キャリアの第2ラウンドは「燃えるテーマ」を―2度のIPOを成功させたSpeee COO田口政実氏のキャリアと経営観

グロービス経営大学院の卒業生であり、2016年のアルムナイ・アワード受賞者でもある株式会社Speee COOの田口政実氏。田口氏は、2016年4月に株式会社エディアをCOOとしてIPOに導き、続く2020年7月にはSpeeeのIPOに成功しました。エディアからSpeeeへと、自身のキャリアの第2ラウンドをどのように描いてきたのか、そして業種の異なる会社の経営に携わるなかで磨かれた「経営観」についてお聞きします。(後編はこちら

IPOをしたエディアに自ら区切りをつけ、新しいチャレンジへ

田久保:前職のエディアをIPOさせた後、しばらくして会社を辞められました。ご苦労の末、IPOさせたばかりの会社をどうして辞められたのでしょうか。

田口:エディアでIPOをやりきったら新しいチャレンジをしようと決めていました。長く在籍していたので愛着もありましたが、子離れする良いタイミングではないかという感覚もありました。

キャリアをスタートしたのはバンダイナムコという会社で、モバイルインターネットが生み出す新市場の萌芽期でした。以来20年近く、新市場の開拓に向きあってきましたが、エディアをIPOして気づいてみると、スマホやクラウド、SNSの普及など、追いかけていた未来がもう目の前に広がっていることに気づいたのです。そこで改めて、「挑戦の第1ラウンドが終わったのでは」という思いになりました。

田久保:自然に終わったのか、それとも自らあえて区切りをつけにいったのか。どちらでしょうか。

田口:自然な流れだったと思います。結果が出て、責任も果たして、自分の中に一定の満足感がありました。ただ、そのまま続けるだけでは情熱が湧かないという思いもあったので、自分でピリオドを打ったという側面もあるのかもしれません。

田久保:次に進むには、後ろ髪を引かれないように決着をつけるのが非常に大切です。田口さんは自らそれをされたのですね。

キャリアの第2ラウンドも、「燃える」テーマに挑戦したい

田久保:Speeeとの出会いのきっかけは?

田口:幸いにもいくつかお声がけをいただいていたのですが、過去の延長ではないことをやりたい気持ちがありました。経営者の方々ともお会いしているうちに、人材業界の方を通じてSpeeeのCEO大塚英樹と出会ったんです。

田久保:Speeeへ行こうと思ったのは、何が決め手だったのですか。

田口:やはり燃える仕事だということですね。キャリアの第2ラウンドも、骨太なテーマに取り組みたいと思っていました。まだ勝ち筋の定まっていない新しい市場、粗削りな問題がゴロゴロしているような場所で、大きな責任を負って勝負したいと。

これまでずっとテックセクターに身を置いて、ビジネスが急速に変化していく様子を見てきたのですが、それとは対照的にレガシーな世界があることも気になっていました。デジタルの社会実装や、デジタルを前提とした新しい社会の創造に関心を持つようになっていたのです。当時は今ほど注目されていませんでしたが、DX(デジタルトランスフォーメーション)ですね。Speeeは、データを活用してビジネスのアップデートに挑んでいる会社で、方向性が一致したというのが理由の1つです。

もう1つは人です。経営に携わる以上、会社で起きている問題の当事者、責任者である必要があります。本気でそう思えるためには、私自身がちゃんと「その会社の人」になれるかが問われます。ベンチャー企業の経営に携わる以上、間違いなくいろいろな苦労をしますよね。そんな時、背中を預け合う関係を築ける仲間かどうか。もちろんお互いにですが、そう思えたことが大きかったと思います。

田久保:ベンチャーでは「戦友」というほどお互いの距離が近くなります。ですが、人に入れ込むほど、理想と違う面が見えたときに離れるリスクがありませんか。距離感をどうとるのがいいと思いますか。

田口:仲間との距離感に悩むことはありません。経営イシューの解決を、経営チーム全体で担保出来るのであればどういう形でも構わないと思っています。例えば、CEOの得意分野から逆算してCOOのポジショニングを考える。あるいはCFOがB/Sの右側から会社を見ていれば、COOは左側から見る。お互いに補完し合いながら整合性を取っていくような作業だと考えています。

田久保:人格的に何かというより、ビジネスのお互いに得意なところを持ち寄り、足りないところを補ってパズルを完成させればいいと。

田口:その通りです。その上でお互いに越境しながら重複する部分を作り出せれば、それがチームワークの糊代となって会社はさらに強くなると思います。

意図的に会社の重心を動かしながら、同時にバランスをとる

田久保:田口さんにとって、Speeeでの新しいチャレンジとは、どんなことでしょうか。

田口:COOとして事業面で結果を出すとか、上場企業水準のP/LやB/Sをデザインしていくとか、そういった基本的な役割は以前と変わりません。しかし、その実現に必要とされた具体はいろいろと変化したと思います。そもそも前提となる事業特性が違うので、戦略、HR、管理会計など、会社のOSをアップデートする為の打ち手はこれまで手掛けたものとは異なるものになりました。

田久保:それでは、経営者やCOOというポジションにおいて改めて大事なものとして強化したのは、どんなことでしょうか。

田口:私が抱いている経営観は立体的で、時間軸をもった流動的なものです。ですから、経営について問われたとき、どの角度から語るか、どの時点を語るかで、違う話になります。

それでもあえて1つ挙げるとすれば、やはりバランス。正確には動的バランスを意識しています。目標に向かって能動的に会社の重心を動かしながら、同時に安定させ続けるのが、経営者やCOOの重要な仕事だと考えています。

そういう経験を重ねて心に留めているのは、「不偏であること」です。AかBかを選択する意思決定はもちろん重要ですが、選択が思考停止であってはなりません。現実的な解はそのどちらにも無いことが多いので、安易な理解に着地しない、いずれかの極に寄りかかって楽をしないよう努めています。

仕事をしていると一見詰んだ盤面にぶつかってしまうことがありますが、それも経営者にとっては終点ではなく始点です。どういう状況でも諦めないで考え続け、イノベーティブに打開していく。それが自分なりの、経営者としてのマインドセットになっていると思います。

田久保:アウフヘーベン(矛盾する2つのものを一段高いレベルで統合し解決すること)といいますか、対立軸を持ってきて議論をして、さらに高みを目指す。安定的に見える状況でも、あえて極のことを考えて、バランスを崩し、思考の行き来を止めない。そういうイメージでしょうか。

田口:おっしゃる通りです。意思をもって偏りを生み出さないと、会社は前進できません。とはいえ、どこかに偏れば、組織やオペレーションなど、あちこちに不整合が出てバランスが崩れてきます。そこで倒れないようにし、新たな整合を生み出す。極に向かうリーダーシップと支点を探るマネジメントを交互に発揮するような、そういうイメージを持っています。

田久保:なるほど。だからあえて極に振ったものを2つ考える。バランスを取って思考するのだけど、その振り幅は大きい方がいい。同じ結論に辿りついたとしても、意味が違ってきますね。

田口:はい。変革のスピードも違ってくるのではないかと思います。振れ幅が小さすぎると、取るべき新たな支点がその外にあった場合に気づけません。踏み込みが浅いと、結果的にチューニングに時間がかかることが多いです。

時間軸も、AとBのどちらがいいのか分かりにくいときは、それぞれが行き着く先の未来を想像してみます。そうすると選択肢の特徴がはっきりして、進むべき方向が見えやすくなります。その上で実際に許容する変革の振れ幅は、その時点での会社の体力や、総合的なマネジメント力を考慮して決めていきます。

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