自らの経営観に照らし合わせ会社を「診る」―Speee COO田口政実氏

注目のベンチャー企業Speeeで自身2度目となるIPOを成し遂げた同社COO田口政実氏へのインタビュー。後編では、経営を通じて磨かれた「経営観」に迫ります。また、「経営観を養った」というグロービスでの学びは、経営の現場でどう生かされているのでしょうか。(前編はこちら

変革の成功は「変えてはいけない強み」をグリップすること

田久保: 具体的なことをお聞きしたいのですが、Speeeの仕事を通じて、どんな気づきや学びがありましたか。

田口:Speeeは、ここ数年で事業も組織も急拡大しています。その成長についていけるように経営の仕組みをアップデートしていったのですが、ベンチャー企業を変革するときに最も重要なのは、「変えてはいけない部分を正確にグリップすること」だと考えています。その会社を最も「その会社」たらしめているものは何か。強さの源泉とも言えるそれを理解することに努めました。

私が参加したのは、会社が成長の踊り場に差し掛かったタイミングだったのですが、努力がリニアに結果に繋がっていかない状況では、不安に駆られ、疑心暗鬼になってやるべきことに集中しにくくなります。こういう時こそ、正しいことを正しいと言ってあげることが大切です。

自分のように外から来た人間が気になる点を探し始めると100も200も出てきてしまう。でも、それをあげつらったところで何の価値も出せません。成長過程のベンチャーではむしろ健全な姿だからです。逆説的ですが、変えてはいけないことの方が変革のセンターピンになります。

Speeeの場合は、活躍している社員がみんな、創業経営者たちにどこか似ていると気づいたのが手掛かりになりました。彼らから引き継がれたそのDNAが、SpeeeをSpeeeたらしめ、強みを生み出す要として機能していたのです。事業特性や戦略と、独自の企業文化との関係性を把握してからは、自社の経営を洞察する精度が格段に向上しました。そこから、事業ポートフォリオの広がりや組織の拡大にともなう、成長過程で生じていたズレを修正していきました。新たなステージに対応できるように、「Speeeらしさ」を戦略的に語り直す作業だったと思います。

田久保:それは田口さんにとって3社目だったというのが大きいかもしれません。2点だとシーソーゲームにしかなりませんが、三角形になると何をやるべきかが見えてくる。

田口:そういう意味では、グロービスでの学びもその一角になっていると思います。ケースメソッドと同じで、仕事でも最初に「この状況や環境で、この事業特性だったらこうする」というのをシミュレーションしますよね。それを軸に社内の問題を分散的にプロットして、外れ値を探すような作業をいつも頭の中で行っています。外れ値をみつけたら、それが何を意味しているのか、慎重に評価します。外から来た人はこれを解消すべき問題点だと思いがちですが、実際には「その会社らしさ」の正体を示唆していることがありますので。

三角形の話もそうですが、自分の中にある経営観に照らした時に何が見えてくるのか。自分が探しているのは、その会社の才能やアイデンティティ。それをどれだけ生かせるかが大切だと考えているのです。

田久保:クラスでケースの読み方の話をするのですが、最初の1ブロックを読んで年代と業界を理解したら、一度ケースを閉じなさいと伝えています。そこで仮説を立て、その仮説とずれたところに注目しなさいと。ずれが勝ちにつながっていれば強みだし、負けにつながっているのなら弱みという話になる。そういったことをリアルでやられたのですね。

田口:そうだと思います。今までの会社での経験も、グロービスで学んだ事例研究もすべて役立っています。お医者さんが「診る」に近いイメージで会社を診て、何が本当の問題なのかを洞察する能力を磨いているのだと思います。

プロ経営者とは目指すものではなく、状態である

田久保:そういうことができる人が「プロ経営者」なんでしょう。そう呼ばれることに抵抗はありますか。

田口:自分にとってプロというのは、「徹底した目的意識で仕事ができる人」だと解釈しています。その意味であれば光栄ですね。一方で、「経営者という職業」で食べている人と定義すると、少し違和感があります。

