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NECのスイス金融ソフト会社の買収 30倍のEBITDA倍率は高いのか?―EBITDA倍率と成長性の関係を考察する

投稿日:2020/10/12

NEC成長戦略下での過去最大の買収案件

NECは10月5日、スイスの金融ソフト大手、アバロクを約2360億円で買収すると発表しました。長く事業売却や人員整理を続けていたNECとしては、2018年から本格化した成長戦略下での過去最大の買収案件となります。

買収金額の妥当性を検討する際によく使われる指標としてEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)倍率があります。これは買収に費やした資金を何年間で回収できるかを示す指標で、10倍ということは10年間で買収資金を回収できることになります。

今回のNECのアバロク買収時のEBITDA倍率は30倍で、10倍が一般的とされる中、NECでは「過去の案件に比べると高額だが、将来の成長性と収益性が期待され、適正な金額だ」、「EBITDAの伸び率は年率15%と予想している」(2020年10月6日、日本経済新聞)と説明しています。何故、成長性が高いと高いEBITDA倍率を容認できるのでしょうか?

EBITDA倍率=企業価値÷年間EBITDAで計算されます。EBITDAは直近期もしくは過去数年間のEBITDA実績値の平均が使われます。今回の買収金額2360億円で、倍率が30倍ということは、アバロクの過去3年間のEBITDA平均値が78.6億円であったということになります。

ところで、企業価値を割増永久年金型キャッシュフローの現在価値計算式を使ってシンプルに計算すると、「企業価値=年間FCF÷(WACC-g)」となります。

FCFはフリー・キャッシュフローで、資本を提供した投資家である有利子負債の提供者そして株主に、企業として制限なく自由に分配できるキャッシュフローです。WACCは資本を提供した有利子負債の提供者と株主がそれぞれ期待する利回り(利息は税引後)をそれぞれの資本提供額で加重平均した、投資家全体としての期待利回りとなります。gはフリー・キャッシュフローの成長率です。投資家に分配されるキャッシュフローを投資家全体の期待投資利回り(マイナス成長率)で割れば、フリー・キャッシュフローの価値、つまり企業の価値が簡易的に計算できます。

例えば、年間フリー・キャシュフローが78.6億円で、WACCが18.33%、成長率が15%とすると、その現在価値=78.6億円÷(18.33%-15%)=2360億円となります。

FCFとEBITDAの違いを見てみましょう:

FCF=営業利益×(1-税率)+減価償却費-投資-増加運転資本
EBITDA=営業利益+減価償却費

ここから、FCFとEBITDAの違いは、税金と追加投資(投資と増加運転資本)の有無となります。ここで、単純化のために追加投資をゼロと考えれば、その差異は税金だけで、EBITDAとは税引前のFCFということになります。

EBITDA倍率=企業価値÷EBITDAの式ですが、
ここで、企業価値=FCF÷(WACC-g)の中のFCFを税引前のFCFであるEBITDAで置き換えると、その割引率であるWACCも税引前のWACCが妥当なので、企業価値=EBITDA÷(税引前WACC-g)となります。

この式をEBITDA倍率の式に代入すると、最終的には、EBITDA倍率=1÷(税引前WACC-g)となります。つまり、EBITDA倍率はEBITDAにかける倍率(これをマルチプルと呼んでいます)なのですが、「割引率-g」の逆数でもあることになります。マルチプル法ではEBITDAに適正な倍率を掛ける、一方割引率を使うDCF法や収益還元法ではEBITDAを適正な割引率を使って割り引くこととなり、同じコンセプトに基づいていることが分かります。この2つの手法に共通する重要な視点は、①事業構造が同じ(WACC=キャッシュフローのリスクに見合った割引率)そして②成長率(g=事業としての成長段階)の2点です。

EBITDA30倍が妥当だとするNECの説明をDCF法とマルチプル法で考える

ここで、一般的なEBITDA倍率は10倍であるが、アバロクの場合には成長性が高いため30倍は妥当であるというNECの説明を考えてみましょう。

アバロクの過去3年間の平均EBITDAは78.6億円、税引前WACCを18.33%、成長率を15%とすると、アバロクの価値はDCF法厳密には収益還元法を使えば、

アバクロの企業価値=EBITDA÷(税引前WACC-g)=78.6÷(18.33%-15%)=78.6÷3.33%=2360億円。

一方、マルチプル法であるEBITDA倍率を使えば、倍率は「1÷(税引前WACC-g)=30倍」ですので、

アバロクの企業価値=78.6億円x30倍=2360億円、と同じ価値になります。

ちなみに、一般的なEBITDA倍率10倍では、そのEBITDA成長率として年率8.33%が期待されているということになります(10=1÷(18.33%-g)⇒ g=8.33%)。

期待成長率が15%だとEBITDA倍率は30倍、成長率が8.3%であれば10倍と大きな差が出てきますが、これはEBITDA倍率に限らず、全てのマルチプルに共通の事象であり、マルチプル法を使う際に比較する類似企業とは前述のように①事業構造が同じ、②成長段階が同じ、である企業群とする必要があるということになります。

  • 斎藤 忠久

    グロービス経営大学院 特別教授

    東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業
    米国シカゴ大学経済学部留学
    フランス・リヨン大学経済学部留学
    米国シカゴ大学経営学大学院修士課程修了(High Honors)
    学位:MBA

    株式会社富士銀行(現在の株式会社みずほフィナンシャルグループ)を経て、株式会社富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所株式会社)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、ナカミチ株式会社にて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役、株式会社エムティーアイ(東証1部上場)取締役兼執行役員専務(CFO)を経て、現在グロービス経営大学院特別教授(ファイナンス理論)。

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