シンガポール出身の社会起業家が考える地方創生とは?【BOUNDLESS/デニス・チア氏】

前半では、日本の地域の魅力に気付いたデニス・チア氏が始めた事業について紹介した。後半は、彼自身が「地方創生」に対してどのように考えているのか、自身の役割やその先に描く夢について話を聞いた。

「地方創生」は、結果でしかない

長川:外国人であるDennisにとって、地方創生とはどういうものでしょうか。

Dennis色々やってみて今思っているのは、地方創生は結果でしかないということでしょうか。様々なことをやった結果として地方が活性化されるので、何かをやってみることが大事なのだと思います。

もう1つは、日本の地方で行うことの中には世界でも通用するものがある。逆も言えます。例えばSDGsに関連する課題は世界中どこにでもある。具体的な話でいうと、SDGsのゴール11は「住み続けられるまちづくりを」ですが、それは地方創生とも言えます。皆が住めるような地域をつくる。森とか海を大事にするっていうのも地方の創生の1つです。

課題から新しい何かが生まれることもありますよね。地域の人口、若者の人口が減っていくと、自然と高齢者や障害者の雇用、そして女性の雇用が生まれたりする。雇用を創出すれば、不平等が減っていく。

最初は地方創生っていう言葉に私も捉われていたかもしれませんが、最近はあんまり気にせず、課題を解決することが地方創生にも、SDGsにもつながる、そんな感覚でやっている気がします。

誰が「地方創生」を担っていくのか?

長川:シンガポールにも地方創生という概念はあるのでしょうか。

Dennisないですね。1つはシンガポールには地方がないというのと、あとは発展の側面が強く、まだそこまで衰退するっていう概念はないのかもしれないですね。

長川:自分の出身地ではない場所で、つまり外部の人間として事業や活動を行うということを、どう見ていますか?

Dennisいつも留学生を束ねて地方へ行っている時に言っていることでもありますが、地方創生は結局、地域の人しかできないと思います。私たちは新しい刺激を与えるとか、もしくは長年同じことやってきている方々に対して違う目線から解決策を提案するといった役割は担えますが。結局やる人は地元の人たちじゃないといけないと思います。

私は「学び」というキーワードを大事にしています。私たちは何もできないかもしれないけど、色々学べることはあると思います。私の役割は、この学びをより多くの人に届ける、ということでしょうか。

長川:地元の人と関係構築をする際に気を付けていることがあれば教えてください。

Dennis現在事業をやっている場所をなぜ選んだのか、よく聞かれます。なぜ北海道の下川町とか浦幌町なのかと。答えは簡単です。私は基本的に、自分から営業しに行きません。なぜか。私が行っても、絶対無理だと知っているからです。

私は必ず誰かの紹介とか、誰かの繋がりがある場所に行きます。そうすると、その人の紹介で私は入れます。例外なのは石巻です。石巻は震災後の繋がりという所で入りましたが、石巻以外は全部、誰かの地元だったり、もしくは移住した人を知っていたり。地域で信頼を受けている人がそこにいるから、そして私がその人を知っているから、入れるということです。

1番関わり方で難しいと思っているのは、地域の人からの私への期待と、私の期待することが違う場合です。地域の人の期待としては恐らく、そんなに高くないと思うんです。それはなぜかというと、留学生連れていくと、とりあえず留学生がいろいろ体験をして、楽しく過ごしてくれればそれでいいと思ってくれているんです。要は、観光として来ていると思ってくれていますから。

でも、私としては学んでもらいたいし、何か貢献してほしい。人を連れてきて、色々と回って「はい、終わり」でいいのかな、というのはいつも自分に問いかけるようにしています。

よくあるパターンは、人を連れてきて観光をして最後に報告会をやって終わり。それは悪いことではないですが、継続性がないので多分、来年やっても同じようなことやって、同じように報告して、同じような内容を報告して終わり、になりますよね。それだと私としては、あんまり意味がないと思ってしまうんです。地元の人は「毎年来てくれればいいよ」と言ってくださりますが、でも私の期待としてはそこで終わらせたくないんです。

