エース依存では甲子園で勝ち抜けない?「トレードオフ」を考える

今夏の全国高校野球大会は、大阪府代表の履正社高校の初優勝で幕を閉じました。今大会で大きく注目を集めたのは、エースの起用法についてです。高校生史上最速を記録した大船渡高校の佐々木投手が、岩手県予選の4回戦、準決勝と投げ過ぎた疲労を考慮して決勝戦を欠場、結果として同校は敗退したことが論議を呼びました。

高校野球の大会は短い期間内にトーナメント方式で行われますので、勝ち進んだチームは必然的に連戦となります。この連戦による疲労、特にピッチャーが連投となるのをどう乗り切るかというのは、昔から甲子園で勝ち抜くための大きな課題でしたが、佐々木投手の一件で改めてクローズアップされたのです。

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一般に、何か一方を追求すると、別の何かを失わなくてはならない状況のことを「トレードオフ」と言います。チームに傑出したエースピッチャーがいるとき、短期的にはとにかく彼を投げさせれば勝つ確率は上がりますが、その一方で疲労の蓄積や故障の危険性は増します。かといって、エースのコンディション維持を追求して休ませながら起用していると、今年の大船渡高校に起こったように、彼が登板しない時に敗退の可能性が高まることを受け入れざるを得ません。

ビジネスにおいても、こうしたトレードオフの状況は頻繁に発生します。たとえば、ある新商品の広告宣伝をしようという場合、テレビCMは多くの人の認知を一度に獲得しやすいですが高額のためそう大量に打てませんし、詳しい情報を届けるのには向いていません。一方、ダイレクトメールは比較的低単価で送れ、詳しい情報を載せることもできますが、そもそも開封してもらえる可能性が小さいなど受け手にインパクトを残すのには向かない手法です。予算の枠内でどんな効果を追求して広告手段を選択するかは、なかなか難しい問題となるでしょう。

トレードオフの状況を打破する方法としては、まずは資源をさらに調達することが挙げられます。上の広告の例で言えば、予算がもっと潤沢であればテレビCMだろうとダイレクトメールだろうと思う存分打てばよいとなります。高校野球においても、エース一人では限界があるならエース級を複数育てようということで、実際今大会は上位まで勝ち上がったチームのほとんどが複数の投手を起用しています。優勝した履正社高校では、準決勝で完投してエースの連投を回避させ、決勝戦でも終盤にエースを救援した岩崎投手が超“二番手”級の結果を残したことが大きく貢献しました。

しかし、現実にはそうそう資源を追加投入できるケースばかりではありません。制約がある中でいかに最大の効果をあげていくかがマネジメント(監督)の腕の見せ所です。

また、トレードオフの状況で何を考えて選択しているかをもう少し細かく見ると、単純に「ある選択肢のメリット」だけでなく、「もう片方の選択肢で生じるデメリットを負わなくて済むこと」を込みで考えているものです。高校野球の例で言えば、「エースを連投させたい」というとき、単に「エース連投で目先の勝つ確率を上げたい」だけでなく「休ませて負けてしまったときのマイナスを避けたい」という心理も同時にあるわけです。この辺りの見積もりの難しさが意思決定の課題と言えます。

近年、多くの有力校でエースの酷使を避ける傾向になってきたのも、単に「エースを休ませることで故障しづらくなる」という直接のメリットだけでなく、「連投を選択して目先の一戦を勝っても疲労が残って次以降の試合で負けやすい」、「仮に故障してプロなど次の進路へ行けなくなることの損失が大きい」といった感覚が定着してきたことが背景にあるでしょう。

皆さんの周りのビジネスシーンでも、トレードオフの状況があったとき、これをどのように評価し、打開していくべきか考えてみると面白いでしょう。

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