は現代の組織にも通じるのである。仏陀、あるいは釈迦と呼ばれる人物が2500年前に創設した組織である仏教僧団にも、優れた組織運営の秘訣があるはずだ。しかし、その秘訣はカトリック教会のそれと比べると、一般的にはあまり知られていない。

 本連載では、現代に通じる仏教僧団の優れた組織運営を紹介する。今回は「リーダーの行動」に焦点を当て、これがどう組織を強固にするかを見ていこう。

仏教僧団に学ぶリーダーの率先垂範

パーパスを実現するための組織を作り、ルールや方針を定めた。それらを浸透させる仕組みも作った。次にリーダーがすることは何だろうか?
「医者の不養生」「論語読みの論語知らず」「坊主の不信心」。これらは、発言が立派でも行動が伴っていないことを指す言葉である。行動が伴わないリーダーの言葉をメンバーは実践しない。組織における最大のインフルエンサーであるリーダーがあるべき姿を示すことで、メンバーも感化され、良い組織文化も醸成されていく。リーダーがすべきことは率先垂範=自らが手本を示すことである。

では、仏教僧団においては、「リーダーが率先垂範する」ことをどのように実現しているのだろうか。
実は、すべての人は平等であるというのが仏教僧団に通底する考え方である。ゆえに人を地位や権威、実績で判断しない。第1回で取り上げた、仏教僧団に加わった年次の早い者を優先する、というのもその表れである。平等だからこそ、優先順位を明確にするルールを作ったのである。

組織が大事にする価値観を体現するリーダー

とある街を訪れた釈迦はアンバパーリーという遊女から申し出を受けた。その申し出を承諾し、翌日彼女が所有するマンゴー園に赴き、食事を受けることにした。
同じころ、釈迦がその街に滞在していることを知ったリッチャヴィ族という貴族も釈迦に食事を提供したいと釈迦のもとに向かった。しかし、釈迦はアンバパーリーとの先約があるので、とリッチャヴィ族からの申し出を断っている。

出家修行者に施しをすることは、善行を積み幸福につながることだと考えられていたので、在家信者は熱心に施しをしていた。だがインドは身分制度が厳しく、世俗においては身分の高い者が圧倒的に優先されるのが常で、施しを受けるにしても同様だ。
しかし、釈迦は在家信者であるアンバパーリー(遊女)とリッチャヴィ族(貴族)を平等に扱い、先約の方を重視して食事の提供を受ける者を決めたのである。

別の例を挙げてみよう。修行を終え、仏陀(悟った人)になった釈迦が故郷に戻ったとき、釈迦の教えに感銘を受け、仏教僧団への出家を希望する者がいた。釈迦と同様に王族の者もいれば、釈迦の一族に仕える者もいた。仏教僧団への出家を認める際、釈迦は親族より先に優波離(ウパーリ)の出家を認めた。優波離は釈迦の一族に仕える者で理髪師だったと伝わっている。

上述したとおり、仏教僧団では先に出家した者が優先される。世俗の身分は王族である釈迦の親族に比べて、優波離は劣る。しかし、先に出家したことで仏教僧団内では、釈迦の親族より優波離が優先されることになるのである。

組織のメッセージとしてのリーダー選びとその伝承

人事は会社のメッセージと言われることがある。誰を昇進させるのか、何を評価するのか、それらによって会社の意思を表明するのである。釈迦が優波離を先に出家させたのは、まさに仏教僧団としてのメッセージだと言えるだろう。

アンバパーリーや優波離の例が示すように、組織が大事にする価値観を体現していた釈迦。パーパスを実現するための組織を作り、ルールや方針を定め、それらを浸透させる仕組みを作る。そして、リーダーが率先垂範し、組織にとってのあるべき姿を示す。釈迦は現代にも通ずる組織運営を実践していた優れたリーダーだったのである。

ただ当初のリーダーが率先垂範を実践していたとしても、組織が永く続き、リーダーの代替わりなどが繰り返されれば次第にメッセージは薄れてしまうだろう。そこで仏教僧団では、価値観を体現する釈迦の姿を伝え続けてきた

釈迦の入滅後、釈迦の十大弟子の一人である大迦葉が、釈迦の説いた教えを確実に後世に伝えるために、500人の悟った弟子(阿羅漢)を集め集会(第一結集)を開いた。釈迦の教え(経)と仏教僧団のルール(律)は口伝しか残っていないため、それらを集会で確認しようとしたのである。ちなみに、五百羅漢像はこの第一結集に参加した弟子たちを表したものである。

また先述した理髪師の優波離は律の伝授に大きな役割を果たしたことで釈迦の十大弟子に数えられている。第一結集において律をまとめる際に、それを熱心に学び、理解の深かった優波離の諳んじた内容を500人で口誦しながら確認したと言われている。

優波離の誦出をもとにまとめられた律は、内容だけではなく、そのルールが制定された由来も一緒に伝え残している。由来を通じてそれを制定した釈迦のエピソードも受け継がれていったのである。釈迦が平等を重視したこともこのようにして伝承されていった。
このような断片的なエピソードを繋ぎ合わせて後に仏伝(釈迦の伝記)が作成され、より明確に釈迦の姿が受け継がれていくことになる。

率先垂範する優れたリーダーであった釈迦の姿勢を語り継ぐことで、仏教僧団は組織の価値観とルール、そしてあるべき姿を組織内に伝播させていった。そして更に、リーダーが替わったあるいは不在になったとしても、その姿勢を伝承していった。このことが2500年にも亘り続くだけの強固さを組織にもたらしていったのである。


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