理念経営への過信が大企業のミドル層にとって危険な理由 

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VUCA時代の理念経営への要請

男性1980年代に日本的経営が謳歌された時代、そして2000年代に日本企業がグローバル経営に舵を切り始めた時代、それぞれの時代で理念経営がクローズアップされてきた。そして時代は今、以下のような新たな潮流の中にいる。

1) 企業の存在意義の変化
グローバル環境的には、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)やESG (Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)に着目した投資の高まりなど、従来以上に企業の存在意義への注目度が高まっている。

2) 働く側の意識の変化
最近の若者は社会に対する価値貢献の意識が強く、それが実感できる企業を選ぶ時代だ。また、日本における深刻な人手不足は、極力働くための制約をなくし、企業が譲れない価値観に共感した人材にいかに生き生きと働いてもらえる環境を用意できるかが重要になってきている。それが変化の激しい時代に対応するために必要な、自立的な組織文化の土壌にもなるからである。

3) 経営のパラダイムの変化
テクノロジーが指数関数的に進化しているいま、自前主義を捨て、共有されたワクワクする未来に向かって企業を超え協業していくオープンイノベーションをためらっていては、複雑で困難な社会課題は解決できない。さらに、企業のブランディングも、魅力的なプラットフォームに集まってくる顧客が体験価値を通じて作っていく時代である。

これらVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)時代の新たな文脈において、自社の社会的存在意義や価値観を再定義し、共有し、発信していく必要性が従来以上に求められてきている。

では、従来までの理念経営に比べ、より留意すべきことは何であろう。筆者は3年前、『変革型人事入門』の理念編で書いたポイントがより重要性を増していると感じている。

多くのステークホルダーが利益実感を持てる理念経営へ

企業の経営課題の原因を掘り下げていくと、その多くは人の意識や能力・スキルの要因に行きつく。したがって、その根本原因への対策は、理念に基づく採用や人材育成、評価、日々のコミュニケーションを一貫して継続できるかどうかを抜きにしては考えられない。時代によって文脈は違えど、必然的に理念経営に向き合わなくてはならない理由はそこにある。

ここで大事なのは、企業の経営者だけではなく、企業に属するすべてのメンバーが“主体的”に理念経営に取り組むことが、最終的に各人の利益にもつながってくるのを腹落ちさせることである。ただ、どうしても「理念経営は経営者だけの仕事だ」という意識を働く側の人間は持ちがちだ。

加えて過去と違うのは、社員の動機づけなど、理念経営を対社内に向けた影響(いわゆるインナーブランディング)を意識するだけでは十分でないことだ。社員だけでなく、顧客や投資家、さらに協業できるプレイヤーなど、多くのステークホルダーを巻き込み、共感を得られなければ、複雑な社会課題に対して継続的な価値創造が実現できない時代である。このように多くのステークホルダーにとって利益実感を持てるものでなければ、今の時代における理念経営の目的は果たせない。

しかし、毎年多くの企業の理念のお手伝いをしていると、理念経営に対し、過去の常識に囚われた教科書論的理解に止まり、今の時代に求められる本質に対して思考停止したり、有効なアクションが起こせていないと感じることが多い。

そこで本連載(全5回)ではあえて「理念経営の常識を疑え」というテーマで、特に大企業のミドル層によく見受けられる常識の呪縛について考えてみたい。

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