この3年間で変えていったことの1つは、何か1つのテーマに絞るということです。全部学ぶのは無理なので、何か1つの課題意識を持って事業をやるのはどうだろうと思いました。

例えば、浦幌町を2年目に訪れた際には、廃校の活用にフォーカスをしました。そうすると留学生も最初からそういう視点で地方を見てくれる。廃校の活用にフォーカスして滞在中物事を見てくれるようになる。1つ方向性ができるわけです。留学生と地元の移住者と行政の3者で廃校の活用について真剣に話し合った。これは結構よかった。今でも浦幌町とは築いた関係が続いています。こういうことを、今後できればビジネス化できるようにしていきたいと思っています。

正直、まだ経験も少なく、ビジネスというものが何なのかわかっていないかもしれません。本当に分からずに起業したので。でも、本当にいろんな方の話を聞いたりとか、インターネットで様々な記事を読んだりしながら、少しずつ自分で感覚を掴めるようにしています。

3つの大切にしていることと、その先に描く夢とは

長川:事業をする時に大切にしていることを教えてください。

Dennis3つあります。1つ目は当たり前ですが、安全第一。次に、地域の声を大事にすること。つまり地域の交流を大事にするということですね。薄っぺらい、観光地だけを回る、私が学生時代にしていたような場にはしません。例えば、私が留学生に「質問があれば直接地元の人に聞いてください、私は知らないから」と言います。そうすることで交流が生まれます。私はただのコーディネーターや通訳。地元の人から学んでほしいんです。

そして最後に、楽しくすること。実は、真面目過ぎる時もありました。そうすると、留学生も「私たちは遊びに来ているのに、真面目な議論だけしている」という感覚を持ってしまうんです。もちろんその議論も大事ですが、やり方は色々ありますよね。

参加するなら、楽しんでもらわないといけない。地元の人は特にそうです。地元の人は、課題を解決したいといよりは、そこで日常生活を送っているわけじゃないですか。そこにいきなり私たちが現れて、「現在存在する地域の課題についてどう思いますか?」と聞いたら、「どういうこと?」ってなりますよね。だから真面目に聞くだけではなく、地元の人にも留学生にも、楽しい場を作って、気付いてほしい。その際に、参加する留学生には私を通してではなく、地元の人と直接話してほしい。

長川:今後の夢について、教えてください。

Dennis今まで参加した留学生が、学んだことや経験を自分の国に持ち帰って始めたことに参加することです。嬉しいことに、同じようなことをやりたいという参加者が何人かいるんです。1人はチリからの留学生で。彼は大学院で日本に来たので、日本語は全く話せませんでしたが、参加してくれました。もう帰国しましたが、チリでも色々な社会問題があるから似たような活動をやりたいと言ってくれています。私はぜひそれには参加したいんです。そうやって世界中を旅しながら、参加者に会いに行く、それが私の夢です。

長川:そうやって得た経験を、いつか本などにまとめたら素敵ですね。最後に、デニスのように外から地方に関わりたいって思っている人は外国人でも、日本人でもいると思います。もし何かメッセージを送るとすれば、どんなことを伝えたいですか。

Dennis楽しいからぜひやってほしいです。こういうことを楽しくやれば、自然と様々な地域に人が流れるようになっていろんな課題が解決されると思います。そして、こういう体験とか学びを、より多くの人に届けてほしいなと思います。

インタビュー後記

コロナの影響で人の移動が制限される中で、同じような人の移動ができるようになるまではしばらく時間がかかるだろう。一方で、遠くにいる人々がインターネットで繋がれる心理的な障壁が引き下げられた今だからこそ、世界と地方を繋げられる新しい取り組みが始まる予感がしている。今後もシンガポールの若き社会起業家である彼の挑戦を、追っていきたい。

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