そもそも経営が目指すのは、「経営しなくてもいい状態」なので、目的ではなく手段や付帯条件に近いものだと感じています。結果的に良い経営が出来ている時とそうでない時があるだけなので、これを専門的な職業として標準化するような言葉の響きには、ちょっと腑に落ちないところがあるのかもしれません。

田久保:カネボウにいらした知識賢治さんは、おそらく「プロ経営者」を目指されたことはないと思いますが、結果として稀有なプロの経営者であると認められた。外から入ってフルコミットして結果を残して、あるフェーズになったら元の筋に戻して出て行く。プロ経営者とは、そうありたいですね。

田口:そうですね。そういう覚悟で向き合っていたいです。

グロービスで経営観を養い、具体と抽象を行き来する力をつける

田久保:田口さんの経営において、グロービスの学びやネットワークは、どんな影響をもたらしましたか。

田口:グロービスで取り組んだのは、自分なりの経営観を形づくることだったと思っています。ケースを触媒に自分の経験を分解し再構築し、会社を見る目を養ったのだと。卒業した今も、ケースを媒介せずにですが、日々の仕事で同じことをしているので、新たな学びが蓄積し続けています。

田久保:パターン認識力のようなものが上がったということですか。

田口:具体と抽象を行き来する力が鍛えられたと言うべきでしょうか。日々の仕事で直面するさまざまな出来事から、抽象化された1つのことを理解する。次はそれを別の10のことに応用できるようにしたいのです。現場から抽出した学びを、別の現場で必要とされる具体的な打ち手に還元する。そういう力を養った時間だったと思います。

田久保:田口さんの今後のチャレンジは?

田口:Speeeでは、リアル産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するというミッションを掲げています。これが新たに取り組んでいるチャレンジですね。転職の時に探していた「燃える」テーマです。それを通じてSpeeeという会社を日本を代表するようなベンチャー企業に育てたい、その一助となりたいと思っています。Speeeの経営チームはとても優秀で素敵な人たちです。そういう意味では、良い仲間に恵まれて自分は運が良かったと思います。

田久保:事を成し遂げた人は皆、「運が良かった」と言います。だからこそ、また次の運を引き寄せることができる。

田口:私たちは、コロナ禍に伴う市場の混乱期にIPOしました。リーマンショック以来という非常事態だったのですが、実はさほど心配していませんでした。私は運が良いですし、(CEOの)大塚も「自分は運が良い」と言っていました。運が良いのが2人もいれば、会社の運も悪くなることは無いんじゃないかな、と。

田久保:田口さんの場合は、学んだことを使い得るポジションにいたことも大きいですね。

田口:それもあると思いますが、学びを構造化できていればどのポジションにいても活かせると思います。MBAプログラムの科目が多いのは、経営を多角的に見るためではないでしょうか。受講中は、ファイナンスを学びながら戦略を、マーケティングを学びながらオペレーションを考えているような感覚が常にありました。そうやって視点の関係性を理解していくと、会社の離れた場所で起きていることを想像する力が身につくと思います。

グロービスは、仕事をしながら通う方が多いですが、先ほどお話した具体と抽象を往復するトレーニングにも適した状況だと思います。もし学んだことが使えないと感じている人がいるとしたら、向き合い方を変えてみても良いかもしれません。

例えば、リーダーシップというものも、一般的には上司的な役割の人が発揮すべきものと思われがちですよね。でも実態は全然違っていて、新入社員や、アルバイトスタッフの方が発揮していることもあります。目の前の状況を自分事にして、それを良くするために努力する。本質はそういう自意識の広がりと情熱なので、ポジションとかは関係ありません。ガキ大将は肩書がなくてもリーダーシップを発揮していますし、会社の偉い人がリーダーシップを発揮できないこともある。

田久保:ジャイアンだけでなく、スネ夫にも、のび太にもリーダーシップはあると。

田口:そうです。リーダーシップやマネジメントは、影響力やポジションと混同して語られることがありますね。そうではなく、あらゆる局面、あらゆるレイヤーで発揮されるべきもので、立場に制限されるものではないのです。

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