大企業を使い倒すために、3つの視点で思考を変えよう

大企業の中でがんじがらめになり、「やりたい仕事ができない」ともがいている人は多いだろう。そこで、自身も大企業で働いた経験を持ち、現在はグロービスの講師として大企業の人材育成にもたずさわる下道陽平が、NTTグループ横断有志ネットワークO-Denのイベントでお話しした、「大企業を使い倒すための思考と行動」の内容を前後編でお伝えする。

大企業を中と外から見る

下道:まず簡単に自己紹介させていただきます。私はいま、「グロービス学び放題」というビジネスナレッジを動画で効果的に学べるサービスのBtoCの事業責任者をしています。もともと、新卒で大日本印刷に入り、その後、コンサルティングファームでコンサルタントとして活動し、グロービスに入社しました。

最初の職場ではまさに当事者として大企業の中でもがき苦しみ、その後のコンサル時代は、クライアントの大企業にてプロジェクトにアサインされた方々と共に奮闘しながら、様々なアドバイスをさせて頂いたりしていました。

今は、事業責任者として働く一方で、経営戦略やマーケティングの領域の講師として、大企業の研修やビジネススクールのクラスに年間80回くらい登壇しています。ビジネススクールにはいろんな企業の方が1クラス30人くらい集まります。その方々に、3カ月間でいかに成長して頂くかが、私のミッションとなっています。

これらの経験を合わせながら、もし大企業で働いていた時代に戻ったとしたら、こうしておけばよかった、もっと大企業を使い倒すことができていたんじゃないか、ということを本日は共有できたらと思っています。

大企業の中で、ただ空回りしていた

さて、新卒で入社した大日本印刷という会社は、当時1兆6,000億円くらいの売り上げで、従業員は4万人くらいいました。毎日終電まで仕事をし、土日も会社の人たちとフットサルをしていたので、会社の人は家族みたいな存在でした。

そこでどんな仕事をしていたか。最初の6年間は顧客企業のマーケティング支援で、その後の2年間は事業開発部門で海外戦略や新規事業戦略にたずさわりました。会社の中での課外活動としては社内ベンチャーの企画を考えたり、国内外のMBAホルダーのネットワークをつくるなどしていました。

余談ですが、体力的につらかったのが、社内駅伝で事業部の代表選手になったことです。一番モチベーションの高い新卒1年目で、「下道君は仕事をやらなくていいから、走って」と言われて。シーズンになると毎日日中3時間くらい会社を抜けてトレーニングをし、皇居の周りを1周して帰る日々が数年続きました。

まさに全身全霊で会社にコミットしていたわけですが、次第に大企業ならではの動きにくさを感じることが増えてきました。当時、私は「なぜ経営陣は自分の提案を聞いてくれないのか」「なぜ経営陣はリスクを取って意思決定してくれないのか」とよく憤っていましたね。

つまり、自分には矢印が向いていなかったんです。がむしゃらに仕事をし成果もあげ事業部の最優秀賞を6年間で3回もらいました。同期の中ではトップ評価も頂いていましたが、今改めて考えると、「戦略的に考え動く」ということは、ほとんどできていなかった。もしもっと戦略的に考え、動くことができていれば、もっと大企業を使い倒すことができていたのではないじゃないか。今はそう思います。

3つの視点で思考のブレイクスルーをしよう

大企業を使い倒すことを意識しながら、戦略的に考え動く。結局それってどうしたらいいのか――。思考と行動の2点から今日は皆さんに共有できればと思います。

まずは思考のブレイクスルーをしてみましょう。「大企業を使い倒す」からには、大なり小なり皆さん自分がやりたいこととか自分がなりたい姿というのが恐らくあると思います。ただ、多くの場合、それは1人ではできないでしょう。それでは誰が共感・協力してくれたら組織の中でその機会を掴むことができそうか。自分にその機会を任せてもらうには、自分はその人にとってどんな存在であると認識してもらえばいいか。

非常にシンプルなフレームワークにしてみました。考え方のフローは、「①自分がやりたいこと、なってみたい姿は何か?」「②誰が共感・協力してくれればその機会は掴めそうか?」「③自分がどんな存在だと認識してもらえばいいか?」。

事例としてこれを大企業時代の私自身に当てはめてみましょう。新卒で入社し、マーケティングの仕事を5~6年した頃、海外戦略の部門に異動したいと考えるようになりました。グローバル戦略の担当として自社を発展させる仕事がしたかったからです。そのためには事業部長に納得してもらわないとこの異動は叶いそうにない。では事業部長は自分がどういう存在だったら納得してくれるのか。さすがに戦略構築はできないといけないだろう。さらに、英語をある程度使えないといけない…。非常にシンプルですがこうやって思考していきました。

皆さんもまずは自分でこの3点を言語化してみてください。そして3分経ったら周囲の方と3人1組のチームになって、言語化した内容を共有してみましょう。声に出して共有することで自分に対してのコミット感が高まり、聞いている方は他の人の理解が進むという効用があります。それではお願いします。

<ワークタイム>

経営学の考えをキャリアに応用する

今、皆さんに使っていただいたフレームワーク、実はマーケティング戦略を構築する際の非常にベーシックな考え方のプロセスを踏襲したものなんです。

「①自分がやりたいこと、なってみたい姿は何か?」は、環境分析から市場のチャンス、機会を発見していくこと。「②誰が共感・協力してくれればその機会は掴めそうか?」は、顧客をセグメンテーションし、ターゲティングを行っていくこと。「③自分がどんな存在だと認識してもらえばいいか?」は、ターゲティングした相手から魅力的に見えるようなポジショニングを設計すること。

これは非常にトラディショナルなマーケティング戦略の考え方のフレームワークです。これを、個人のキャリア、個人の仕事の進め方に応用して考えてみました。

普段、マーケティングの仕事をされている方であっても、自分自身を製品やサービス、ソリューションと例えて、マーケティングについて考えたことがある人はあまりいないと思います。

これこそが、思考のブレイクスルーの1つのポイントなんですが、伝統的なマーケティングの手法というのは皆さんの実務だけではなくて、皆さん個人のキャリアとか人生を考える時にも応用することができるということです。

ところで、皆さんはクレイトン・クリステンセン教授をご存じですか?ハーバードビジネススクールの看板教授で、『イノベーションのジレンマ』とか『ジョブ理論』といった著名な本を多数執筆しています。

つい先日、そのクリステンセン氏が亡くなり、著書をあらためて読み返していたところ、『イノベーション・オブ・ライフ』という本の中で、クリステンセン氏が非常に重要な示唆を与えてくれていることに気付きました。

この本は、クリステンセン氏ががんの闘病をしていた最中、化学療法の副作用で髪が抜け落ちた状態で、卒業間際の生徒に向けて行った最後の講義の内容をまとめたものです。命に関わる病気にかかったクリステンセン氏は、講義の中で、経営理論ではなく「経営理論を自分に当てはめることを通して学んだ内容」について語り始めます。「多くの企業は経営学の考えを使って戦略を練り上げ、ビジネスを推進していく。実は、経営学の考えは我々の人生にも適用できるんじゃないか」ということを言っています。

経営学というのは、長い歴史の中で非常に優れた学者や経営者、コンサルティングファームの人などが日夜努力をしながら積み上げ、洗練していった理論です。であるならば、実は自分の人生を考える時にもこれらの考え方を使うことができるのではないか――クリステンセン氏の言葉と重なりますが、これこそが、私がお伝えしたかったことです。

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